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異世界の運動方程式  作者: 見開き7頁
二章 魔力の奔流の入り口にて
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解体ショー

お待たせしました。

 四人の中で動物の解体をした事がないのはどうやらミヤフィだけらしかった。冒険者、修行した過去のあるケインとリタはともかく、転生者かつ森人族であるキーナですら動物の解体はお手のものだった。

 ミヤフィに言わせれば森人族の見た目は完全にエルフだが、肉を食べないわけではないらしい。むしろ森の暮らしでは動物の解体をする機会は多かった。見た目は完全にダークじゃない方のエルフの森人族だが、植物しか食べないという事もなければ、動物を殺さないという事はない。キーナも相当仕込まれていたようで。


「・・・よいしょ!」


 特に抵抗も感じさせずに左前脚が外れた。そして外れた部位は消える。収納されているのだ。肉を取っては消えてを何度か繰り返すと最後の一部位になったがそれは消えなかった。最後の一部位は『落物入れ』のドロップアイテム判定がされないらしい。


 テキパキと滑るようにナイフを入れていくキーナの解体技術はミヤフィパーティでは一番高く、綺麗に剥ぎ取られた皮は被れば本物に見えそうなレベルで切り込みが整っていて、部位ごとに綺麗に分けられた肉は一瞬しか見えないが美味しそうだった。骨や角、爪や蹄なども綺麗に分別されていて、血抜きも並行しているというのにクリーンルームのようであった。解体時は血も回収されるようだ。


 それに比べると劣るが、リタ、ケインも滞りなく解体を進めていた。リタはいつものテーブルナイフではなく暗器のダガーを使って、ケインは盾を地面に置いて腰から長めのナイフを抜いて解体していた。


 対して苦戦するミヤフィ。

「どこを切ればいいの! 分かんないよこれ!」

 リタから借りたテーブルナイフは勝手に動いてくれたが、リタが他のことに集中しているからか、あまり切れなかった。それに奥までは届かなかった。そこで魔力でエッヂを形作ってナイフのようにしてみた。

「これだけ鋭かったら切れるでしょ」


 切る場所を間違えて、断面がズタズタになった。








 それからしばらくして。

 ミヤフィはキーナの解体を見学していた。流れるような手つきにきれいな断面、魔法を利用した完璧な血抜き。それを先ほどから見ていたのだが・・・

「速すぎて何やってるか分からないッ!」

 解体に関してキーナは天才だった。上手過ぎて全くミヤフィの参考にならなかったようだ。

「ちなみに血って飲んだりするのよ。特に上級魔物の血なんかは全然不味くなくて、美味しいくらいなの!」

「へ、へぇ〜」

 話しながらもキーナの手は緩まない。


 結局ミヤフィは見張りをする事になった。ただ森の中に魔物はほとんどいなかった。昨日の魔物の雪崩を躱すために隣の森に行ったことは今考えるとなんとなく分かっていたらしい。しばらく帰ってこないだろう。さらに木々も薙ぎ倒されているものがあり、視界は良い。

「マントを使いこなす練習でもしてようかな?」

 暇でそういったことを考え始めていた。他の三人の解体は速いとはいえ数が多いので時間がかかる。既に四十分程が経過していた。

 適当に見回していると一本の木が目に付いた。

「変な木、葉っぱが平行四辺形だ」

 角では栄養の移動が滞りそうだなと思って近づく。立ち上がって歩く訳だが・・・


「うわっと!」

 地面で躓いた。転びはしなかったが、見られていたら確実に弄られる。

「見られてないよね・・・?」

 後ろを振り返ると、三人が真剣に作業をしているのが見えた。

「ふう・・・」

 躓くなんて久しぶりだろう、と思った。この世界に来てから、転んだのなんてまだ歩きなれなかった頃だけだ。

「解体で引きずってるのかなぁ」

 吹っ切ってしまおう、と〈理識る闇の(アカシック)絶対聖布(マント)〉を取り出し、起動した。


「うあっ・・・」

 再び知識が流れ込んでくる感覚。一瞬今なにをしていたのか分からなくなった。二回目の筈なのに、情報量が膨大すぎて把握できない。いや、二回目だから情報量が増えているのか、とにかく全部は捌けそうもなかったので、少しずつ受け取ることにした。

 

