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extra edition side 郁  作者: 宇部松清
12/13

♯12 怒りのクリスマス

「ねぇねぇ(あきら)君、何かお手伝いすることないっ?」

 晶が黙々とクリスマス用のレアチーズケーキを作っている後ろで、千尋がぴょこぴょこと飛び跳ねている。

「黙って座ってろ。それが出来ないなら帰れ」

 晶は千尋に目もくれず、ひたすらに作業を続ける。

「千尋~、アキがキレる前にこっち来た方がいいと思うぞ、俺」

 長田(おさだ)がリビングから声をかけると千尋はしぶしぶキッチンを出た。

「ねぇ、オッさぁん、さっき車の中で言ってた『章灯(しょうと)さん』って、晶君の恋人?」

 千尋はソファに浅く腰掛け、床に胡坐をかいている長田に顔を近づけて甘い声で問いかける。

「あのな、千尋。俺に色目使ったって無駄だぞ」

 長田はため息交じりでそう返す。

「色目なんか使ってないもぉ~ん。ねぇねぇ、それよりっ。しょ、お、と、さんっ!」

「ああ? 章灯はアキの恋人じゃねぇよ。仕事仲間だ」

 なおも近づいてくる千尋の顔を鬱陶しそうに手で避ける。

「なぁんだぁ。つまんないのぉ~。ねぇ、章灯さんって、晶君が女の子って知ってるの?」

「まだ知らねぇよ。あ、でも絶対言うんじゃねぇぞ! って、お前口軽そうだなぁ……」

「ちょっと~! 失礼じゃないですかぁ~。私、そんなおしゃべりじゃないもんっ!」

 千尋はわざとらしく頬を膨らませている。

「……章灯さんにおかしなこと言ったら、ただじゃおかないからな」

 背後から、いつもより低く抑揚のない晶の声が聞こえる。

「千尋……、コレはマジで怒ってるぞ」

「それくらいわかるよ……。晶君、ケーキは出来たの?」

 取り繕うように笑顔を貼りつけて問いかけてみるが、晶は眉間にしわを寄せたままだ。

「あとは冷やすだけだ。それより……。お前、何であんなところに下着を入れたんだ。どう考えてもわざとだよな」

 晶は腕を組み、千尋を冷たい視線で見下ろしている。

 こんなに怒っている晶を見るのは初めてかもしれない。晶は普段、極力感情を表に出さないようにしている。その晶がこんなにも怒りを露にしている。

「ごめんなさい……」

「謝罪はもういい。理由を言え。納得出来るものなら、許す」

 これは大した迫力だ。アキって本気で怒るとこうなるのかぁ……。長田は2人のやり取りをただ見つめていた。

「だって……」

「だって、何だ」

 千尋は俯き加減で足をばたつかせている。晶は、それを表情を変えずにじっとにらんでいる。

「……晶君には無理してほしくないんだもん」

「無理って、何だ」

「プライベートくらい、女の子に戻ればいいじゃん。章灯さんにもさ、本当は女の子だって言ったらいいじゃん」

「……お前には関係ないだろ」

「関係……なく……ないもん。(かおる)ちゃんの大事な家族だもん」

 その言葉で晶は一度俯いた。腕を組んだまま、自分の二の腕を強くつかんでいる。

「……関係……ない」

 それだけ言うと晶はその場に崩れ落ちた。

「アキ!」「晶君!」慌てて2人が駆け寄る。

「ちょっと……立ちくらみです。少し……休みます……」

 晶は青白い顔でそう言うと、テーブルに手をつき、立ち上がろうとする。

「俺が運ぶから、無理すんな」

 長田は晶を横抱きで持ち上げた。「千尋、アキの部屋のドア開けろ」


「千尋、アキにはアキのペースがあるんだからな」

 晶をベッドに寝かせた後で、長田はコーヒーを勧めながら千尋に諭す。

「わかってるけど……」

「悪気はないんだろうけどさ。アイツも不器用だから、時間がかかるんだよ」

「うん……」

「俺らもついてるから、アキだけが苦しむようなことにはさせねぇって」

 千尋はほかほかと湯気の上がるコーヒーをゆっくりと啜った。

「……ケーキ食ったら帰れよ。郁も待ってんだろ。せっかくのクリスマスだぞ」

「うん……」



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