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Opening of the Gate

その日は海を眺めていた。


吸い込まれそうな蒼穹と、水平線の彼方まで広がる海。

いつもと空の色が違うように感じるのは、空気が澄み切っているせいだろうか。

海はまぶしいくらいに太陽の光を反射させていた。


のどかな海辺の町は、車の音一つせず、穏やかなさざ波の音だけが聞こえてくる。

別に大した理由があって海に来たわけじゃない。休日なのに、いつもつるんでいる奴らが用事があるという事で、一人する事もなく、せっかく天気もいいから遠出でもしてみるか

というただの気まぐれだった。


海を選んだのは、海でも見ていたら将来について、何かいい考えでも浮かぶんじゃなかろうかという他力本願的な思い付きだったが、後から考えてみれば、別に山でもよかったのかもしれない。

海は広くて大きかったが、自分の将来についての良い考えなど思い浮かぶ事もなく、ただ、コンクリートの堤防にヒジをつきながら、海を眺めているだけの時間が流れていった。


だが、雄大な自然は見ているだけでも心が洗われるので、あながち無為に時間を浪費しているだけだとも思わなかった。

本当は将来の事なんて二の次で、単に海が見たかっただけなのかもしれない。

いや、この際、もうそういう事にしておこう、などと後付け的な理由を考えていた時に、


――それは起こった。


水平線の彼方まで続いていた海上の空間が突然裂け、眼前に大地が広がっていく。

何かの見間違いか、蜃気楼か何かかと思って目をこすって凝視してみるが、大地は消える事なく、視界の先に確かに存在している。


「何だアレ……?」 


何が起こっているのか頭の認識が追いつかず、ただそのまま、大地を眺めていると、その方向から何か大きな鳥のようなものが飛んでくる。その大きな鳥から少し離れて、小さな鳥が飛んでいるのも見えた。

突然、大きな鳥を中心に爆発が起こり、小さな鳥が煙を上げながら海に沈んでいく。


「なっ……鳥じゃない……」


その姿は次第に大きくなり、肉眼でも詳細がわかるようになってきた。

それは、現実では見た事もないが、映画やゲームではよく目にする、架空の生物、

―竜― そう呼ばれる存在と、外見上の特徴が酷似していた。


だが、現実にそんな生き物がいるハズがない。きっと夢でも見ているのだろう。そう思いながらも、恐怖と興奮で脈打つ心臓と、握りしめた拳の感覚が夢でない事を伝える。


「何が一体どうなってるんだ……?」


自分の将来が開ける代わりに異世界が開いたのか……?

そんなシャレにもなってない事を考えている間に、竜の姿はどんどん大きくなっていく。


「…………って、こっちに向かってきてるのかよっ!?」


下手に逃げ出すと見つかってしまいそうだったので、急いでその場にしゃがみ込み、

コンクリートの壁の影に隠れた。


(頼むから通り過ぎてくれ……!)


そんな必死の願いも虚しく、翼のはためく音と地響きで、竜が近くに着陸した事がわかる。

動悸が異常なほど早くなり、頭に血が逆流して、脳が圧迫されるような感覚に陥った。

……ど、どこに降りたんだ……?

恐る恐る壁から顔を覗かせて、竜の居場所を確認する。


(………!!!)


一目見て、まずその巨体に驚愕する。

四本足で立っている今の高さでも、10数階建てのビルと同じかそれ以上はある。

博物館でシロナガスクジラの模型を見たこともあるが、比べものにならないほどの大きさだった。


(……一体何メートルあるんだ…)


 漆黒の身体に四枚の大きな翼。全身は、鱗、というより、むしろ鋼鉄の装甲版のようなものに覆われ、翼の羽でさえ、黒鉄のような部品で構成されている。超大型クレーンのような、太く長い首と尻尾は、一撃でビルも破壊できそうな重量感があった。


 熊や虎などの猛獣に出くわしたどころのレベルではない。

あんなのに見つかったら、機関銃を持っていたって確実に殺されるだろう。

 幸い竜との距離は思ったより離れており、こちらにも気付いてないようだ。

再び身を隠して、息を殺しながらゆっくりと堤防に沿って、そのビルのような巨大な体躯の竜に見つからぬよう逃げ始めた。


 しかし、逃走開始から1分もしない内に、大気を揺るがすような竜の咆哮が辺りに響く。


(……な、なんだ……? もしかして気付かれたのか……!?)


そう思った次の瞬間、横手の方に閃光が走り、爆発が起った。

驚いて爆発のあった方向を見ると、ほぼ全壊した民家が炎に包まれて燃え上がっていた。

まさかと思い竜の方を見ると、象も丸飲みにできそうな巨大な口から、燃えさかる火の玉を次々に撃ち出している。

 さっきまで平穏そのものだった海辺の町が、瞬く間に火の海に包まれていく。

通りでは町の住民たちが悲鳴を上げて、逃げ回っている姿が見えた。


(――もう足音なんか気にしてる場合じゃない!!)


竜がこちらに気付かない事を願いながら、急いでその場から駆け出そうとしたその時、

町の向こう側から、けたたましいプロペラ音と共に、数機の戦闘ヘリが姿を現した。


(……AH―1Sに……AH―64Dまでいるのか……!)


 どちらも戦闘ヘリの名称で、AH―1Sは通称コブラ、AH―64Dはアパッチ・ロングボウとも呼ばれ、特にAH―64Dは、その性能と火力の凄まじさから、世界最強の戦闘ヘリとの呼び声も高い。


 ヘリの一群は、巨竜から離れた所で空中停止し、対戦車ミサイルを次々に発射した。

身体中、口の中にまで、ミサイルを叩き込まれた竜の巨体が爆炎に包まれる。


(……やった……のか? 後生だから、やったといってくれ……)


その願いは、竜がヘリの一群に首を向けた事で叶わぬものとなった。


(生きてる……いや、まったく効いてないのか……!?)


竜の生存を確認した戦闘ヘリが機関砲やガトリング砲を連射するが、火花を飛び散らして、

竜の装甲にことごとく弾き返される。

銃弾の雨の中、竜が撃ち出した巨大な火球が、ヘリの一群に向かって飛んでいく。


 火球がヘリの一機に命中して爆発を起こし、被弾したヘリが、炎と煙を上げながら墜落していった。味方機の撃墜に恐れをなしたのか、攻撃を続けながらも、ヘリの一群は巨竜から距離を取るように離れ始めた。

 鳴り止まないヘリからの銃撃に苛立った竜は唸り声を上げ、翼をはためかせて空に舞い上がり、ヘリの一群に向かって飛翔して行った。

 ビルのような巨体から繰り出される打撃と口から吐き出される炎により、最強を謳われる戦闘ヘリたちが一つ、また一つ、撃ち落とされていく。


(…………。ダメだ……勝てない……。)


敗戦濃厚となった戦闘ヘリ部隊を目の当たりにして、自分に唯一できる事は……


その場から全力で逃げ出す事だけだった……。

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