非人道兵器・収束
お待たせしました。
(終盤に伏線はりました。そこそこ重要なファクターだと思います)
知識が流れてくる。マントから流れてくるという事は古い知識なのだろう。それとも取扱説明書か――。
魔法の発動時、『理識る闇の絶対聖布』が果たす役割はほとんど杖と同じだが、厳密には少し違う。
杖が魔法の威力を増大させるものであるのに対して、それは演算能力を高めることが基本機能である。
どちらも『抵抗』や『掌握』されにくさで言えば違うアプローチなだけで結果はほとんど同じだが。
細かく言えば相手により『抵抗』されやすいのは演算能力が高い方であるが、『掌握』されやすいのは威力を増大させる方である。
とはいえ魔法の威力が上がるほどその差は誤差に近づいて行くのであまり問題にされない。
同じグレード、すなわち他の勇者の武器と同じ魔法で正面衝突した場合、勝利するのは杖の方だが・・・
「だからこんな事も出来るッ!」
ミヤフィがやろうとしている事は、大気中の魔力を集めての砲撃。ミヤフィの頭上に輝く魔力の塊の、その輝きは地球に無数の流星が落ちてくるかのように渦を描いて一点に収束している。集まってくる魔力はまたコリオリ力の影響を受けているらしい。
威力が大きくなっただけで、これではいつもと変わらない――という事はない。
自らの魔力を周囲に薄く拡散させ、周囲を自らの「領域」として、領域下に置いた変質魔力を体内を介さず「収束」しているのだ。
この状況下で魔法を撃つための最適解、一人で二役こなせ、演算能力に補助が受けられるミヤフィ以外にこんな事は出来ない。
「マントに頼りっきりなのが情けない・・・でも、覚悟しろ」
集められた後、薄く闇属性を混ぜ込んだ魔力を見ながら自嘲する。普段はこんな事はできないのに、勇者の武器を使い始めた瞬間こうだ。まともな戦力として数えられない。
やっぱり普段使い用の杖みたいな魔法器械が必要なのかもしれない。
「ぶっ殺すッ!」
私の家族に害なすものは全て徹底的に壊す、そうしなきゃまた――
「《墜星砲》ッ!」
薄く闇に染まった魔力の塊から、一筋の光が漏れ出る。魔力の放射だ。収束して馬鹿高くなった魔圧を利用した魔力素の加速。作動理論は構造的にはエアスプレーの様なものだが、その威力は拡散せず一直線に敵のゴンドラを貫かんと天を翔ける。
そしてゴンドラの横を通過。
「外した!? ミヤフィ・・・!?」
「大丈夫。後一発は余裕!」
そして少しだけ残しておいた魔力を核に、再びの収束。今度は弾速を速めて放つ。
滑る様に天を駆けた砲撃は少し着弾点をずらされたものの命中。籠から一人落ちていくのがマントによる常時発動魔法の望遠で見えた。
「ずれた・・・もう一発」
「無茶だよ!? もう魔力なんて残ってないでしょ!」
「次は自分で出す」
「それよりあいつらを捕まえて色々質問したほうが良いんじゃない?」
「ん・・・?」
・・・そうか。そうだね。
「そうだね、行ってみよう」
そして落下地点。さっきの殺意もなんだか走っているうちに頭が冷えてきた。あんなのリタさんにバレたらきっとお叱りコースだよ。
「(こんなにメンタル弱かったっけ。今から考えると半分恐慌だった気がするけど、もう半分は・・・)」
「・・・ミラディアの国紋!」
バラバラになった機体の周りに男達が倒れていた。全員が気を失っているか打ち所が悪くて死んでいるかのように微動だにしない。
「あっ、足があらぬ方向に・・・」
「自業自得だよ。今のうちに縛っとこ。生きてはいるみたい。私ももうちょっとでやばかったし・・・あれ?」
「何?・・・あ、まだ変質魔力が」
「倒したら消えるなんて普通ないもんね」
「そうだよ」
町中に漂う変質魔力は発生源を停止させても残ったままだった。どうしようか?
