非人道兵器・肆
アイデアは打ち止めだった。
風が吹いているわけでもない、発生源も視認できない、時間もあまりない。
こんな時に限って快晴の天気は、陰りがない分情報もない。こんな非常事態に、お日様や気圧の神様はお仕事をしてくれている。
何もなければ魔物狩りピクニックか野外での魔法実習だったのに・・・いやそんな場合ではない。
今この瞬間も少しずつ魔力が減っているのだ。どうしても周囲の魔力からの浸透、吸収を止めることはできず、変質魔力を分解もしくは排出するためには、周囲に正常な魔力がない今、体内の魔力を消費するしかないのだ。
それはミヤフィからすれば無視できる量だが、リタはそろそろ倒れるのではないだろうか。そうなれば移動力のない自分ではどうしようもない。
視点を変えるしかなかった。
何も情報がないなら、逆に痕跡を残さないで魔力を移動させる方法を考えること。何が分からないのかを明確にすることが重要だろう。
地上部隊の計画的な動きから、誰かがどこかで変質魔力を流しているということは確定だ。
分からないのは、やはり魔力の流れだ。
「魔力ってどんな風に流れるんだっけ?」
魔法発動に直接関係ないので忘れていた。
発生源が近くにいないことは明らかなので、自然な魔力の流れに乗せて変質魔力を送ってきているのは明確である。
「魔力の流れ、ですか? まあ復習と思って――」
「簡単よ! 魔力は風に乗って移動するの! それか濃ゆいところから薄い所に流れるんだよ!」
「なるほど。気体みたいなものね」
魔力は使えば減る。当たり前の話だが。
だが普通と違い、エネルギーだけが減る訳ではなく、消滅する。
物質的に残らないので文字どおり減るのだ。それはなんとなく分かっていたことである。
大魔法を使用した際、一瞬周囲の魔圧が下がることがある。魔法に使われた魔力が消滅することにより空白地帯が出来るからだ。
そして次第に周囲の魔力が魔圧の高いところから低いところへ向けて流れ込む。
そのとき、わずかに風が吹くこともなんとなく分かっていた。
そうやって自然界の魔力は平均的に保たれている。
街は魔力消費地だ。リタもそうであるように、魔力の高い者は生活に魔法を使っている。魔力を使ったパン釜、銭湯、それこそ魔導具ダールグリュンのような生活用魔導具店ど。なので周囲の魔力が流れ込んでくる場所である。基本的に魔力は中心に向かって流れてくるはずだ。しかしそれがない。
これほどの変質魔力を生むような魔法なら、尚更そうではないのか――?
なのに今は無風だ。
「上空だ」
「え?」
「空?」
「もう上空しか選択肢がない。変質魔力の発生源は」
上空を見上げる。何も見えない。小さい雲の裏だろうか。いや、機体が小さいのか。
やはりマップ機能を使うしかないのだろうか?
「空を飛んでいるんですか? そんなまさか。これだけの魔法を発動しながら、空なんて飛べるはずがないです」
「リタさん、相手は組織なんです。役割分担位してますよ」
「あっ、そうですね。私も余裕が無いんでしょうか」
実際無いと思う。この中で一番魔力量に余裕がないのはリタさんだ。
「でもそれが分かったところで、どうやって頭に乗ってるのを引きずり降ろそうか……」
太陽が南中してからしばらく経った今、体調不良の被害を出さないためにも急がなければならない。
「探す手段はない……?」
キーナもリタはずっと考え込んでいる。
ミヤフィも自分に出来ることを探し始めた。
魔力操作による自由な形の障壁、闇魔法、まだ内容も知らない『自己顕現』。
そして、『理識る闇の絶対聖布』によるマッピングと適切な魔法の選択。
障壁の階段で上まで登るのは・・・現実的ではない。障壁に爆風を当てれば風圧で空を飛べるが・・・この前上に飛んだのは偶然だ。加減を間違えれば今度は横に飛んだり斜めに飛んだりするかもしれない。
闇魔法にあった『魔力吸収』という魔法はこの場合自滅するだけだし、自己顕現も何が起こるかわからないが、そもそも発動するか分からない。
