三章プロローグ 小さな転校生
「今日からこのクラスで一緒にお勉強する、『魔導具ダールグリュン』のお子さんのミヤフィさんと、そのメイド? さんのリタ=クァルテットさんです。そして他のクラスには森人族で彼女たちのお友達のキーナさんが編入して来ました。じゃあ、ご挨拶を」
「はい」
「かしこまりました」
私たちは教壇の上に陣取っていた。
ミラディアの襲撃から一週間後、とある理由で国営の施設に行った際、もし学校に入るつもりなら学費や寮費など殆どが免除されると聞いた私たちは資金稼ぎを即刻中止して、『ウィンカイル魔法学校』に編入したのだった。
「今日からお世話になります、ミヤフィです。まだ四歳と半分だけど、よろしくおねがいします」
わーっと拍手が上がる。まだ小さい私だから気持ち悪がられるかとも疑ったけど、これはありがたい。
「可愛い~」「妹みたい」「髪長くてお人形さんみた~い」「小っちゃい~」などとお褒めの言葉? がキャーキャーした騒ぎの中から聞こえてきた。
いや「小っちゃい」は聞き逃せない。こちとらまだ四歳と半分、向こうは九歳だから、ノーカウント、無効試合だし。小っちゃくないし。すぐ大きくなってやるんだから。
「こちらのミヤフィの従者、メイドをさせていただいております、リタ=クァルテットと申します。特例でクラス内に入らせていただきますが、どうぞよろしくお願い致します」
リタさんにも大きな拍手。こっちには「きれ~」「おとなの美人だ~」などという呟きが漏れる。前者は女の子で後者は男の子だ。
「はい皆、見ての通りだけどミヤフィさんは先週の事件の影響で足が動かなくなってしまったので、特別に従者のリタさんと一緒に登校しています。ちょっと息苦しいと思うけど、皆がお手伝いできるようになったらリタさんは本来のお仕事に戻れるから、出来るだけ手伝うように!」
「・・・? どうすればいいんですか」
発言した真面目そうなおさげの女子は委員長風で、先生の話は真面目に聞いていたがその意味を理解することが出来ずにいた。
「足が動かないってどういうこと?」
「忌子なの?」
「えっそうなの」
「おかしいんだー!」
彼らには「足が動かない人間がいる」ということが理解できなかったのである。当然周りにそんな子はいない。様々な憶測が飛び交った。
もちろん目の前のミヤフィの脚は、リタに支えらた上半身から、ぶらんとつり下がっている。時折ちょっとだけ動くようなそぶりを見せるが、微かにしか動かない。
飛び級なら時々あるが、障碍を持つ子は黙認的に捨てられる、身体障碍者という概念のない世界で、ミヤフィはあまりにも異質だった。
「(うわ滅茶苦茶言われてる・・・日本よりひどいや)」
足の不自由な事での劣等感を未だに受け止め切れていないミヤフィでさえ、無自覚な悪意が突き刺さるような気がする。
若干五歳弱にして試練の時を迎えるのだった。
時に、賢いクラスの男子うち一人が「この美人さんがいなくなるならミヤフィを手伝わなくていいな」と一瞬思ったのは彼の生涯の秘密である。
実際はリタの介助が必要なくなってもこの学校の「メイド学研究室」の室長兼研究員となるので会おうと思えばいつでも会えるのだが。それに気づいたのは卒業を間近に控えた時だったらしい。
「席はあそこね。窓側の一番後ろ。不便ではないと思うけどどうかな?」
「だいじょうぶです。ありがとうございます」
「よし。じゃあ早速一限目の算術から始めましょう」
「(学校ですらこんなに不便だとは・・・先行き悪いな)」
ミヤフィはリタに抱えてもらって移動した。狭い机の間を通っているため後ろの席まで行くのに二十秒もかかり、足の動かないことの不自由さを痛感した。未だに後ろ向きになっていないのは、いくつかの希望がある故か、理系以外への鈍感ゆえか。
こうして学校生活の一年目の幕開けである。
学校に入るまでに16万字かかった勇者がいるってマジ?