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healing light

「未来!」


未来の上体を起こし、頭を手で支える。

未来の服は所々が焼け焦げ、全身の至る箇所に火傷の痕が見えた。


腕輪の力で耐久力が増した俺とは違い、未来は生身の、それも小さな少女だ。

焼けつく空気の熱風でさえ、全身に浴びてしまえばショック症状を起こしてしまう。


「セナ…にいちゃん」


「未来! 大丈夫か? しっかりしろ。今病院につれていってやるからな!」


未来を抱え、抱き上げる。


「ごめん…セナにいちゃん……」


「なんだ? どうした?」


俺の問い掛けに未来は苦しそうに言葉を紡ぎ出す。


「先に…アイちゃんに会いに行ってるね……」


「バカ! 冗談でもそんな事言うな!」


「エヘヘ……怒られちゃった……」


荒い息づかいで、未来が精一杯の笑顔を見せる。

一刻の猶予も許されない。


俺は意識を腕輪に集中し、力の発動を試みる。

全速力を出せば、救急車が来るよりも早く病院に辿り着けるハズだ。


「セナにいちゃん……」


「ちょっと静かにしてろ。舌かむぞ」


「だいすき……」


そう言うと、未来はがくりと首を横に向け、それ以上言葉を発しなくなった。


絶望が頭をよぎる。


「未来! オイ、未来!」


焦りと苛立ちから未来の小さな身体を強く揺さぶってしまう。

だが何度呼んでも返事はなく、消えゆく体温と共に肌から生気が失われていく。


「くそっ……!!」


まだ……まだ間に合うハズだ。

俺は跳躍体勢に入り、飛び立とうとする。


「お待ちください」


不意に静かな、だが力ある言葉が俺を呼び止めた。

振り向くとリザが立っていた。


「リザ……」


「私がみます。彼女を横に」


「助け…られるのか…?」


「私の命に代えても」


「……」


肯定も否定もできず沈黙する。

だが今から病院に連れて行ったとしても……。


賭けるしかない。


俺はただそっと未来を地面に横たえる。

リザはひざまずくと、祈るように手を組み、呪文の詠唱を始めた。


「……光よ 万物の力よ 今ここにひとたびの集いを」


無数の光の玉が辺り一面に現れ、リザの周りに集まっていく。


「罪なきこの者に 汝らの祝福を与え給え」


光がリザの手に収束し輝きを増す。


「癒光聖照 (ヒーリング・ブレス)」


柔らかな光がリザの手からこぼれ落ち、未来の身体を包み込む。

光に溶け込むように火傷が薄らぎ、身体中の傷が消えていく。


すべての傷が癒えると、未来の顔に生気が戻り始めた。


「う…」


未来がか細く小さなうめき声を上げる。


「み、未来…!」


待ちきれず、未来の肩をかけて揺さぶる。

未来はゆっくりと目を開け、俺の顔を見た。


「セナ…にいちゃん…?」


俺の世界の闇が晴れ、心の中に光が広がっていくのを感じる。


「未来! 未来!」


堪らず未来を抱きしめる。


「よかった…本当によかった…」


「痛い……痛いよ、セナにいちゃん……」


「離してやるもんか。変な冗談を言ったバツだ……」


少し困ったような声を出す未来を、俺はただ優しく抱き締め続ける。

その横で俺達を眺めているリザが、少しだけ笑ったような気がした。


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