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異世界の運動方程式  作者: 見開き7頁
二章 魔力の奔流の入り口にて
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違和感

新年明けましておめでとうございます。

今年も不定期連載ですがよろしくお願いします。

 前代未聞の大魔法。高位ではないが同種の魔法の多重発動。静かなミヤフィの連れでさえも常識外の異常事態に言葉を失っていた。

 ならば口を開けるのは本人だけだ。


「まあこんなものか・・・ちょっと撃ち漏らしてるなあ」


 ミヤフィの呟きは小さな声だったがよく通った。

 その言葉は周囲の人間に畏怖を抱かせるには十分だった。大魔法を放ってもピンピンしているどころか、状況を見る余裕まである。小さな女の子が、だ。それは同じ勇者であるはずのキーナも同じで、開いた口が塞がっていなかった。


 そんな中いち早く正気を取り戻したのは、ミヤフィに一番理解のあるリタだった。


「み、ミヤフィ様。大丈夫ですか? 魔力切れてないですか?」


 リタは走って近寄りながらミヤフィに質問して、先程の光景に足が緩んでいた二人よりも先にミヤフィの元に辿り着いた。生き物は魔力切れになるとふらつくので、ふらついていないミヤフィには魔力切れの心配は全くしていないが間を持たせるために尋ねただけだ。


「リタさん。大丈夫だよ。まだ半分も使ってないから。今なら何でも出来る気がする!」


「そこまで魔力多かったんですか・・・勇者って凄いんですね・・・」


「うーん、分からないな。遺伝かもしれないし、海の加護のせいかもしれないし・・・」


「海の加護・・・とにかく大丈夫ならいいのですが・・・」


 心配するリタの反対側から近寄ってきていた二人の兵士がミヤフィとリタに声をかけた。一人はいつ目の前に立たれたかも分からない位の速さでやって来て瞬間的に止まったようにも見えたが、ミヤフィが捉えきれずにそう見えただけかもしれない。


「貴女方! 少しお話を聞かせてくれ!」


 遅れた二人目が、ミヤフィの側で立ち止まると、彼らは身分を明かした。


「こんな小さな子供があれほどの大魔法を使えるとは・・・私は壁隊長のミゼルだ。魔物の大量発生について情報を得て本部に送る任務を遂行中だ。彼はサム。貴女の魔法を見ていて事情を知っているようだから連れてきた。小間使いさんでいいが、名前と、ここで何をしていたのか、どうしてここにいるのか教えて欲しい」


 目線を上げてリタに話しかけるミゼルだったが、ミヤフィが答えた。


「壁隊ね・・・やっぱり兵士さんですか。私はミヤフィ=ダ・・・ミヤフィです。こちらはリタさん。小間使いじゃなくてメイドさんです。外に出るのは検問が面倒なのでここから魔物を倒そうと思って登ってきました。そして私が今ここから魔法を撃ったところです。見てましたよね?」


 メイドと言われても誰もピンときたような反応はしなかった。やはりこの世界にメイドの概念は全く浸透していないのは一目瞭然である。


「確かに見ていたが・・・それでも信じられない程の見たことがない大魔法だった。なんと言っていいか分からないが・・・子供で良いのか?」


 自分が勇者であることは広まってもいいが転生したことは何となく明かしたくなかったミヤフィはこっちでの年齢を言った。


「こ、子供ですよ? 今四歳です」


「(大人だ、きっと身長低い族だ)」

「(大人なんですよね)」

「(俺よりも大人な受け答えだ)」


 しかし子供のフリというのは大人には厳しいものだった。転生を明かしていないのに精神年齢はバレバレである。

 しかし情報通のサムだけは大人以外の考えに至っていた。


「もしかしてミヤフィちゃんは噂の勇者っすか? 聞いた話とは全然違うっすけど」


「そうですけど、もう噂になってるんですか!?」


「そりゃあそうっすよ。なんでも勇者が現れたけど頼りなさそうだっただとかまだ子供だったとか。そりゃもうパニックっす。勇者はその種族がピンチの時に現れるんすから、例えば人族の勇者が現れたら人族は滅亡寸前ってことで、弱かったら滅亡しちゃうっす。確かに子供は合ってるっすけど、魔法使いの強さは見た目じゃ計れないもんす」


 弱々しいというのはこの身体を見ていれば分かるが、子供扱いというのは気に食わないとミヤフィは思ったが、本当にちびっこだった。


「これだけ撃てれば大丈夫そうっすけどね」


 勇者と人族滅亡が関係あったとは知らなかった。しかしそんな評価は関係ない。


 まだ危険はあった。


「撃ち漏らしがいます」


 眼下には疎らだが次々と森から魔物が出てきているのが確認できていた。ミヤフィの『矢』を受けても死亡しなかったか、回避した上級魔物ばかりだ。その他はその陰に隠れていた弱小なものばかりである。

 上級はどれも壁を破壊できそうなものばかりだった。


「強い魔物が二十そこら残っています。倒しに行きましょう。このままじゃ--」


 さらなる戦いへの覚悟を決めたミヤフィだったが、周りの反対がひどかった。


「駄目です」

「やめておいた方がいい」


 リタとミゼルは同時に言った。案外気が合うのかも知れない。


「それはどうして?」


「そちらからどうぞ?」


「では遠慮なく。ミヤフィ、今回の魔物の大発生は事前の探知が出来ずに城壁が危うかった。事前に発見できていればどうとでもなったがそれが遅れたために少なくない被害が出るところだった。しかし君がほとんど倒してくれたおかげで全く被害が出ていない。それは上に報告しよう。恐らく表彰されるだろう。だが子供の君をこれ以上戦わせたくはないし、君は近接での戦闘は出来るのか? さっき俺の動きにはついて来れたか? あれ程大きな魔物だ、どれだけ強力な魔法が撃てたとして、一撃貰えばミンチだろう」


