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異世界の運動方程式  作者: 見開き7頁
1章 加速器のビームの向こうで
7/66

三歳の誕生日・覚醒

可愛そうな表現があるかもしれません。

12/29 改稿&結合。

 玄関から客間に移動して、それぞれ椅子に座った。僕とママは一緒の椅子でメイドさんは来客用の椅子だ。

「私はリタ=クァルテットと申します。ミヤフィ様が三歳になられたということで今日からこのお屋敷でミヤフィ様の教育係として住み込みで働かせていただきます。ミヤフィ様、ご誕生日おめでとうございます。今日からよろしくお願いしますね」

 そう言ってニコッと微笑んでお辞儀をする彼女。これが完璧なマナーというやつだろうか?

「こちらこそ、よろしくお願いします。さあミヤフィちゃん、挨拶をしてちょうだい?」

「リタさん!よろしくおねがいします!」

 まだ滑舌は良くない子供の体だが勢いで通す。反応を見るに悪くない挨拶だったようだ。


 彼女はママの方を向いて何か言うみたいなので、その間にじっくり観察しよう。

 真っ黒で艶のある髪、すっとしている鼻筋、ふっくらとはしていないが、艶やかな唇。そして何よりも、底抜けに優しそうで、同時に凛とした雰囲気を持つ瞳。全体的に明るい顔だ。どこかで果実でも育ててそうだ。服で隠れているが、おそらくスタイルはとても良い。結論、彼女は物凄く美人だ。

 総じて優美な印象を抱かせる彼女だが、教育係という役職から思い出した小学校の頃のサッカークラブのコーチみたいに、女性なのに強面で厳しそうな人じゃなくてよかったよ。彼女はドリブルが上手かった。思い出して背筋が震えた。


「改めて、シルヴィア様。お子様の教育係に私を選んで下さり、本当に有難うございます。私もまだまだ若輩者であります故、至らぬ点があるとは思いますが、精一杯努力をしますので、よろしくお願い致します」


 そう言ってぺこりと頭を下げるメイドのリタさん。前世でもこんなに丁寧な敬語は使ったことがないぞ。どうやらこちらの言葉の教養は完全に負けているようだ。元が低いけど。

 個人的には教育レベルが低そうなこの世界では悪くない方だとは思っていたが、僕のレベルは低いほうかもしれない。

 教育係にこれ程の教養が必要だなんて、ダールグリュン家ってもしかして結構いい家柄なのか?


「そんなにかしこまらないで、リタさん!私達特に位も高くないし、そもそもあなたの実家も貴族じゃないですか!」

 うちは貴族だったのか。謎解明!

「そういうわけにはいきません、奥様。私はメイドですから」

 メイドだから。単純だが何故か納得できる理由だ。

 そうね、と返すママ。もう飽きたのか、もう自己紹介終わりでいいわよー。と雰囲気で語っている。それを察したのか、彼女は自分の初めての仕事を宣言する。


「それではミヤフィ様、私からの誕生日プレゼントです。魔法の学習をしましょう」

「はい!」

 新しく雇われたメイドのリタさんからの誕生日プレゼントは、魔法の知識らしい。もっとも誕生日プレゼントとは言うが、魔法が当たり前にあるらしいこの世界では教育上必要なことであり、教育係である彼女の仕事の範囲内だろう。つまりプレゼントというのは子供のご機嫌取りだ。精神は子供ではないつもりなので少し不服だ。ともあれ、授業のために彼女と共に庭に出る事になった。やった! メイドさんの個人授業! あ、つい本音が!

 日本人とは単純なものであった。


「それではミヤフィ様、今日は初めての魔法の学習ですから、まずはミヤフィ様の魔力を測定しましょう」

 と言って、彼女は手のひら大の水晶のような立方体を取り出すが、いきなり魔力と言われても、元科学文明の人間だから当然分からない。

「これは魔力量を測る魔法水晶です。魔力を流し込むと糸が出てきます。限界まで魔力を流し込むと、魔圧の逆転により魔力が逆流して元に戻るので安心して下さい・・・分かってますか?」

 どうやら僕が話を分かっていないことがばれたらしい。魔力とか魔圧ってなんだよ。

「うーん・・・魔力って何?」

「・・・魔力を知らないのですか?」

 そう言って彼女はフリーズした。さも魔力の存在を知っていることが当たり前のような反応だ。この世界では三歳児は魔力の存在を知っていることが当たり前なのだろうか。しばらく硬直していた彼女は困った顔をしてうーんうーんと唸り始める。しばらく考えた後、彼女は何かを閃いたような素晴らしい笑顔で「魔力を知らないのでしたら、魔法を見るのが言葉で教えるより早いかもしれません!」と言って、庭にある池の方を向く。


 ――瞬間、彼女を中心に何かの力が集まっていく。まさかこれが魔力か?でも、これは――!?

