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異世界の運動方程式  作者: 見開き7頁
二章 魔力の奔流の入り口にて
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狼煙

勇者アイテムの本領発揮…はもうちょっと後デス

 それから準備を完全に終えたミヤフィは鑑定屋を後にしようとしたが店主に止められた。


「ところでそのマントとこの手甲のオーナー登録はどうするんだ? 面倒なら手続きはやっとくが・・・」


「オーナー登録って?」

 すかさずケインが答える。


「高級だったり、レアな武器や防具には所有者である事を示す魔力刻印を武器に刻んでおくんだ。そうすると盗まれた時なんか便利だ。有料だが兵士詰め所で場所を特定することが出来る。そして何より、他の人には装備できなくなるから盗まれにくくなる!」


「(つまるところオートロックとらくらく追跡サービスね)持ち主が死んだらどうするの?」


「消える。便利だろ?」


 いったい誰が考えたのかねぇと店主は呟いた。確かに便利そうで、一瞬、一寸だけミヤフィはオーナー登録をしようと考えたが、そこでマントから流れ込む知識が待ったを掛けた。


「この機能は・・・!?」


 なんとマントの機能には場所の追跡機能があるらしい。更に自動帰還機能まである。正直便利が過ぎるが、そういうことならマントに刻印は必要なさそうだ。それにマントと手甲は多分ほぼ同格の魔法器だと思われる。下手に手を出して機能が変わっても困る。だったら手甲にも要らないなと結論付けてオーナー登録は断った。

 オーナー登録の刻印には、責任の所在を明らかにするために所有者だけでなく刻印者の名前も刻まれるので店主は残念がっていたが、必要ないものは必要ない。


 そしてミヤフィは今度こそ店を出た。




「逃げるとか言ってた割にみんな付いてくるんだね?」

「油断している貴女が心配ですから」

「そうよ」

「そうだぞ」

「大丈夫だって、マントのテストには過不足なしだから」

 皆とても怒っているように見えるが、心配してくれているのが分かった。それはとてもありがたいことだが・・・


 歩く。抜く。歩調を緩める。でも焦っているのか歩くのが速くなる。歩調を緩める。という現象が周りで起こっていてミヤフィからすると歩きにくいことこの上ない。いつもは、とは言ってもケインは今日だけなのだが、歩調を合わせてくれたのに今はどうだ。抜いたのに気付いてこちらを見るたびに「本当に大丈夫か」という顔をするのだ。


「何で私が悲しくならなくちゃいけないんだ・・・絶対皆より背が高くなってみせるんだから・・・!」



 二十回くらいそれを繰り返したところで東の城門『イジェコ』に着いた。そこでミヤフィは昨日までの行いを後悔することになった。


「忘れて来ちゃったみたいですね。ダメですか?」

「可愛いけどだめだね。ここを通るには身分証明が無いと。全員分ね。君らはいいけど君らはダメだ。なんか無いの? 市民証はもちろん仮冒険者登録証とか」


「(私たちの身分証明はペシュトロミレイアさんのお仕事だったっけ! 喧嘩別れしちゃったからな・・・冒険者登録証は明日だし・・・)」


 ここにきてペシュトロミレイアと別れてしまった事を反省するミヤフィ。見解の相違でいずれ別行動するにしても身分証明手段を手に入れてから別れるべきだった。出来るだけ可愛い仕草で頼んだが衛兵は通してくれなかった。確かに可愛いですけれど、どこか残念なんですよね、とはリタの談である。


 仕方なく門から離れて。

「よしミヤフィ、やっぱり逃げましょう!」

「そうです! 今ならまだ引き返せます!」

「でももうすぐ足の速い魔物は森から出てくるし、夜には半分くらいの魔物は城壁の近くまで来そうだ。城壁が壊せる魔物は足の速いのにもぱっと見百匹以上いるし、身分証が無いから明日の昼くらいまで街から出れないし、無理に出るともう入れなくなりそうだし、逃げるとしても逆に危ない気がする」

「あっ」

「だから二人はともかく、私とリタさんは魔物を止めるかどうにかするかしかないんだよ」

「・・・そうですね」


 強引な考えだけど、この街の人々を守るためには私が戦うしかないんだ、と思いつつ無理にでもリタを説得した。リタが少々不服そうにしているが一応は納得したので、他二人ももう反対しなかった。


「それに街の外から叩けないなら・・・あそこから」


 街から出られないならと思いついた方法で魔物を倒すことにして、移動する。目標はこの街に影を落としている城壁の上だ。



 城壁の上は絶景だったが、風が強く高所恐怖症だと足が震えて動けない場所でもあった。密入出を防ぐために手すりの類は付いていないのだ。通常そこには兵士だけでなく観光目的でも東西南北にある城門ではなく北西にある兵舎の司令部から登ることが出来るが、ミヤフィ達は違う登り方で登った。


