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異世界の運動方程式  作者: 見開き7頁
二章 魔力の奔流の入り口にて
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非人道兵器・参

お待たせしました。ブクマ増えていて感謝の極みです。1章はこの事件で終わります。

 リタにとってはミヤフィが止められない事は自明の理だった。互いの記憶を知ってからの、ある種の共感覚。

 ミヤフィなら、きっと現状を座して眺めるだけなどという事はしないだろう、と。


 だから二人に先んじて現場に向かったし、動いている者を敵だと心に置くと、直ぐにミヤフィとキーナの元に戻ってきて、その間に策を用意した。

「戻りましたーーあらあら、何抱っこなんてしているんですか。心配なのも分かりますが、今はこの状況と、殺戮を止めるのが先ですよ」

「は、はい。リタお姉さん」

 お姉さんと言ったのはついという他がない、と後にキーナは語った。

「はい。では現状を説明しますね・・・」

 リタは敵の装備、戦法、人数を説明した。



「ふんふん、なるほど、投げナイフですか」

 気絶している人々は普通に刺殺しているらしいが、よろめきながらも立っている人々に対しては、投げナイフ、いや、投げソードで致命傷を与えているらしい。

「投げてますので所詮人間を傷つけるくらいの威力しかないみたいですけど、反撃は受けていません。それと、彼らが魔力ダメージを受けずに動いている理由に見当がつきません」

 そこさえ分かれば私達も・・・と考え込むリタ。

「魔力ダメージにやられていない人の共通点は・・・」

 ミヤフィは今日見たものを思い出す。

 他の人より遅く倒れた魔法使い。敵は魔法を使わずに投げナイフを使う。昔習った魔力ダメージの発生原理。

 思考は敵に近付きながらも続いた。急な接敵を恐れて歩きながらなので十分ほどかかる。


「魔力ダメージは体内の変質魔力が個人差のある一定量を超えると起こる・・・攻撃魔法を受けると一定量ずつ増える・・・魔力容量が多い人はダメージが体内魔力で直ぐに洗い流される・・・魔法を使わないで投げナイフ・・・」

 対偶で考える。

「変質魔力が一定量を超えていない・・・攻撃魔法を受けていないのに魔力ダメージが発生・・・魔力容量が低い人から倒れる・・・となれば魔力の流れから魔力ダメージの源は・・・大気」


 魔力の吸収は基本的に呼吸とともに行われる。今この状況で体内の魔力に干渉できる可能性があるのはやはり空気だけ。街全体が変質魔力で覆われていると考えるのが妥当だ。


「・・・ふふん、なるほど、そういうことね、ミヤフィ。私達も魔力吸収を抑えながらなら長い時間活動出来るって訳。簡単なトリックじゃない!」

「敵は私たちの様に魔力容量がとても大きく、魔力吸収を抑えて活動しているということですね!」

「きっと変質魔力の発生源がその中にいるはず! ところで魔力吸収を抑えるのってどうするんですか?」


 キーナはずっこけた。森人族にもお笑いライブがあるのだろうか。

「あんな魔力操作しといてそれが出来ないとかどこの蛇に飲まれた蛙よ・・・」

 森人族の慣用句で、日頃うるさい蛙が静かな事から、いつもと違うこと、または特定の時だけ調子が悪く振る舞うことである。


「継臓と周囲を遮絶する感じで・・・」

「あ、できました」

「速いわッ!」

 蛙は腹の中でも鳴いているようだった。


「でも、魔力も多くて身体能力も高い敵を、魔力無しでどうやって倒しましょう・・・?」

「私に妙案があります」





 うちの隊長がやられた。

 魔力がほぼ無いような俺たちのチームの中で最も魔力の多い者は、他よりもまだマシだと指示されて隊長になっていた。

 その「魔力の多さ」が今回の魔力ダメージの要因なので、今日ばかりは隊長が羨ましくない。

「まさか魔力ダメージで倒れるとは」

 いつもは魔法を打たれても少しだけ耐えられる、頼りになる人なのに今回はそれが裏目にでた。未だ勇者は見つかっていないので厳戒状態なのだが、上手くいかないものである。

 俺は道端で倒れている少女にある程度まで近づき、ナイフを投げ、まずは首に深い傷を与える。そして同時に止めとして、背中もしくは胸のどちらか――今回は背中にナイフを二本投げた。


