三歳の誕生日・午前
よろしくない表現があるかと思います。
12/29改稿。
この世界の朝は綺麗だ。高い建物が無いので朝焼けが我が家の庭を照らすと全体が鮮やかな橙色になる。
ミヤフィは現在知る由もないのだが、屋根に使われる木材はガラス質を含んでいる。ガラス質により乱反射された朝日は霧を輝かせる。この世界では珍しい、半ば人工的な絶景であり、この『昇日の街』が観光名所になっている所以がそれである。
ダールグリュン家の朝は早い。日の出とともに起床し、家族全員で朝食を取る。今日のメニューはパンにベーコンエッグ、ポタージュスープとヤベツのサラダだ。ヤベツはキャベツに似た葉物だが、木の葉っぱであるらしい。
今日もママのご飯は美味しい。でもそろそろお米が恋しいなー。と思いつつヤベツを食べていると、
「ミヤフィちゃん、今日はなんの日か分かるかなー?」
とママ。向かいではパパがニッコリ。幸せな家庭風景である。前も昔はこうやってご飯を食べていたな。としみじみ考えるが、返事は大事だ。
「うーん、わかんないよー?」
かつての身体の強制力によって、自然に子供の様な仕草をできるようになった僕は答えた。ママは嬉しそうに満面の笑みで説明しようとしたが。
「なんと・・・」
「今日はね、なんと!ミヤフィちゃんの三歳のお誕生日なんだよ!」
とパパ。ママは喋る出だしを遮られ殺気を出している。これは後で折檻だな。
そういえば、今は殆ど身体の強制力に引っ張られることは無い。成長したからだろうか。三歳辺りで意識がはっきりする子もいるって言うもんな。
「ミヤフィちゃん、そして嬉しいニュースよ!」
何かあるらしい。誕生日プレゼントかな?
「なんとぉ!今日からぁ!ミヤフィちゃんにぃ、!専属のぉ!メイドを!付けるのよぉ〜!!」
パパに妨害されたとはいえ、ママのテンションはとても高い。まあ、テンションが上がってもパパが折檻される未来は変わらないだろうが。
朝食を食べ終わって、ママに身だしなみチェックをされてOKが出た。後は昼まで待機だ。それにしても、メイドさんだよ、メイドさん。結局前世ではメイド喫茶には行ったことが無かった。異世界に来てお漏らししたり苦労が絶えなかったけど、ようやく報われるときが来るというものだ。
第一印象は大事だな。昼に来るらしいからしっかり準備しておこう。
今の格好は・・・ママにチェックされてた。完璧だ。
他には――
――やることが無かったので。
やることを探して辺りを見回す。おもちゃ、枕、窓、本棚・・・本棚!
そういえばまだ全部読んでない!異世界の事情を少しでも知るために、部屋に誰も居ないし、これはまだ読み聞かせられていない本を読み漁るチャンスだ!
両親の熱心な読み聞かせにより字は読める。身体の強制力で書けないがこの世界について知るには読めればいい。せっかく誰も居ないことだし、本棚の絵本を読み漁ろう!
――ゾクッ!
「ひぁっ!」
決意した瞬間、背筋に寒気が走る。・・・その前にトイレだな。
前世での誕生日は九月三日だった。今世では十一月二十六日。ここにはまるで日本の様に季節があるらしく、廊下が寒い。
「ふー。家が広いとトイレにつくのも大変だなー」
我が家は広い。どうやら貴族らしい。子供部屋を出てドアを四つ。そこにトイレがある。ガラガラとドアを開け、入って閉める。しっかりと鍵をかけて淑女の用は足される・・・
あれ?淑女?僕男だろ? どうして淑女だなんて思ったんだ? そう思いつつも、迫る尿意を排除するため、和式っぽい便器に向かいスカートを脱いで・・・
・・・スカート?
「何故こんなものを履いているんだ?」
そしてスカートをめくる。
答えは直ぐに明らかになった。
「ギャアアアアアアアアア!!無いッ!!無いッ!!何で今まで気づかなかったんだ!?」
僕は、女の子だった。どうして今まで気が付かなかったのか。
衝撃でどうなったかは言うまでもない。
―― 一説によると、子供が性別差を"意識"し始めるのは五~七歳ごろだという。小学生が男女別々に遊びたがるのも、この意識が関係してくるらしい。
では性別を"認識"及び"理解"するのはいつからだろうか。少なくともこの世界の人族においては、三歳からだとされている。
・・・因みに森人族は十歳からだとか。
私・・・僕は今日まで気づくことが出来なかったのだ。自分が女性になっていることを。
因みに驚いて零したのは秘密だ。
身体の強制力は、思考までも縛るものだったのか! 今までは身体の動きだとか働きだとかを強制的に制御するものだと思っていたけど、認識を改めた方が良いかもしれない。確かに生まれてからすぐとかは思考にもブロックがかかっていたのだが、赤ちゃんだからだと思っていた。しかしあれは身体の強制力のせいだったということか。だけど神曰く天才らしいわ、僕に対して思考のブロックをかけるという事は僕の新たな才能はやはり物理的なものなのだろうか、と考察するがヒントもない考察に意味は無い。
不可解さを抱えながら僕は掃除をした。