魔法の授業
国語の授業が終わった。ありきたりな感想しか浮かばないが、疲れた。言葉の意味を教えてくれる分意味の分からない「このときの作者の気持ち」を読み解かせる日本の国語よりはマシだけど、こちらでも少し国語はしんどい。
「だけどこれからは・・・」
そして来る、ついに来る魔法の授業。教科書は既に三周読破したので何となく覚えたし、役に立つ情報も多かった。すぐさま試したい・・・
「・・・授業受ける意味無くね?」
教科書を読み込んでしまったのでそう考えるのも無理はなかった。
「いや・・・単に予習しただけだから授業を受ける価値は無くなってない。豆知識とか・・・タメになる脱線とか、実験だってあるかもしれないし、頑張ろう」
コンコン。
「はじめまして。ミヤフィさん?」
授業は真面目に受けようと座りながら意気込んでいたところだったが、ノックされて話しかけられた。独り言を聞かれたかも。
「はじめまして。あなたは?」
話しかけてきたのは、栗色のストレートロングが肩甲骨位まであって、目は少し釣り目、声は少し低い女の子。背は周りの子達より少し大きい女の子だった。
少し恥ずかしかったけれど平静を装って返事をした。空中をノックして話しかけてくるとは、器用な子だけど・・・なんだ今の。
「わたしはクコロ=セーデルヴィルム。二つ前の席に座っています。よろしくね。・・・騎士院で途中から別れちゃうから、は、早めに仲良くなろうかなーなんて」
騎士院に進級予定の子だったようだ。それよりも今の空中ノックはどんな魔法だったのだろうか気になるのだが。
――ウィンカイル魔導学校にはいくつかのコースがある。名前の通りの魔法院、騎士になるための騎士院、モノを作るための知識を学ぶ産業院、そして魔法以外の、例えば地政学、経済学、数学、文学、歴史学など様々な学問を学ぶ研究院だ。因みにリタさんのメイド研究室は産業院の管轄だったりする。
「そうなんだ。よろしくね〈くっころ〉ちゃん! 私ミヤフィ。飛び入学で入ってきました。五歳で、勇者らしいんだ。よろしくね!」
「そうなんだ。なんか発音が違うような・・・まあいいわ。五歳だったよね? 妹がいたらこんな感じなのかな? かわいい!」
「えへへ~・・・髪が崩れちゃうよ」
頭を緩く掴まれて緩くやさしく、それでいて素早くナデナデされる。リタさんお手製の編み込みはそう簡単には崩れないけれど、それ以外の部分は少し乱れた。
最初はそんなものだったが・・・3分後。
「よしよしよーし」
(何だか強くなってるような、というかいつまでやるんだろ)
「そろそろいいんじゃない?」
「かーわいー」
次第に加速するナデナデにそのままでいるのは何だか気が進まないので手で押さえようとするも、自分で頭を叩くだけのおろかな行為になってしまう。
「ふぉっぺたまでっ」
暫く手での攻防を繰り返していると、飽きたのかほっぺたをぷにぷにしてきた。
「やわらかーい! すごーい!」
ほっぺたを膨らませると手が外れたので掴んだ。
「さわりすぎなんですけど!」
そう抗議すると幼女滑舌になっていたのか「かわいい~」とまともに取り合ってもらえなかった。そこの女子、はずいから目をキラキラさせてこっちみないで。
「ぐぬぬ・・・仕方ない。突撃恋心!」
震える足を無理矢理踏ん張らせてミヤフィ大地に立つ。教室の床だが。そして半ば倒れこむように「くっころ」ちゃんに抱きつく。
「あれ~なつかれちゃった? 可愛いなあもう!」
抱きついただけで撫では止まっていないけど、狙いはそこじゃない!