 本当に遠慮なく言いたいことを言っている。殆ど正しいと思われた。


「そうですね。ミヤフィ様、私は貴女の実戦を今の『矢』しか見た事がないですから、過保護かもしれませんけど、貴女をあそこに出すわけにはいかない。今日はもう休みましょう」


 そう言って首の前にぶら下がったマントの留め具を外すリタ。ミヤフィはそこまで言うならという気持ちで抵抗しなかったため、簡単にマントが外れ、リタが持つとミヤフィの服装は元に戻った。


 このあたりを支配していた魔力の雰囲気が変わった。べらぼうに多いミヤフィの魔力に場があてられていたため、一瞬にして空気が変わりギョッとする。


 先ほどまでミヤフィから感じていた強そうな雰囲気が無くなり普段通りになって安心するリタだったが、当のミヤフィから出たのは意外な一言だった。


「はあ・・・つかれたー。リタさんごめんなさい、寝かせてくださ・・・」


 途中で眠ってしまったミヤフィはそのまま倒れこむようにリタへ体を預けた。リタが受け止めるとすでに彼女は寝息を立てていた。


『はぁ!?』


 マントはすでにたたみ終わっていたので何とか受け止められたが、さっきまでの態度はどこ行ったと驚く三人。まるで一瞬で人が変わったようだ。そこにさっきまで腰を抜かしていたキーナとケインが駆け寄ってきたがリタは何も説明できず、首をかしげるのだった。


「取り敢えず本部まで来てください。案内します・・・こいつが」


「俺っすか!?」


「俺はまだ見張りの任務がある」


 まだまだ出来ることはあったのに・・・とサムはトボトボとリタ達を案内するのだった。




















 時間は過去に遡り、戦闘を遠くで見ていた伝令によりオダワラ敗北の報が届いたミラディア教会本部、『昇日の街』中央教会。

 タバコの副流煙で少し視界が悪くなった部屋に、男達が集っていた。


戦闘撹乱部隊オダワラが殺られたか・・・」


 オダワラは本来広大な戦場をかけて回り色々なところを少しずつ崩しては違う地点に行き敵の連携を崩す役割だったが、強すぎた。彼らが来れば相手の陣形は崩れたも同然で、ミラディアの殺戮者とも呼ばれ、イメージダウンに一役買っていた。


 そんなオダワラは今でこそ『神聖ミリシア王国』の対外用最高戦力として数えられていたが、実際はミラディア教会の私兵である。それが何故ミリシア王国の兵士のような真似をしていたのか。

 それは破壊欲求を満足させるために彼らを時折暴れさせてやらないと制御がきかなかったからだ。最悪味方まで殺しかねない危険な戦力を失った彼は、嬉しいのか残念なのか自分でもよくわからなくなっていた。


「暴れさせる代わりに高い権力をやっていたのに、本当につっかえん者共だった」


 ウェーブがかった白髪で皺が寄り、口角が恐ろしく下がっている遠目には威厳、近くでは不機嫌を感じさせる顔をした高級神官はつっかえんのところについ気合を入れてしまった。


「それでも付けていた者によれば勇者の両親は殺せたらしい。となればまだ子供の勇者だ、捕らえるのは容易かろう。飴でもちらつかせばついてくるのではないか?」


 こちらは完全に禿げている。脂ぎった顔をニヤつかせて白髪に冗談を言った。

 まあこれで運営が楽になったと思い冗談は適当に切り上げて。


「まだ一人小間使いが残っておるではないか、付いて来ぬよ・・・言うまでもないが。やはりあれによる実力行使しかあるまい」


「あれを動かすのか・・・勇者が他国他教に渡るなら秘密裏に殺せとは思っていたが、まだまだ手は残っていたな」


 『あれ』とは名前を口にするのも憚られるような非人道兵器である。本来は宗教犯罪者の死刑に使われる物だ。それを彼らは『星降街スターダストシティ』でそれを大規模に使おうというのである。


 他にも高級神官はいたが、彼らを黙らせるほどの権力を持った彼ら二人の権力は非常に大きい。それを脅かす勇者は手に入れれば逆に支配を磐石にする。失われてしまった以上、殺すことにリスクは存在せず、リターンしかない。


「動かせ」

「はっ」


 神官達は恭しく礼をしていく。その腹に成り上がりのための真っ黒なプランを何個も抱えているが、最高級神職の二人によるスキャンダル――非人道的な手段に逆らおうとする者はいなかった。


 人道的でなくても非難すれば大義を得られるというのに。


 それでも反対しないのは彼らはマシュロを良く思っていないものばかりだからだ。マシュロの国教はミラディアと教義的には相反する宗教である。宗教での位が高いというのは狂信的な事を指すようで、彼らは蹴落とすべき政敵の悪事ではあるが、マシュロを叩けるのは喜ばしいと黙認を決め込んでいた。控えめに言っても外道である。


 持ちはこばれて来た『あれ』はミヤフィ達の五日後に星降街に辿り着いた。

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