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異世界の運動方程式  作者: 見開き7頁
二章 魔力の奔流の入り口にて
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罰金バッキンガム

 視界がぼやけている。何か声が聞こえる気がするがなんと言っているのか分からない。そして頬っぺたが前後に変形している。

 ぼんやりした頭に、火花のような頭痛がした。

「痛っ」

 それで目が覚めた。寝ていたことに気づくまで時間はかからず、背伸びをして起きようとしたらベッドが大きく揺れた。


「・・・あれ? リタさん? なんで目の前に?」

「おはようございます、ミヤフィ様」

「おはようございます?」


 訳がわからないながらも朝の挨拶を済ませ周囲を見回すミヤフィ。どうやら抱きかかえられていたようだ。

 周りを見ると見覚えのあるカウンターが壁に反射した朝日に照らされていた。ここは冒険者会館だ。さらに見回すと隣にはケインとキーナもいた。


「(どうして冒険者会館にいるんだろう?)」

 状況は飲み込んだミヤフィだったがそこはわからなかった。だがそこが一番大事なところである。そして寝ていたので先ほどまで頬擦りされていた事には気付かなかった。


「ケインさんおはようございます。ここは冒険者会館? 何でここにいるのかな? あ、キーナもおはよう。とりあえず下ろしてください」

「まだまだ軽いのでまだ抱えていられたんですけど・・・はい」


 リタは名残惜しそうにいずれ重くなって抱えられなくなるミヤフィを下ろすと、どうしてここにいるのかを告げた。冒険者証以外にもやることがあるらしい。


「おはようミヤフィ。昨日何してたか覚えてる?」


 まるで大酒を飲んだ後、二日酔いで痛む頭に覚えていない間のことを問い詰められた時みたいだった。


「昨日はお墓作って・・・大量の魔物を魔法で倒して・・・何したっけ?」


 魔物を放ったところまでは覚えているがそれ以降の記憶は無い。確か兵士さんと喋ったような気がするが、眠かったので何を話したのか覚えていなかった。


「その後ミヤフィは寝てたなぁ。リタっちが背負って色々やってくれたんだぜ?」


「大変だったんですよ? 尋問されましたし。ペシュトロミレイアさんが来て気まずくなりましたし」


 尋問されたのは勝手に城壁の上に登っていたからであり、ペシュトロミレイアと喧嘩別れしていなければすんなり門から出られたはずである。結果的に打ち下ろしの形になりミヤフィ一行が無傷だったのはいいが、魔物退治の報奨金から罰金が引かれたらしい。全員分で鎧が一式買える額だったとか。

 高いかもしれないが正規の手続きを踏めば誰でも登れる上にそもそも別ルートで登れる人がいないので誰からも苦情がこない。


「・・・ごめんなさい。でも町の危機は救えたし、多少の罰金くらいは」


「駄目です! お金は大切にしないといけません! 学生気分をいつまでも引き摺ってはいけません!」


「は、はい・・・」


 ミヤフィはバイト代を毎月ギリギリまで使い込んでいたことを思い出したが、リタはその記憶も見ていた。毎月本やエフェクターが少しずつ増えていくのだ。そしてライブや学祭による出費。学祭の次の月は学祭の月のシフトが少ないので給料が少なく、本当に餓死するかと思った記憶を呼び覚まされた。バンドサークルの宿命である。


 これから学生をするのに学生気分とは、とは誰も突っ込まなかった。


「まあまあリタさん。ミヤフィも反省してるっぽいし、そろそろあれを受け取りましょ。寝ながら表彰されるミヤフィは面白かったし、受付さんを待たせてるみたいだし」


「いやちょっと待ってなにそれ」


「すみませーん、冒険者証を受け取りにきましたー」


 そう、受付嬢は目の前で話し込まれて迷惑顔だった。他に冒険者はいないので他の仕事をしたいのだが流石に近くで話されると席を立つ訳にもいかず、かといって呼ぼうにもお説教の最中なのだ。気まずくない訳がない。


「はぁ・・・お待ちしておりました、お二人の冒険者証です! 最初は無料ですが再発行には材料に応じたお金が必要ですので気をつけてくださいね?」


 額に青筋が見える気がした。なおミヤフィはカウンターの上に顔が出ないのでリタに抱っこされて話を聞いている。


「「ありがとうございます」」


「ではこの魔水晶でお二人とも初認証をしてください」


 リタに持ち上げられたミヤフィから冒険者証を水晶にかざす。青く光った。続くリタも青く光った。正常らしい。


「大丈夫ですね。では健闘をお祈りします」


 適当に礼を返すとミヤフィは銅でできた板を観察し始めた。

 大きさは大人が握れるくらいの長方形。厚みは五ミリメートルほどだ。免許証と同じ向きに読むように出来ていて、左上に名前、その下に種族、年齢が並ぶ。その下にはグレードがあった。こちらの文字で『一』だ。そこまでは紙に書いた通りだったが、グレードの右になぜかアルファベットのようなちょっと違う文字が『C』と刻まれてあった。


 リタは『F』、いつの間にか取り出していたキーナに見せてもらうと『E』だ。ちなみにキーナの冒険者証にも小さく『勇者』の文字が。とても小さく覗き見されてもすぐには読めない大きさだ。その手があったかと思うミヤフィ。アルファベット的文字についてはケインが解説してくれた。


「それはグレードとは別にランク付けされる、戦闘力ランクってやつだ! 今までの倒した魔物からそいつの大体の強さが分かる! ミヤフィはたぶんたくさん魔物を倒したけど上級魔物は倒してないからC、リタっちは新入りだからFみたいだな。二人とも強さはもっと上だろうし、分かる通りあんまり信用できない!」


