最初の昼休み
カーンカカカーンカッカカーン
スクワットをしながら儀式魔法の本を読みはじめてしばらく。鐘の音が校内に鳴り響いた。
「諸君。授業は終わりだ。今日は進歩が出た者が多い。最終的に、少なくとも初級魔法は使える所まで持っていく予定だ。毎日魔法の想像をするように」
『はい』
先生が退出すると、皆一斉に気を抜き始めた。昼休みというのもあるだろうが、最大の原因はこれだ。
「厳しそうな先生だったな・・・」
くっころちゃんがめざとく反応して返してきた。
「そうなんだよ! イスネ先生って一番怖い先生なんだ! この前、魔法で遊んでたエリちゃんが目茶苦茶叱られたんだって!」
「そうなんだ? それより、イスネ先生っていうんだ? 名乗らなかったから分からなかったよ」
「転入生がいるのに自己紹介しないなんて抜けてるよね。結構そういうところがあるのも可愛いってエリちゃんが言ってたよ!」
エリちゃんって誰だろう?
「へ~」
あの渋い見た目で可愛いところもあるんだ。見ちゃったらファンになるかも知れない。
「ミヤフィさん。良ければ一緒にご飯をいただかない?」
談笑していると後ろから声が掛けられた。
「ん? あなたは・・・」
「クララ=シュレーディンガーと言います。貴女と同じくミラディア出身です。仲良くしてくださいね?」
ミラディアから来た名字持ち。貴族だろうか? ・・・ミラディアは気にくわないけど、一応仲良くしておこう。
「ありがとうございます。この学院に留学されるとは素晴らしいですね!」
「そんな堅苦しい言葉遣いではなくても構いませんよ? 留学じゃなくて亡命ですから」
「亡命!?」
やっぱりミラディアはクソだった。亡命が流行っているのだろうか・・・?
「はい、亡命です。でもあなたと違って追っ手は無かったですよ? 弱いですし、追われていたら今頃エルデの糧です」
シュレーディンガー家の情報網恐るべし。
「・・・似た者同士ですね。仲良くしましょう」
「はい。ところでミヤフィさんは亡命しても召使いを維持できるほどの財力があるんですね。流石はあの魔導具店ダールグリュンの娘、ですね。私の方では急に家事をすることになって大変でしたわ」
家事・・・? あ、庶民になって恩給が無くなったのか。いや、情報網が残っている以上ある程度資金力はあるみたいだ。
「普通亡命ってそんな感じなんですね・・・でも大事なところが間違っています」
「へ?」
「リタさんは召使いじゃなくて、メイドです!」
「・・・メイド?」
「メイドっていうのは――あれ? よく分からないや」
やっべぇやらかした。全然わからん。メイドってなんだ?
やはりそこへリタさんがやって来て、私を遮って説明し始めた。ありがたい。
「メイドというのは新しい世話人の形です。主に身の回りの世話、護衛、秘書をすることが職務で、一人で多くの事ができる、ジェネラルな形の世話人です。新たな職業なので今は知名度が低いですが、いずれメイドギルドも名が知れてくるでしょう」
「・・・使用人は人数が必要なので亡命の時に別の職を探したと母様が言っていましたが、一人で済むなら素晴らしいです! ギルドもありますし、広まるのも時間の問題でしょう!」
雑感だけど使用人に対する理解が凄い・・・それと、ギルドがあればまともな職業ということになるんだ・・・?
