夢見式、完了!
ゆっくり書いていきます。
「……はっ!?」
キーナが飛び起きると、そこは椅子の上だった。
「あら、おはようございます。いい夢は見られましたか?」
「リタさん……いいですか、落ち着いて聞いてください。私……」
ゴクリ。キーナの真剣な表情にリタが息を呑んだ。
「自己顕現『魔法蒐集家』を覚えちゃいました!」
「……おめでとうございます! 早かったですね? また失敗されたかと思いましたが、杞憂でしたね」
キーナは椅子から降り、リタの方へ詰め寄った。
「早速使いたいです! 訓練場ありましたよね!」
「お相手しましょう」
「でもですよー? 自己顕現って習得簡単すぎませんか?」
「え? ……あっ」
リタは察した。自己顕現の習得難易度は……
「準備はいいですか? では、使ってください」
「魔法蒐集家!」
ポンッと、キーナの側に本が出現した。
……しかし、何も起こらなかった!
「(自己顕現の習得難易度は、その効果がシンプルに強いほど跳ね上がります。簡単と聞いていたのでまさかとは思いましたが……)反撃、または協力タイプ、ですか。キーナさん、使い方は分かりますよね? 制限と誓言が、頭の中に浮かぶはずです」
どうやら、キーナの能力は本領を発揮するのにクリアすべき条件がいくつかある、反撃や協力タイプのようだった。戦闘で使うのが難しいのだ。
リタは戦闘体勢を解き、キーナの元へ近づいてから話を聞いた。自己顕現の能力は、出来るだけ他人に知られない方が良い。ここは訓練場。魔法の騒音が鳴っているとはいえ、人の耳はあるのだ。
「えーと、他人の魔法を蒐集、保存していつでも解放できる本を出す。吸収された魔法は消失する。全86頁で、1頁に1個保存。1頁目には、保存中の魔法の使用者の名前が一覧となっている。
制限は……自分に影響が及ぶ魔法であること。また、蒐集した魔法を使うと、一回で消える。
誓言は……同じ相手が放った魔法に1日2回以上使うと……あれ? 分からなくなりました」
「ああ、それは自分で決めていいところですね。誓言決定! と言った後に内容を決めると、その厳しさに応じて出来ることが増えます。私の『聖銀食器類』の場合は……『自分または主人が所持または貸与された銀食器以外に使用すると、発動終了後、自分と主人の着ている服が全て2つに破ける』です」
「へー、え? な、なんて誓言してるんですか!?!? 狂ってる!?」
「この程度にしておかないと、いざという時誓言を破れませんからね」
「いやいやいや、なんで主人も!? ミヤフィをストリッパーにする気ですか貴女は!?」
「いえ、私もミヤフィ様も本気でストリップは嫌ですよ?だから誓言としてはいいんです。お陰で、これを掛けた食器は、自分で手扱いできる本数まで念力で操ることが可能になるという効果を……」
それ以上は頭に入らなかった。リタさん、意外とえっちなんだな……普通、破ったら死ぬとか、一時的に麻痺するとか……そういうのでしょう、いや社会的に死にそうだけど。でもなぜ服を破く必要が……脱げるだけじゃダメなん? など。頭の中をグルグル回っていた。
因みにこのタイミングで記述するのもなんだが、先程リタが「誓言決定!」のキーワードに言及したのは、無意識のうちに誓言が決定するのを阻止するためである。実際のところ、誓言は頭の中で決定するだけでも決定されてしまうのだが、初めてやる人には意外と効果があるのだ。
「ではキーナさん。誓言を決めましょうか。おすすめは……10頁分の魔法を無くし、不足した場合はページの10000倍の本数の髪の毛が抜けるとか。後遺症も残らないですし……まあ一時的に円形脱毛になりますが」
「ハゲるんですか……嫌だなぁ……破ったら貯蔵した魔法が全て暴発するとかは?」
「場合によっては死にますね!? キーナさん、意外と大胆なんですね」
「リタさんに言われたくはないですけど……うーん、後は……破ったら、頁が1枚ずつ破けていき使用不能になっていくとか?」
「43回で使えなくなりますよ。やめた方がいいかと」
「ハゲるよりマシじゃないですか?」
「やはり、あなたも服を破きませんか?」
「いやです……」
「頁よりはマシだと思いますが……」
「本気ですか?」
「え、はい。考えてみてください。全裸の時はノーリスクです。つまり一回破ればその後は……」
「た、確かに……いやいやいや、絶対無理! 他の誓言にします! ていうか、ミヤフィは知ってるんですか!? その誓言!?」
「いいえ?」
「馬鹿なんですか!?」
「ですが、ミヤフィ様がそれを知ったら戦闘があった時に気が散るでしょう?」
「うーん、一理あるけど認めたくない……」
「それで、どうしますか? やはり……」
「76/86頁が破けて使用不能になり、破けた頁に魔法が入っていた場合一斉に発動する。破けた頁は1日1枚回復する、ですかね。ページは5枚だけ残しておきましょう」
「危なくないですか?」
「リタさんの思想よりは安全だと思いますけど……これも色々メリットデメリットがあるんですよ? 誓言決定! ……あっ!」
キーナはいきなりビクンッ! として何事か考え始めた。
「誓言による追加効果が頭に流れてきたんですね。どんな効果でしたか?」
キーナは内容を噛み締めるように告げた。
「魔法の入った20頁を消費することで蒐集している魔法を一つ覚えることができる……」
つまり、魔法を覚えるには21頁必要だということだ。
「強い……のかはよく分からないですね。取り急ぎ『聖銀食器類』を集めておきますか?」
キーナはリタからの提案に、嬉しさを抑えきれず返した。魔法を蒐集していいとは、信頼の証か。少なくとも、好意ではあるはずだ。
「いいんですか!? とりあえず一回使ってみても?」
「いいですよ。このスプーンで……いえ、キーナさんに差し上げられる食器は研究室にありますので、場所を変えましょうか」
キーナとリタはリタの研究室に移動した。研究室は整然と片付けられており、いつでもお茶会なんかできそうな机があったり…食器棚は銀食器が1/4を占めていた。
「ではキーナさん、これは差し上げます」
キーナは銀のナイフとフォーク、スプーンを受け取った。リタは既に別の食器を浮かせている。
「魔法蒐集家!」
浮いていた食器が落ちた。キーナは咄嗟に反応してスプーンを拾った。
「おっと!」
「ありがとうございます」
魔法を吸収すると一瞬にして効果が消えるようだ。リタが聖銀食器類を発動させると、食器は再び浮き始めた。
「蒐集されても魔法は使えなくなるわけではなさそうですね。ではキーナさん、使ってみましょう!」
「はい! 頁1解放『聖銀食器類』!」
キーナの服が弾け飛んだ。