 ちなみに俺は今グレード二のランクがBだ! と自慢するケイン。こっそり受付に話を聞いたリタが補足するところによると今までの魔物討伐歴だけで決まるランクらしい。最下位が『F』なのでキーナは冒険者登録してから少しは魔物を倒したことがあるということになる。


「やっぱりどうしたってこの世界の文字がアルファベットに見える・・・改めて不思議」


「字を作ったのが初代勇者様だからですよ」


「また勇者・・・」


 どうもこの世界の発達は勇者任せではないか? という気がしてきた。最初の勇者は石器時代にでも来たのか。そんなことよりも、とリタはつづけた。


「ミヤフィ様、預金を確認してください。こういうのは自分でやることが大事ですからね」


「はーい」


 ミヤフィは再び受付に話しかけた。預金額を聞くと水晶に冒険者証をかざすように言われ、かざすと空間に表が浮かび、ポフ:三十万三千四百となっていた。


 この国の通貨はポフというらしい。そういえば今までお金を使ったことがなかったと気づくミヤフィ。全てリタ任せである。お金を見てみたかったミヤフィはとりあえず金貨一枚、銀貨一枚、銅貨二十枚を引きだしてみた。


 表示されている数値が一万百二十減った後、硬貨が差し出された。礼を言って下がる。


 金貨には一万ポフの刻印と、反対側には木のシンボルが彫られていた。きっとそちらが表なのだろう。銀貨には百ポフ、表に何かの鳥、銅貨には一ポフの刻印が両面にされていた。大きさは銅、銀、金と次第に小さくなっている。レートが反映されているようだ。


「さて登録は済んだみたいだし、早速クエストやろうぜ! グレードは十三まであるんだが、黒板に書いてあるのがグレード六まで、掲示板に貼ってある羊皮紙はそれ以上になってるから・・・」


「つまり黒板から選べばいいんですね? ・・・ほうほう、薬草採取、罠設置・・・人探し、ペット探し、アイテム探し、昨日襲来した魔物の解体と素材納品ね・・・」


「それってミヤフィが倒したやつじゃない! どうして解体だけなんて・・・森の近くなので魔物が寄ってくる危険あり、か。なるほど」


「尻拭いは他の人がやってくれてるみたいだな!」


「ミヤフィ様は後先考えない時が多いですからね」


「むー、相手が多かったから急いじゃったんだよ!」


 城壁にも被害が出ていないしいいだろう、と抗議しようとしたミヤフィだが、魔物の部位は有用なものが多い。回収できないだけでも損失なのに、あれだけの量になると時が経てば腐敗による疫病など二次被害を被ってしまうので、回収しやすい場所で倒さなかったのは失策といえばそう言えるだろう。


「(それにマントを使っていた時はいつもと違う感じだったような気がしなくもないような?)」


「私たちにはこれがちょうど良さそうだし、ミヤフィの尻拭いやりましょ!」


 キーナでさえも完全にミヤフィを笑っていたのだった。物思いに耽ろうとしていたミヤフィはほっぺを膨らませて戻ってきた。


 それからクエストを受け、今度は何事もなく城壁を出た。門番に「勇者様、まだ小さいのに危機を救ってくださった」とか言われ恥ずかしくなったりしたが。


 そして何度か素材を乗せた荷車とすれ違いながら森の前に着く。既に数十グループの冒険者と兵士が解体作業を行っていた。兵士が大物、冒険者が小物を解体しているらしい。不正な持ち出しがないようにしているのだろうか。ただ何体かは大型が減っているので、冒険者が倒したものは、その人らの手で既に回収されているのだろう。


「そこの冒険者! 解体か?」


「おう!そのつもりだ! どこに行けばいいんだ?」


「残りはあそこだけだな」


 兵士が示したところには大きさが最も小さいクラスの魔物が大量。そこは森に一番近いところで、魔物と出くわす危険も高い。


「うへっ、数が多くてめんどくさい上に危険も高い、止めに稼ぎも少ないときたか」


「ハズレね」

「ハズレですね」

「ハズレ・・・?」


 露骨に嫌がった一同だったが、ミヤフィは疑問が残る感じだった。ケインはそこに敏感に気づいて尋ねた。まだ出会って短いが、無自覚的にミヤフィが疑問に思う事には大きな価値があるような気がしていた。


「危険が多いって事は、誘われて来た魔物を倒してクエストとは別に素材の報酬があるんじゃないかと思ったんですけど・・・素材は全部ここから出るときに売らなきゃいけないんですよね」


「今ここでは素材報酬が減らされてるからなぁ、倒したミヤフィには討伐分の報酬が既に払われている訳だし」


 勿体無いですよね〜とミヤフィは言ったが、後から寄って来た魔物の討伐分はクエスト自体の報酬に含まれてていた。元より「危険だから戦闘力のある冒険者に作業させる」クエストである。

 手に入れた素材は全て帰る時に売らなければいけないので、後から襲ってきた魔物を多く倒すほど報酬の効率が落ちる、よって魔物を寄せ付けずに作業をするのが最も効率が良い事になる。

 それでもまだ戦闘力の低い冒険者やパーティからすれば比較的簡単にお金が手に入る依頼だった。

 そんな事には気付かずに、ミヤフィ達は仕方なく指定された地点に向かった。狼やイノシシなどに似ている魔物の死体の山を見渡したキーナが気合を入れた。


「さて・・・おっちょこちょいなミヤフィの後片付け、頑張ろー!」


「「おー!」」


 一同はナイフを取り出した。ミヤフィだけは自分のナイフを持っていなかったのでリタのナイフを借りていた。

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