城壁の上(ここ)で魔法の砲台をやって迎え撃ちます」

 登った方法はお馴染み魔力の階段だ。『理識る闇の絶対聖衣』の力で魔法の使い方が頭に浮かんでくるだけでなく情報処理能力も上がっていたようで、魔力の階段と一緒に新しく使えるようになった闇属性魔法『光飛ばし(ダークスキップ)』で姿を隠していたので誰にも見つかっていない。それで城門を抜ければいいと思うかも知れないが、『光飛ばし(ダークスキップ)』はある一定領域の範囲内を発振源とする光を外側に漏らさなくする光学ステルスみたいな魔法だが、足音や衣擦れの音は消せない。この魔法は暗殺者御用達なので存在と対処法は知れ渡っており、四人も衛兵の横を通ったら気付かれてしまうだろう。そんな知識まで送り込んできたマントは一体何者(?)なのだろうか? と勘繰ったが、今はそれどころではない。


 『光飛ばし』は継続している。登り口から遠いからだろうか、周りには離れた位置にいる兵士しかいない。風が強くて話し声もあそこまでは届かないだろう。誰からも気づかれる余地はなかった。


「こんなに遠くから魔法なんて当たるの? 届かなくない?」


 魔法の砲台をすると言っても、城壁は空を飛んでくる魔物に対抗するために三十メートルくらいの高さで作られているため、最低でも真下の三十メートル、斜めに撃つなら四十から百メートルほど射程距離がないと届かない。そのため城壁には防御魔術を強化する魔石や、弩しか置かれていない。そもそもが対空用の施設だから対地用の兵器は少ない。


「届けばどれかに当たるよ」


 寧ろ城門ではなくここから魔物を狙い撃ちするのはアリかも知れない。狙撃ポイントとしては絶好。そして相手は千体もいるのだ。魔法が届きさえすれば狙いは大体でも当たる。ラッキーだ。


「さて、皆ここから私が一方的に魔物を狙えば文句ないよね?」

「まあ・・・はい」

「一方的に狙えるならそれがいいわね」


 そうこうしているうちにケインが魔物を見つけた。

「来たぞっ!」


 土煙が上がる。

 一見、静かに風で揺らめいているだけだと思われていた森から、多数の弱い魔物が雪崩のように出てきた。その勢いと数に、早くも土煙が上がり始めていて、初めに出てきた脅威のある魔物は虎のような魔物『地虎(アースティグ)』だ。森を抜けてきたのだから虎が先に出て来るのは当然だろうか。口元は魔物の血で赤く染まっていた。

「まるで同人誌販売会みたいだ」

 棒読みだった。


「何だ!? ・・・魔物・・・の群れ! 知らせないと!」

 魔物がここに来た背景を全く知らない警備兵も気配を感じて望遠鏡で先頭に近い『地虎』を目視して、震える手で発煙筒に火を点けた。赤色の煙はみるみる上がって本部に緊急を伝え始めた。彼はもう一度群れを見て顔を青ざめさせた後、本部へ詳しい事情を説明するために、壁の外端に立つミヤフィ達の内側をすり抜けて、本部の方へ走って行った。


「そうでなくては困る」


「どうしたの?」


「いや何でもないよ、迎撃するから『光飛ばし』は解除しますね」


「はい、離れたほうがいいですか?」


「そうですね、少し離れていてください」


 『光飛ばし』を解除したミヤフィは早速魔法の選択に入る。

「(そうでなくては困る・・・って言ったけど私は何で上から目線で物を言ってるんだ? さっきも勇者舐めんななんてまるで自分だけが強いみたいに・・・最適な魔法はやはり私が得意な属性と表示されている『聖』と『闇』かな?)」


 自分の思考が途中で誘導されたのにも気付かずに属性の選択は終わった。先程『光飛ばし』もすんなり発動できたし『闇属性』が得意なのは確かだ。


「(ふむふむなるほど、聖属性魔法って回復系が多くて攻撃には使えなさそうだ、ここは闇属性の・・・『光払(ブラックアウト)』、これだな)」


 『光払い』は、闇属性の魔力の塊を相手にぶつけて対象の中に存在する、あるいは入ってくる光属性魔力、及び光を闇に還す魔法だ。ゆっくりと進む魔力の塊に触れると魔力は被弾した対象に入り込み、その魔力が無くなるまで相手は目が見えなくなる。視覚に頼っていればほぼ無防備になると言ってもいいだろう。

 今回はそれに魔力ダメージを付与するために各属性の初歩の魔法、『(プファ)』をつける。魔力の塊を飛ばす魔法だ。どちらかと言えば『(プファ)』に『光払(ブラックアウト)』を付与して飛ばすのだが、それはどちらでもいいことだ。弾速と盲目、どちらに重きを置くかでベースとなる魔法を選べばいいだけだからだ。

 魔力弾の形成をすべて固有魔力を使って行えば、『(プファ)』は着弾時に固有魔力の性質を持って炸裂する。

 すべてマントから今得た知識だが、発動方法の実感もある。ミヤフィは確信をもって詠唱した。


「我が魔よ、此方から彼に飛び示せ。闇の輝きを以て輝きを無に帰し、彼を閉ざせ、『光払矢プファ・ブラックアウト』!」


「(そんな程度の低い魔法一つで、何をしようというのでしょうか・・・ )」

 リタの言う通りどちらも闇属性を使えれば誰でもできるような魔法だが、ここからがミヤフィの本領発揮だ。



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