刻印・火魔法
お久しぶりです。
娯楽の少ないこのご時世、ミヤフィちゃんはウキウキ魔道具の製作です。
こんなときだからこそ楽しんでお読みいただければ嬉しいです。
熱盛買ったせいでエタりそう……
自室に戻ったミヤフィは、ひとまず魔法陣の解読を始めた。魔法陣をどう刻むのかは全く気にしなかった。なぜなら、魔法陣のように『魔法を詠唱ではなく構造で発動する』のは先日の魔物襲来事件で経験済みであったからだ。
リタとキーナが後ろから堂々とこっそり覗いている中、ミヤフィは概略を捉えた。
「…………………………………………………………なるほど、この魔法陣は2層式だ」
「(よー見えるね。ミヤフィすごい)」
「(どうやったら見えるのでしょうね)」
墨の濃さで判断したので判別に多少時間が掛かったが、魔法陣はそれぞれ別のデザインの2種類を重ねた物に見えた。
まずは、1つ目の魔法陣を使ってみることにした。
「うーん、これを……こうして……こうやって……ここを曲げて……ここを並行させて……」
ミヤフィの目の前の空間に魔力の道筋が出来上がる。魔法陣だ。中心はミヤフィの腕と繋がっていて、魔力をそこから送るようになっている。
「………………できた」
魔法陣が完成した。早速ミヤフィは魔力を流す。
「流れた! 魔力が! 今度はわかった!」
キーナにも感じられたようだ。
……が。
「魔力が流れただけ。何も起こらないんだけど」
「何も起こりませんね」
「……いや、何も起こらなかった訳じゃない。『魔力が流れた』んだ。もう一度やってみよう」
ミヤフィは再び同じ魔法陣に魔力を流した。先程と全く同じように魔力が流れた。
「……? また何も起こらないんだけど……?」
だがしかしミヤフィは納得したように頷く。
「違う。この魔法陣はきっちり役割を果たしてる。これは……」
ゴクリ。とキーナとリタが息を呑んだ。
「『決まった通りに魔力を流す』魔法陣だ」
「「は?」」
「ほらほらほら、魔法陣だけ作っとくからキーナも魔力流してみて」
そして再びミヤフィは同じ魔法陣を張り、キーナの前に翳した。ちなみに表裏逆に魔法陣を張っているという高等テクニックをさりげなく披露していた。三回も張ればすっかり理解が及んでしまった。本人は気づいていないが驚異の学習力だ。
「……じゃあ流すわよ」
そして流れる魔力。ミヤフィから見ると、今回も同じように魔力が流れた。表裏逆で。
「分かった?」
「分かりました。ミヤフィ様。お二人の魔力の流し方はまるで違ったのに、最終的には魔力の流量と質が同じになっています」
「表裏逆で分からなかった」
その通り、ミヤフィは頷いた。そして……
「もう一つの魔法陣は火魔法だね。最初の出口とこれの入口っぽいところを合わせてーっと」
魔力を流す魔法陣から出た魔力をもう一つの魔法陣に入力する。
しゅぽっ。
「小さな火が出ましたね」
「マッチ位の炎が出たね」
「キーナもやってみなよ」
先程と同じように、二重魔法陣へキーナが魔力を注いだ。魔法陣は寸分たがわない。
しゅぽっ。
「またマッチ位の火がでたわね……すごい。魔力の量はさっきの二倍くらいなのに火の大きさが同じね!」
「なるほど、決まった通りに魔力を流すとはこういう事ですか。誰が使っても同じ効果を得られる。いい魔法陣ですね。『地球』にあった精密機械など作動させられそうです」
「That's right! その通りさ」
「……教科書の真似はあるあるネタじゃないですよ。ここはニホンではありません」
「……そういう訳で早速魔石に魔法陣を刻印しようと思うんだ。さっきまで見たいな魔法陣を小さくして石に刻めばいいだけだし、余裕かな」
……翌日。始業前。エア研究室。
「おはようだねぇ。ミヤフィ君。魔石はどうなったのかねぇ?」
「おはようございます。実は……」
深刻な顔で挨拶をしたミヤフィ。手には刻印のついた魔石が握られていた。
「できました」
「うんうんそうだねぇ魔石割っちゃ……なんとっ!?」
しゅぼっ。ミヤフィはニンジの前でマッチを点火した。
回想……昨日の続きである。魔法陣魔法陣を試しに発動してみた15分後、魔石が割れた。
「……なんてことは無く余裕で魔法陣を彫れましたっと」
「流石ですミヤフィ様。あれだけの対外魔力操作、怖い位です」
「リタさん青ざめてない? マジでビビってない?」
「や、やるわね……ミヤフィ、おかしいわ」
「人外レベルの魔力操作ですよね。精霊レベルでは?」
「何、精霊なんているんですか?」
「いるらしいのよ? 人類の力が全く及ばないほどの辺境の土地で暮らしているんだとか、本当は先代勇者の嘘の一つだったとか、色々説があるらしいわ」
「へぇ……会ってみたいもんだ」
「よく喋りながら出来るよね……」