「腋が甘いよ」
「ひっ、あっ、あはははは! ちょ、えへ、待っ、あっ、アッー!」
腋が甘いって当然人族語で喋っているのでことわざのオマージュだけど、何だかちょっと違うような、違わないような。どうせ日本には戻らないので関係ない。どっちにしろ無限ナデナデからは逃れられたので良しとする。
「反省した?」
「いひっ、うん、した! しっ、たよ!」
よだれが垂れて涙目になっている・・・これ以上やるのも忍びないのでくすぐりを止めた。
「はー、ふぅ。ミヤフィちゃんくすぐりが上手なんだね? 弱点をめちゃくちゃにされちゃった」
頬を赤らめてそんな事を言うくっころちゃん。エロい。本当に年齢一桁か。
「これが女騎士見習いのポテンシャル・・・」
そこまでグダグダと時間を過ごしたところで先生が来た。
「授業を始めよう。教科書を出しなさい」
「じゃあまた後でね。お昼休み一緒にご飯食べよう!」
「うん。ありがとう」
「さて、始めよう。しかしその前に聞かねばならないことがある。ダールグリュン君。君は教科書をどのくらいまで理解しているかね」
入学の時期が時期だったので、授業は途中から始まるらしい。魔法の先生は最初にどれくらいまで理解できているかを聞いてきた。
「全部読みましたけど、実践できるのは二章の魔力操作までです」
3章は初級魔法だけれど、まだ闇魔法しか使ったことないからね。
「その年で・・・ゴホン。いや、十分すぎる位だな。ちょうど良い。今日はいつも通り三章の途中から始めるが、分からなかったら質問しなさい。では3.3節の初級魔法の呪文についてから始めよう。そうだな・・・セーデルヴィルム、読んで」
「はい。『魔法にはそれぞれ決められた呪文があり、起こる現象をイメージしながら読み上げると魔力をその魔法に組み上げることができる。以下は各属性の初歩の魔法の呪文である。注意、必ず先生の――』」
「ああ、ありがとう。そこまでで良い。そこから後は各属性の初級魔法の最初に覚えるべき呪文だ。『炎』『氷』『大空』『大地』の基本四属性、『光』『闇』『聖』『邪』の発展四属性の八個だな。少なくとも自分の属性の呪文は覚えて使えるようになるのが前期の目標だ。火事や地割れなど、事故には気をつけて練習するように。では今から私がやって見せよう」
「(お手本が見られるとはラッキー! ・・・学校だし当たり前だわ)」
「私の得意属性は炎と大空、そして光だ。3つあるのは一万人に一人位のものらしいが、その辺は運だから気にするな。では行くぞ」
人差し指を立てて詠唱すると、先から炎が発生する。
「灯りあれ『灯火』」
手本のためだろうか、普通のものより若干明るい灯火は指をろうそくに見立てて立っていた。
「綺麗・・・」
つい見とれて感想が口から出てきた。虹を内包しているようにも見える炎は内部に色の勾配を持っているようだ。
「一応全部実演する。その後は皆で練習をしよう」
教室に優しい風が吹き、きらびやかな光が灯った。先生が持ってきた砂場が割れた。
練習時間になった。これくらいの小さな魔法なら影響はないはずなので、それでは早速始めることにして、初めは得意な闇からだ。使ったことはないけど、知識については一回入ってきたから初級魔法位なら全属性使えるはずだ。
「闇に閉ざせ。『闇球』」
伸ばした指先から闇が出現した・・・というよりは光を通さない領域が出現したという方がいいのだろうか。
魔力をほんのちょっとずつ使っているのが分かる。発動は確認できたので、試しに込める魔力を少しずつ少なくしていくと、闇の縁があやふやになり、光の透過率も少しずつよくなっていき・・・闇が消えた。
「ふう。魔法の強度って結構自由に調節出来るんだな。ねえ〈くっころ〉ちゃん! どんな感じ……なん……だと……!?」
「ミヤフィちゃん、初めて成功したよ! 見てみて! 『灯火』!」
「う、う……」
薄っ! 消えかけじゃん! いや、火の存在が薄い・・・?
「良かったね!(魔法下手なのかな・・・?)」
「セーデルヴィウム、発動できたじゃないか」
「先生! あ」
先生がいきなり話しかけたからか、くっころちゃんの魔法が霧散した。
「おっと。後は集中力だな。魔法攻撃が通るか通らないかは強度で決まるからな。練習すれば後ろのミヤフィのように物凄い強度で魔法を出せる。時間はかかるだろうが頑張ることだ」
「はい。・・・ミヤフィちゃんって『大襲来』をたった一人で収めたんだよね? やっぱり魔法の強度がすごいの? それとも詠唱が速かったりするの?」
「えーとね、それは・・・」
どうしよう。魔法の構造を覚えてコピペしたものを演算能力に任せてマルチロックオンで・・・って言っても意味分からないだろうな・・・
「そうだね・・・強度はこれくらいだけど・・・他は気合いで?」
「強っ!? 闇球でもそんなの当たったら死んじゃう!」
「す、素晴らしい強度だ。ダールグリュン。これなら火球魔法でも魔物は倒せる。流石は勇者か」
「勇者とか関係なく練習の成果ですよ? あ、先生。ドクターストップかかってるので魔法の練習はこれぐらいでいいですか? 今のでさえやり過ぎてしまったかもしれないです」
「うむ、医者が止めるなら仕方ないな。そうするとしばらく暇になるが・・・ああそうだ。君なら大丈夫だろう。これを読んでおきたまえ」
「『儀式魔法入門書』・・・?」
「雨乞についての頁が一番面白い。一章を読んだら次はそこにしなさい」
「はい」
雨乞いの魔法、面白そう。あと二十分ほどでそこまでたどり着けるだろうか。それよりも、折角魔法をやらないでおくのだから、何か動きたいな。
「セーデルヴィウムは強度を上げていくことに集中しなさい。・・・なぜ筋トレをしながら本を読んでいる?」
「運動すると足が治りやすいらしいので」
足を直角になるまで上げる足踏み運動。多少よろめくけどこれくらいから始めていこう。はいワンツーワンツー。
ドタッ! ・・・転けちゃった。