「すまないとは思っている」

 直撃を確信した後、投げると同時に天を仰いでいた顔を下ろしながら、ナイフを回収に歩く。

 嫌な仕事だ。無抵抗の一般人を殺さなければならないとは。

 俺はハードボイルドに冥福を祈り、ナイフを――


「ナイフが、無い・・・?」


「ふっ――」

 後ろから声がした。


「なん・・・ぐぁっ」


 そのまま首を絞められ、ろくな抵抗もできずに意識を失った。

 柔らかな感触が幸せだった気がする。




「ふぅ・・・成功ですね」

「流石リタさんの作戦、本当に成功した・・・」

「冷や冷やしたー」


 作戦はこうである。

 キーナが魔力ダメージで倒れた通行人のふりをする。そこに敵兵が現れれば、他の市民と同じく投げナイフで殺そうとしてくるだろう。


「ですが、キーナさんには『落物入れ』で投げナイフが効きません」


 キーナは、いや街の人々は倒れているのでナイフを投げる時には必ず下向きに投げることになるのだが、それが「落し物」判定らしい。

 なので現在ナイフはキーナの「拾い物箱」の中にある。

 それに気づかずにナイフを回収しようとキーナに近づくか、ナイフが無くなっていて動揺したところをリタが後ろから首を絞め「落とす」という作戦だった。

 もし予定外の行動をとればミヤフィが狙撃する手筈になっていたのだが。


「魔力節約のために『(スペア)』ですけど。気休めですよね。それに・・・それでも減った分の魔力を補給しようとしているのを止めるの・・・くすぐったいです」

 

 ちょっとだが、そのちょっとがむず痒くてもじもじしてしまう。我慢の限界まで長くは持ちそうにないので、急がなければならない。



 それから三十分程かけて十人を倒した。

「ああっ、ん・・・そろそろしんどい・・・」

「我慢してください」


 また三十分程かけて八人を倒した。

「あっ、やん、もうらめなのー」

「棒読みですしまだ大丈夫そうですね」

「ミヤフィ演技ヘタクソね」


 残りを倒すのにもう三十分かかった。

「もうそろそろいいかな?」

「まだ魔力ダメージから回復している人がいないのでダメです」

 いけずぅ・・・

「何か言いました?」

 口に出したっけ?


 それからしばらく歩いたが、これ以上動く人は見つからなかった。

「・・・結局いませんでしたね。変質魔力を出してる人」

「離れたところから出してるのかもね」

 キーナに言われて周りを見ても、誰も動いていない。いや、きっと城壁の外だろうが。


 リタは思い出したように言う。

「そうですね・・・あ、風上から飛ばしてきている、というのがありがちな線ですね」

 魔力は風に乗る、というのが一般見解らしい。

 指を舐めて・・・目の前に掲げる。少しだけ冷たいが・・・

「無風、です」

「無風、ですか」

 リタも魔力の流れを察知しようとしているが遅すぎて分からない。

 快晴だが無風。盆地ではないのだが今日はそんな天気で、町の温度は少しずつ上がってきていた。

「早くしないと、そろそろ体調を崩す人もでるんじゃ・・・もう崩れてるようなものだけど」


 今日は高気圧の影響か、この季節にしては暑い。朝は放射冷却で寒かったので、動けずに厚着が脱げず、熱中症になる可能性が高い。


「やっぱり『理識る闇の絶対聖布(アカシックマント)』でサーチするしかないのか・・・?」

「最後の手段なので止めてください!」

 だが手詰まりである。

「じゃあ他にどうしろっていうんです?」

「それは・・・」


 リタも、キーナも、ミヤフィでさえその問いには応えることができなかった。

 それは発生源が上空にいると知っていても、目視では点にしか見えないので、本当に他の手が無いからだった。


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