やはり、『理識る闇の絶対聖布』が無ければ何もできないのか。
「やっぱり使うしか・・・」
「でもそれじゃ、ミヤフィが」
「駄目・・・と言いたいですけど、私にはもう」
タイムリミットである。リタが倒れた。
(もう動けません・・・ミヤフィ様、キーナさん、あとはお願いします・・・)
「リタさん!」
既に気を失っている。膝から崩れ落ちたリタは何とかキーナにぶつかって安全に倒れたのだが、キーナは堪え切れずに一緒に倒れていた。リタが男だったらラッキースケベになっていただろう。
「あいたたたた・・・リタさん!?」
リタが気絶してなお苦しんでいなければお間抜けなシーンにも見えるが、それは決断に十分だった。
「使う」
リュックからマントを取り出す。
それはミヤフィの意思に応えているかのように白く、日に当たって眩く、周囲の状況のように悲しく輝く。
「ミヤフィ!? でも」
「もうこれしかない」
「だからって!」
危険が分かっていて何故使うのか。
他に手が無いだけではない。このような、なぶり殺しのような状況をひっくり返してこそ勇者。いや違う。勇者など関係がない。
「もう許さない」
ミヤフィの顔を歪めていたのは、単純な、この騒動の原因となる者への怒りと。
「『理識る闇の絶対聖布』・・・接続」
勇者の武器無しでは何もできなかった自分への後悔だった。
可愛い顔が台無し、などという言葉では済まない、キーナが泣きそうになるほどの顔だった。半分泣き顔なのでつられ泣きなのだけれど。
◇
彼らは既に飽き始めていた。
「あと五時間もこれ続けんのかよー。もう飽きたわ、なんか暇つぶししようぜー」
「うるさい、寝かせろ。魔力回復だ」
「あーお前は寝てていいから。ババ抜きしようぜ」
「トランプ持ってきてないし、ていうか二人でババ抜きかよ。せめてチェスとか持って来ればよかったな。休憩にならないわ」
全て過去の転移者が持ち込んだゲームである。彼らは作戦中だからと何も持ち込んでいなかった。
完全に気を抜いている。直接敵に相対しなければ緊張感はこの程度だ。
「お前ら煩い!・・・魔圧変化!? 攻撃魔法、回避する!」
突然の攻撃。魔圧変化の伝播速度はほぼ光速と差し違えないので攻撃は遅れてやってくる。
揺れる機体。反応が遅れているので落下により回避。四秒後、頭上を明るい闇が通り抜け、太陽の光を遮った。急に暗くなった身体に少しの違和感と、落下により一度重力が軽くなった後の停止による身体の重さは、彼らの緊張感を取り戻すのに十分だった。
(こんなのに当たったら・・・!?)
「くそっ、地上から撃ってきてるぞ! なんて非常識な奴だ!」
「射手が目標じゃないか!?」
発見から到達まで四秒という時間が砲撃の威力と射程を教えてくれた。
そんなことが出来るのはきっと勇者だけ。そして勇者は攻撃目標である。
非人道兵器を限りなく非人道的な方法で利用する自分たちを棚に上げてそんなことを言う男たち。悪いのは上層部なので仕方ない。
そんなことよりも、今は回避が優先である。
「二発目来るぞ! 左後ろ裏に全力で障壁張れ!」
「了解! 我が内の魔なるものよ、壁となり迫る闇を打ち払え『闇壁』」
風魔法を操る運転手は右前方に機体を移動させる。下降すればさらに狙われやすくなるため、これ以上下降させたくはなかった。
しかし先のように重力を利用しなければ――移動量が足りず、被弾は免れない。
「来るぞ! 三、二、一・・・」
それを計算していた運転手は着弾地点に障壁を張らせ、防御させる。闇を受け止める事に特化した薄暗い色の障壁が籠の下部に広がった。防御者に着弾時間を知らせ、衝撃で他の乗員が落ちないよう警告。
そして、着弾。
「くっ・・・うおおおおああああああ!」
衝撃をその身で感じた防御者は、その尋常ではない威力に、この一撃で魔力を全て使い尽くす覚悟で障壁の維持を敢行する。
それでも――
「ぐあああああああ!」
機体の四分の一が失われた。