「これってもしかして変質魔力の魔導器械じゃない?」
キーナが角が欠けた魔導器械を見つけた。
「分析してみるよ」
マントから流れてくる使い方通りにマントで包む。一瞬解析中の表示が出て、未登録術式という表示。
「新しい技術は載ってないんだった・・・」
駄目じゃん。どないしてくれんねん、この期待感。
がっかりした途端、「仮想的に使用してみますか?」との表示が出る。
「アカシックレコードというよりつよいスーパーコンピュータって感じだな、おまえ」
さらにユーザーに優しくない(最初は知識の奔流で死ぬかと思った)、不親切なAIときている。演算能力の無駄遣いである。他の勇者の武器もそんなのなのか。
ぼやくとコンソールに「努力します」との表示。あほくさ。
仮想使用は窓OSを林檎OSで動かすようだった。実際には何も起こらずに、マントの演算領域、いやもっと大きい演算領域の仮想空間の中で変質魔力が出てきた。 という判定が出た。
事の原因はこの魔導器械で確定だ。
「とりあえず壊しとこ」
魔力操作の壁で挟んで地面に向かって投げる。
器械は音を立てずに消えた。
「あ」
「・・・拾っちゃったみたい」
だったら出してもらってなにか適当な魔法で壊す、いやでも魔力を無駄遣いできないし、どうしよう。
「・・・さ、作戦終了?」
キーナはそれに関しては気にしないようだった。後で壊せばいいか。
でもどうして怒ってるんだろうか・・・思い当たる点はあるけど。
「ミヤフィ」
「・・・はい」
「正座」
「・・・うっす」
「なに、さっきの殺すって」
「・・・リタさんが死んじゃうと思って」
「でもさっきのは明らかに殺しに行ってたよね?」
「・・・半分くらい」
「いいや、もっとだね。物理衝撃は必要だったの? 魔力ダメージだけ、っていうのも出来たよね? ミヤビってそんな子じゃなかった! しっかりしてよ! バカ!」
本当だ。いや、本当なんだろうか。結果的に物理衝撃があったから二発で済んだのは確かだけど、私の中にも破壊衝動があったのは周りから見ても明らかみたいで。目の前の危機には打ち勝ったけど、さっきは半分以上を破壊衝動に奪われていたらしい。
「カイナぁ、わたしなんてことを・・・」
目元がひんやりする。ああ、わたし、泣いてるのか。
「ミヤフィ!」
暖かい。抱きしめられると、今はキーナの方が大きいから。安心する。そしたらなんだかまた・・・女の涙は大事な時まで・・・
「だいじょうぶ、いまはリタさんいないから」
「うえええええええ!」
・・・わたしが泣き止んだのは体感で五分後だった。
「うう・・・キーナ、もう大丈夫だから」
「うん。・・・なんか言いすぎちゃったかな」
「そんなことない。ありがと。・・・後は変質魔力をどうにかすれば終わりだね」
南中から日が傾き始めていた。もうこの町ではぼちぼち星が降りはじめる時間だ。昼頃から小さなものは降るのだ。それは上空で消えるから、また周りが明るいから見にくいだけで、実際には魔力の流れが始まっているから、空から星が降っているのは容易にわか・・・
「降ってくる星って魔力の塊だったのか!」
「えっ、そうなの!?」
星の話はみんなするけどこれは新発見だよね! しかもどこから来ているのか分からない自然界の魔力供給源だ! これは自慢で喋らずにレポートにして発表しなくちゃ!
「ってそんな場合じゃなくて! 流れてるにしてもこの流れ速度じゃ変質魔力が流れ出る前に日が暮れちゃうよ!」
「そうなんだ? どうにか流せればいいんだけど」
でも、策なら簡単に思いつく。流量が足りなくて流れないなら増やせばいいんだ。
「私の魔力を放出して助けにするよ。そうすればこのあたりの変質魔力は街の外周位には行くはずだから、吸い込まなくていいし、後は空からのプレゼントがなんとかしてくれる」
「だいじょうぶなの?」
「大丈夫。ちょっと気絶するけど、ダメージはないから」
「・・・じゃあその後は運んであげる」
任せたよ。
「街の中心へ行こう!」
そう言いながら走る。走るのは遅いけど、今日最後だからがんば――
トテッ。
痛い。転んだ。手はついたけど、なんかこの数日足の調子が悪い気がする。身長伸びて感覚がおかしいのかな?
「大丈夫!? 立てる?」
「うん。子供じゃないんだから」
「子供でしょ」
その後は何事もなく街の中心部へ。
今度の放出は高濃度じゃなくていいので記憶共有の心配はない。
さっきは泣いちゃったけど、流石に向こうでカイナが死んでからのあの精神状況を覗かれるのは嫌だ。これ位強がってもいいよね。
「じゃあ後はよろしく。行くよ――おおおおおおおおおお!!」
魔力を放出するだけなら簡単だ。全身から魔力を出す。ただ出すだけなのでその魔力は消滅しない。これで私を中心に魔力が流れていくって寸法だ。
これは魔力操作をあまり練習しなくても出来るけど、他のいつ役に立つ技術なのかは分からない。
魔力を捨てるだけって、無駄だしね。
急激な魔力減少に伴って力が抜けていく。急ごう。時間がかかればかかるほど事態は悪くなっていくから。
マントによる残魔力ゲージの表示が少しずつ減っていく。一秒に1%弱か。これならもっといける。やっぱり勢いがいい方が抜けはいいんじゃないだろうか。
「ふぬぬぬぬぬ」
2パーセント強になった。あと40秒くらい!
周りでは魔力が私の色に煌めき、暴風のように拡散している。この調子なら街は、魔力がなくなる頃には無事に元どおりだろう。後は夜に降る星が何とかしてくれるはずだ。
一秒一秒、少しずつ苦しくなってくる。
「魔力切れってこんな感じなんだ・・・」
思えば今まで魔力を切らしたことがなかった。それどころか半分も使ったことがないように思う。
残り三割を切った。少しだけ頭がクラクラする。息を三十秒だけ止めた時みたいな、我慢できる感じだ。
二割。あまり変わらない。心なしか魔力の減少量が減ってきたような気がする。足に力が入らなくなってきた。無風だけど押された様によろめいて膝をついてしまう。魔力が減ったらこんな感じなんだ?
一割。時間当たりの放出量が目に見えて減少していた。今度は目の前がフラフラしてきた。
「まだだ・・・」
そして――まぶたとともに、今回の事件は幕を閉じた。
二章終わり。次から学園編です。(研究室編ともいう)