「これは・・・身体の強制力が発動した時に感じる不思議な力と同じ・・・」

 そう、この感じは身体の強制力が発動するときに身体を操っている力に酷似している。つまり、身体の強制力は肉体的が内包する行動制限ではなく、魔法的な行動制限だったということになる。

 リタさんに魔力が集まっていくにつれ、威圧感が増していっている気がする。十秒ほど魔力が集まった頃から、リタさんの威圧感が恐怖感に変わった。

「うあぁぁぁ・・・」

 地獄への門が開いたようだった。これから私は死ぬのか。ここから逃げたい筈なのに身体は動かない、動かせない。全身の力が抜けて、動かないのにがたがたと震えていた。半分気を失い同時に意識がはっきりした状態。でも思考は回らず、とにかく怖かった。私は腰が抜けて座り込んでしまった。

 







 恐怖というものは動物が生存するために必要なものである。恐怖がなければ動物は自分より強い外敵から逃げようと思わずに食い殺されてしまうだろう。人間の社会からすれば、恐怖に基づく行動はたいてい恥となるものであるが、自然界では、恐怖に基づく行動が上手な個体は群れのボスになることが多い。恐怖は生き残ることと直結するためだ。

 人間は恐怖に支配されるとおおよそいい行動は起こせないと相場が決まっているが、今日この場所この限りではそうではなかった。



 リタが魔力チャージを開始して三十秒。

「ひあ、あぁ、あぁぁぁ・・・」

 ミヤフィの頭の中はリタの魔力密度による恐怖で一杯である。一般の人々が三歳の頃には絶対に味合わないような恐怖。身体は竦み、足はガクガク震えている。なお庭に出る前にお花を摘んでいたので、粗相はしていない。

(この怯え様、やはりミヤフィ様には魔力が無い・・・?シルヴィア様やアルテミア様が彼女に魔法を教えていなかったのはこの所為・・・?それに、ミヤフィ様の部屋だけは明かりが燃料灯だったのもこの所為?いや、それは今はいいわ。

 魔力の耐性が無い、つまり魔力が無いということは、彼女は『持たざる者ディスアビリティ』なの・・・?それならば、彼女はこれから一体どれほどの・・・)


 リタはとてつもなく手を抜いたので約百ジュール程度しか魔力を集めていない。水二十グラムの温度をを二~三度上昇させる程度の熱量では、火属性最下級魔法『灯火トーチ』すら一分も発動しない。ミヤフィは百円ライター以下の熱量に死ぬほどの恐怖を持っているのだ。少しでも魔力を持っていれば、この程度では全く恐怖を感じない。勘のいい人が魔法の行使をやっと気づくレベルの、ごく僅かの魔力量だからだ。

 これに恐怖を感じている事は彼女に魔力耐性が全くないという事の裏付けであるが、彼女のそこからの反応は通常とは違った。



(私、ここで死ぬの?せっかく転生して、美人なママとイケメンなパパにの間に生まれたのに?私は何て弱い存在なの?また世界について何も知らないまま死んじゃうの?嫌だ、嫌だ嫌だいやだいやだ・・・)

 あまりの恐怖からか、強制力からか、彼女は自分が弱い存在であり、『彼女』であるこの現実を受け入れたのである。それは生存本能が、今この状況を理解して生存せよという命令を出している故の行動だった。

 そして、無意識が考えたこの状況を打開するための物理的な策が尽きた瞬間、身体の強制力が最後の仕事を始める。


 一瞬の間の後、彼女の無意識と意識が同時に彼女の体内の魔力の根源、『継臓リンカー』を捉えた瞬間、二つ目の太陽のようなとてつもない閃光が辺りを照らした。

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