「そうか、最初は余計な情報を受け取る余裕がなかったのかっ・・・あっ、あぁ!」

 少し意識すると情報量が増えてしまう。頭痛に喘いだ。勇者の武器、起動時の負荷は絶大である。


「と、とりあっ、えず魔法知識だけでいいから!」


 これからは毎回こうでは身がもたないと設定を作る。どうせ着る時は戦闘が多いだろうと魔法優先。防御魔法の自動展開。後は状況に応じて使えばいいだろう。

 先にマントを着たとき、『矢』を発動できたのは完全にマントのおかげだ。今なら着ていなくても『矢』は覚えているが、この情報量だ。他の魔法を覚えても脱いだら忘れてしまうだろう。とりあえずそれ以外の情報はシャットアウトするようにすると楽になり、すんなり魔法知識が入ってきた。

「得意なのは闇属性だから闇を一番最初に覚えよう」

 これはマントの得意属性チェッカーの結果である。ただし既存魔法でのデータだ。新しい魔法では当てはまらないかもしれない。一番苦手なのは光属性だった。


「また余計な機能がオンになってる、属性チェッカーオフ!」


 それだけではなかった。意識すると魔力ダメージチェッカーや雰囲気チェッカーなど沢山のセンサー(?)が起動していた。家の鍵チェッカーはとりあえずオフにした。


「・・・リボンの結び方チェッカーもいらないでしょ」


 勇者の武器には無駄機能ばかりだ。


「そういえば前のときは魔法少女よろしく変身していたような・・・」


 何故だろうと思い、そういえばマントの使い方がわからないことに気づいた。

 なんとなく並列思考とかやってたけどどうするんだっけ。使い方の情報を要求すると、また流れ込んできた。


「・・・なるほど。変身してからなら色々体への負荷が抑えられるのか。さっき頭が痛くなったのは無駄に負荷が高かったから。いい機能だけど無理に体を使ってるみたいで怖いな」


 使用後は疲れて眠った変身だが、それでも使って色々試さないことには使いこなせない。戦闘をする訳ではないから大丈夫なはずだと、魔力を流し始める。必要な魔力に達した時、起動キーが胸に浮かんで来た。


「全てを識りて、繋げ。『理識る闇の絶対聖布』、接続」


 言い終わると同時に魔力壁が構成され、服が上層から別の空間に送られて、下着まで消えたところで防護服の構築が始まる。今度は下着から順に構築され、あっという間に「つよそうなミヤフィ」が完成した。


「この間コンマ五秒なんてことはないね。体感十五秒位だったけど感覚が加速してた気がする。この辺は誰かに聞かないとわからないな」


 そして魔法の構造をコピーして複製していたことを思い出した。行動記憶である。

 よくも初めてであんな事出来たなぁと思った。魔力操作は得意だが、あれほど精密な構築は少なくとも変身していないと出来ないと感じていた。


「一個だけ出すなら詠唱の方が楽かな。覚えないとマントを外した時は魔法を使えない駄目人間になっちゃいそう」


 闇魔法から始める。とりあえず『プファ』の呪文を詠唱することから始めた。







 それから時間が経ち、クエストが終了した。特に魔物の襲撃などはなく、順調に作業が進んだため報酬も悪くはなかった。むしろキーナの解体が異常に速かったために他のパーティよりも稼ぎが多い位だった。

 大物に行ったグループの方が多かったが、討伐の分が報酬に入っていただけでなく、このクエストに参加したのは主に大物を討伐、解体した経験がないようなパーティばかりだったため解体できた数が少なかった。



 ただ一つトラブルがあったとすれば。

「ミヤフィ様。どうして森の中で最上級魔法なんて撃ったんですか。しかも威力が五倍って・・・危ないです」


 魔法の練習をしていたミヤフィが森の中で爆発を起こしたことくらいである。それも周囲一帯の冒険者が思わず身を竦めるほどの轟音。自分で撃ったとはいえ、一番近くにいたミヤフィは衝撃でしばらくフラフラしていた。

 その後見かねたリタに解体を教えてもらったので解体はできるようになったが。

「でも闇属性なら呪文覚えたんですよ! 戦闘向けだけですけど最上位まで。凄くないですか! 国語とか歴史とか記憶系の科目は苦手だったのに!」


「関係ありません! 一人で魔法を使うのは危ないので誰か先生になってくれる人と一緒にやりましょう。いいですね」


 剣幕に押されたミヤフィは「は、はい・・・」と頷くしか出来ないのだった。その後もお小言は続き、街に戻るまで続いた。それをみてキーナはクスクス笑っていて、ケインはリタの言葉にうんうんと頷いていた。


「(リタさん私が転生者だって知ってから急に厳しくなったような。まあ精神年齢的に当たり前か・・・ゆったり本でも読みながら帰りたかったなぁ)」


「ちゃんと聞いてください!」

「はっはい!」


 夕暮れを眩しく思いながら、ミヤフィは溜息を吐いた。

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