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異世界の運動方程式  作者: 見開き7頁
二章 魔力の奔流の入り口にて
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非人道兵器・弐

 星降街の上空を飛行する籠があった。籠に人が乗っているが、熱気球ではない。風属性『押風プレッス』による圧力変動でで籠を下から押している魔導船だ。当人達の意識では「風で浮いている」という何とも物理無視な認識だが。

 そこには五人の人々がゆったりとくつろげるスペースがあり、一人は真剣に『押風』の維持に努めている。もう一人は周辺の警戒。残り二人が休憩していて、最後の一人は怪しげな機械の前に座っていた。時折魔力を送って何かを調整している。


 これが騒ぎの元凶である。これは大気中の魔力を変質させる装置だ。変質先はラッキースケベ魔導師の言う通り、魔力ダメージを受けた時の魔力である。


 魔力ダメージとは、例えば攻撃魔法を受けた時、物理的ダメージを受ける代わりに体内の魔力を変質させる体機能があるのだが、変質した魔力がある一定濃度を超えることにより生じるショック症状のことである。

 主な症状としては、失神、ふらつき、頭痛など。ひどい場合では死に至る。


 基本的に変質魔力は体内で分解されるが、その材料は大気中の正常な魔力だ。

 そして、彼らは変質した魔力を街にばらまいている。


 

 今星降街では空気中に魔力ダメージが少し溶けているような状態で、継臓で呼吸すればするほど変質魔力を取り込み魔力ダメージを被る。

 そう、星降街には今、星ではなく毒が降っているのである。


「これで星降街も終わりだな・・・」

 一人の男がお茶を準備しながら言った。休憩中の男の一人だ。風魔法要員は三交代制である。

「ああ。悪の魔導師ダールグリュンの娘が来たばかりにな」

「見たところではもうじき暗殺者部隊が到着するようだ」

「魔力無しはこうでもないと役に立たんからな」

「無能が失敗しても夜まで続ければ魔力ダメージが致死量に達するしな!」

「「「「はははははは」」」」

 雲の上の存在であるかのように振る舞う男達。実際には彼らの高度は雲より少し下である。


「うるせぇ! 集中できねえだろうが!」

 風魔法を展開していた男が怒鳴る。それと同時に籠が大きく揺れて温めかけのお湯が溢れ、他の男達は反省するのであった。



 そして星降街の門前。

 門番が倒れているので容易に侵入出来た暗殺者部隊二十四名。彼らは今日の任務の為に、腰にナイフを十本程装備していた。

 彼らは「籠」の部隊が言うように『魔力無し』と呼ばれ、魔法を使える程に魔力を保有していない人々の集まりである。

「行くぞ」

『了解』

 日頃は役立たずと冷遇されているが、彼らはこういう時では活躍する。体内に保有できる魔力、吸収力が少なすぎるため、呼気からの吸収では体内の変質魔力がショック症状が出る濃度までに高まらないのだった。

 とはいえ攻撃魔法を受ければ無理矢理に変質魔力を注入されるため症状は出るのだが、魔法を使える者が全て倒れている現状では意味がない。

 とにかく魔法を使わない事を前提として身体を鍛えているこの部隊は、正攻法で正面切っての突破力は無いが、隠密活動やこのような相手の魔法を封じての作戦に向いているのである。

 人件費ーーこの場合、人権遵守に対するコストーーを限りなく少なく出来るというメリットの方が、ある意味大きいかもしれない。ミラディアの暗部であった。



 一方ミヤフィ達は、騒動の原因が魔力ダメージであることを知ったはいいものの、対処法がわからずにいた。

「今『理識る闇の絶対聖布(アカシックマント)』に接続したら、もし犯人がいた時、そこに着くまでに体力が持たないと思います」

「私もそう思う!」

「面目ない・・・」

「まだ四歳なんだから無理しないで!」

「それにこの状況で魔力を使うのは危険です。無事な私達三人と倒れるのが遅れたさっきの魔法使いさんから考えるに、保有する魔力量が多い方が魔力ダメージで倒れるまでに時間がかかると思われます。原因がわからない以上、『理識る闇の絶対聖布』への接続で魔力を無駄に使うとタイムリミットが近づくだけだと思います」

「でもどうやって調査すれば良いんでしょうか?」

「確かに、魔力ダメージの原因が分かりませんしね・・・」

 人為的なものか自然現象なのかすらも分からない。策が思いつかなかった。

「とにかく外を見回りしてみよ!」

 キーナの提案はシンプルなものだったが、それしか手段は無かった。


 外に出る。集団失神騒動とはいうが街は静かだった。最早火事などの危険を知らせる鐘や、軍隊も機能していないらしい。

 その中で聞き耳を立てたり、遠くを見たりするミヤフィとリタ。だがーー

「異常なし、としか言いようがありませんね」

「はい、でも異変は目の前にあるんです」

 何も見つけられない。

 そこにキーナの声がかかった。

「二人とも、ちょっと静かにして」

 目を瞑って棒立ちしているだけのキーナだが、何かを探知しているのか? 疑問に思ったミヤフィは尋ねる。

「キーナ、今何をしてーー」

「うるさい。」

「・・・」

 つい口を押さえながら、強さではなく、敵わない人からの命令ーー姉に怒られるとこういう感じなのかとミヤフィは思った。海奈だった時には妹みたいだったのに、今ではお姉ちゃんみたいだと思った。

「(なんだかキュンとくる・・・)」

 姉萌えではない。そう、リタも姉みたいなものーーだと心の中で言い訳するが、余り説得力が無い。姉萌えではないとすると、次に考えられるのは、マゾヒストーー

「(そんな、私はMなんかじゃ・・・)」

 毎日それなりにキツい魔力コントロールの練習をしてきたのは誰だったか。


「否定できないッ!」

「静かにしてッ!」

「ごめんなさいッ!」

 手段は平謝りしか残されていなかった。


 口を噤んで待つ。一分ほど経過してもキーナは動かない。寝ているんじゃないかと錯覚するレベルだ。














 長く感じたのは子供だからなのか。やっとキーナは動いた。

「あっちにたくさんの人がいるわ!」

「動いているんですか?」

「うん、動いてるーー後、刃物が肉を貫く音も聞こえる」

「だったら早く行こう! 動けるのは私たちだけだよ!」

 リタははい、と頷いて歩き始めたが、キーナは動かなかった。

「待って!」

「どうしたの?」

 キーナは真剣な顔で心配を喉の先に出した。

「逃げよう! 危ないよ! ・・・今度こそ」

 そんなことーーと言おうとしたミヤフィはキーナを見て硬直する。


「相手は人。どんな手を使って来るか分からないんだよ。それに魔物には『矢」は刺さるけど、人間相手だったら、どんなに魔力を込めたって返す刀一つで弾かれちゃうんだよ」

「だからってーー」


「生まれつきの勇者だなんてどうでもいいでしょ! あたし今度こそあなた(ミヤフィ)と過ごしたい!」

 息を呑む音が聞こえた。誰の音か、それは確認するまでもなかった。

「あたしはあの飛行機事故の後、悲しかった! パパ、ママもそうだけど、あなたにもう会えないって!」


「確かに、勇者というは人と人が争うための機能じゃないはず。私も前は他人が危ないから助けに行こう、だなんて考え方じゃなかった。勇者の何とかで考え方が曲げられたのかもしれない・・・」

 その時は勇者と言う遺伝子のシステムを、どうにかしないといけないとは思う。


 だが。


「例えそうだからって、私とキーナの様な離別が起こることを、これ以上見逃す理由にはならないッ!」

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