「因みに今私のランクはA級で、S級になるには、家事能力だけでなく、戦闘力を鍛えるのが課題だそうです」
リタさんもオダワラの人に勝ってたよね・・・? あいつら結構強いって話だったような気がするんだけど、それでA級・・・
「メイドギルドって戦闘系ギルドか何かですか? ていうかいつギルドなんて行ってたんですか」
「メイドギルドはれっきとした第三系ギルドの範疇ですよ? それといつ行ったかは・・・秘密です」
「忍者かよ」
「ニンジャ? 職業ですか?」
「冒険者の戦闘スタイルの一つなんですよ」
嘘だけど。
「ミヤフィ様は聞いたことがなかったですね――」
第一系ギルドは農業、漁業、畜産業、狩猟など食料を支える仕事で構成されている。
第二系ギルドは製聖銀業、鉄工業、窯業、鍛冶職、木こり、針子など、物を作る仕事だ。
第三系ギルドは料理人、音楽家、作家、画家など、サービス業が主だ。
第四系ギルドは冒険者、傭兵、騎兵、郵便など、ヒトの領域の外に出る事が多い職種で構成されている。
・・・だそうだ。
そう考えるとメイドギルドは第四系じゃなくて、第三系ギルドだな・・・納得。ともあれお腹が空いたので、そろそろご飯が我慢できなくなってきた。
「メイドについても分かったことだし、食堂まで行きましょう! ここだけは調べておいたんですよ!」
「ミヤフィ様流石です」
「ご飯を食べないと大きくなれませんからね~沢山食べましょうね~」
「なんか二人ともバカにしてない? クララさん初対面だよね・・・?」
「そんなことないと思うよ! きっとミヤフィちゃんちみっこいから心配してるんだよ!」
「くっころちゃんまで! ・・・早く大きくなってやるんだから!」
元々は百七十センチメートル有ったんだぞ!
「(シルヴィア様の体型からすると・・・あっ)」
失礼なことを言われて、さらに考えられている気がする・・・が、ともあれ食堂へ向かった。
◇
食堂は一階で、学校敷地の端の方にあり、隣には食材搬入用の倉庫があった。食費は学費の中に入っているので、入り口付近の受付で食券を選択し、それをそれぞれのメニューの受付に渡して料理を受けとる方式をとっている。
「どれがいいかな・・・C定食の所だけ人が多い?」
「それはね・・・C定食を作っている先生のお陰よ」
C定食の行列の奥に調理師の先生が見えた。名札は・・・スニハル=クニ先生?
「名字持ちだね? 貴族の人が料理をしているの?」
「うん。視力いいね。スニハー先生は庶民から料理の腕で貴族にまでなった唯一の料理人なんだよ!」
くっころちゃん、ご丁寧にどうも。
「皆『スニハー先生』って呼んでいるんだ? かわいいけど、貴族になるほどの腕の人がどうしてここで働いてるんだろう?」
「ミヤフィ様、私達は気軽に入ったから実感が湧かないのも解りますが・・・ここはマシュロの最も権威ある研究教育機関ですから、トップレベルの料理人の方が在籍しているのは自然なことです。学会などで賓客が来ますから」
「あ、そうでしたね。自分で通うと凄い所感無くなりますよね」
うん。京帝大学も受験の時は凄い所だと思っていたんだけど、通い始めると凄い感じはしなかったな。今回は受験もしてないし。
「・・・今日はスニハー定食は無理みたいだね。でも他のメニューもスニハー先生が監修しているから美味しいんだよ!」
「へー。B定食も美味しそう!あれにしよ!」
「ちょっとミヤフィ様!? 貴女走れな・・・ご飯の時は走れるんですから。全くもう」
「皆遅かったら先に食べちゃ、痛てっ!」
「転んだ・・・いわんこっちゃない」
足がうまく動かないのを忘れていた。
「大丈夫?」
「はい、大丈夫です・・・?」
「手を取って? 立てるかな?」
「ありがと・・・っ!?」
金髪! 二重瞼! 凛々しく整った眉毛!
「よいしょっと。ここ微妙に滑るから、転ばないように気を付けてね。あ、君もB定食なのか。どうぞ。先に並びなよ」
優しいッッッ!!!
「は、はっはは、はい! 有難うございます!」
異世界初の超絶イケメンだッッ!!!!
「ミヤフィちゃん、口パクパクしてたよ」
「彼はハンサムですからね」
「イケメンギルドを創設できる位格好いい方ですね・・・ミヤフィ様ちょろい」
聞こえてるよ失礼な・・・だが。後ろを見上げる。
「どうしたの? お腹すいた?」
満面の王子様スマイル直撃。格好いい・・・
自分が元は男だったとか最早どうでもいいレベルだよ本当に。本当に。
「・・・初めての学食なので楽しみなんです」
何とか取り繕えたかな? これはこれからの学食も楽しみだ。貴族監修のご飯もだけど、イケメンを見られるから。
「ちょっっっっっっろ! ミヤフィ様ちょっろ!」