雑談。ミヤフィはそのままニンジ先生の所に行こうと考えたが、よく見ると既に夕暮れ時。退館時間が過ぎていたので明日にすることにしたのだった。
「という訳なんです」
「すんなり行き過ぎなんだねぇ……当初の予定ではまた来年ということにしようと思ってたんだけどねぇ……試験問題やら論文やらやることが多すぎるんだねぇ」
「……忙しいんですね。大丈夫です。物覚えはいいので……」
「ほんとかねぇ。いやほんとだろうねぇ。一瞬で刻印が出来たんでしょね? んじゃあ、朝会までに基礎を教えられるかもしれないねぇ。それで時間節約する方が身のためかねぇ」
ニンジは黒板を取り出した。壁の黒板には魔法陣の図形を分解した図が書かれているので、それを消さないためだろうか。
「まず魔法陣とはどういうものかから始めるのよね。まず……魔法陣を使う理由について、から始めるのよね」
~刻印魔法 概論より抜粋~
魔法は人々の生活に根付いている。しかし魔法とは何か。現在確認されているところでは生き物がその体内に溜め込んだ魔力を使って発揮する事象の事だとされている。その属性は大きく八つに分かれている。《基本四属性》である炎←→氷の対と大地←→大空の対、《原初四属性》である光←→闇の対と聖←→邪の対である。これらの対の属性は互いに打ち消し合う性質を持ち、魔物との戦闘や、魔法使い同士の戦闘、日常生活でも有用に使われている。
魔力には周辺魔力と固有魔力の二種類があり、魔法発動の際には、個人差もあるが9:1程度の量比で消費される。全体の消費量は発動する魔法の規模で変わる。
魔法を行使する方法には大きく分けて三つある。決まった呪文を詠唱して決まった種類の現象を起こす「詠唱魔法」、自らの魂から湧き出るイメージで現実に干渉する「自己顕現」、そして空間に投影した図形に魔力を流すことで、決まった種類の魔法を決まった出力で発動する「刻印魔法」だ。
魔法陣とは刻印魔法に用いる刻印の一つで、平面に記述した図形の相互作用で狙った効果を得るものだ。その刻印の形状は魔法ごとに異なるが、一度刻印して仕舞えば、いつでも瞬時に発動することができるという点が優れている。しかし、鉄やパルプ紙など、魔力と相性の悪いまたは単純に強度の低い媒体ではすぐに破損してしまうので、魔法陣の持ち運びには注意が必要である。
1.魔法陣の構成と基本ルール
魔法陣を見てみよう。図1は基本的な炎属性魔法、灯火を発動する魔法陣である。魔法陣は一見複雑だが、その構成は単純な要素の組み合わせだ。図2は図1の魔法陣を構成要素ごとに分解したものである。魔法陣は大きく3つの要素に分かれているのが見て取れるだろう。次に図3と図4を見てみよう。図3は基本的な氷属性魔法、氷結の魔法陣である。そして図4は図3の魔法陣を構成要素ごとに分解したものである。ここで図2と図4を比べると、驚くべきことに3要素中2要素が同じ図形なのである。この教科書では、このように基礎的な魔法陣に共通で使われる様々な図形を解説している。また、属性魔法などで専用に用いられる図形についても、有名なものは解説している。それらを組み合わせることで、必要な魔法陣を製作する一助として欲しい。
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「ほえ〜」
「さて、ミヤフィ君なら分かると思うんだけどねぇ。ぶっちゃけこの教科書の図形を覚えて、後は組み合わせの問題なんだねぇ。まあ、魔法陣の世界は奥深いからまだ発見されていない図形もきっとあるんだねぇ。とりあえずそれ読んで、組み合わせに迷ったら来るといいんだねぇ。アドバイスしてあげる」
ミヤフィは魔法陣が組み合わせで出来ているということからプログラミングみたいなものかと納得し、ニンジに礼を言って授業へ向かった。
「おっはよーございまーす!」
「ミヤフィちゃんおはよー!」
「かわいー!」
「リタ先生もおはようございまーす!」
「おはようございます」
「きれー!」
「では私はこれで。ミヤフィ様」
「リタさんも先生頑張ってね!」
「はい♪」
そうしてミヤフィはまた授業に臨んだ。ちなみに今日のお昼ご飯には魔大豆が入っていた。ミヤフィいがいからすると、まあそこそこ美味しい豆の域を出ないものらしいのが解せなかった。
そして放課後。三時位だ。ミヤフィは中庭の机で勉強を始めた……キーナも一緒である。行き詰まるとニンジの部屋まで頑張って歩く。階段もあっていいリハビリである。
雨の日は図書館で勉強して。一週間はこのような生活を続けたミヤフィ。
そしてもう一週間で魔道具の設計と材料集め、もう一週間で刻印と組み立て。
そんな彼女が最初に作った魔道具は皆の度肝を抜くものだった。
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