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異世界の運動方程式  作者: 見開き7頁
二章 魔力の奔流の入り口にて
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アカシックアイテム

お待たせしました。プログレの練習とアークスとクローザーズは時間を割かれますね。おかげで更新が遅れちゃいましたよー(棒)

 アカシックレコード。

 それはこの世の過去に起こったこと、現在に起こっていること、未来に起こること、の全ての知識が詰まった記録で、作品によりそれは本だったり巻物だったり、ものによっては液体やコンピュータだったり様々な形をとっているが、この世を支配したい悪役に必ず狙われる存在である。またアカシックレコードから消したい人がいてもあなたがその人を認識している時点でアカシックレコードからその人を消すことはできないので諦めてほしい。例えその人が生まれる前に時間遡行してもその時間遡行の目的や時間遡行が起こったという事実までもがアカシックレコードに記されるので結局アカシックレコードには残るのだけど・・・と無駄な思考を終えたミヤフィはアカシックレコードなどという日常では一切使わない無駄知識の有無を周囲に訊ねた。


理識る闇の絶対聖布(アカシック・マント)ねえ。アカシックといえば『アカシックレコード』だけど誰か知らない?」


 そのような厨二病特有の知識・・・ミヤフィは雑学と言い張っている、を知っている望みがあるのは地球の知識があるキーナだけだったが。


「『アカシックレコード』って何?」


 キーナは厨二病など患ったことはない。


「そりゃ知らないよね・・・『アカシックレコード』っていうのはこの世の全てが書いてある記憶媒体で、それを読めば過去から未来までの全てが分かるんだ」


「何でも分かるの?」


「うん」


「そのようなものが存在するのですか?」


「あくまで想像上の存在だけどね。こっちはそんな感じのものは無いの?」


 なんでも魔法で解決できそうなこの世界ならアカシックレコードの一つや二つくらいあるだろうと思ったミヤフィは尋ねたが、肯定は返ってこない。


「聞いた事がありませんね・・・アカシュックレコードのようなものにも心当たりは無いです」


 アカシックレコードと言おうとして噛んだリタは全く恥ずかしがるそぶりを見せなかったが、小声で「アカシックレコード・・・アカシックレコード・・・」と繰り返し始めた。横でキーナがプルプルと震えている。


「アカシャックレコード・・・ッ!」










 ケインは自分を空気の読める男だと自覚している。いつも女性が恥ずかしい目に合えばフォローするように努めてきたので、これ位は余裕で話題を変えられる。


「へ、へえ。それで、このマントがアカシックレコードとやらに関係あるのかい? マントは本や巻物じゃないだろ?」


「・・・そうなの。何も書いてないし・・・名前だけのハリボテかな? 使い方が分からないからどうしようもないよ」


「普通の魔法器は鑑定で使い方が分かるもんなのになあ・・・」


 一同は溜息を吐いた。ケインのフォローは上手くいったと考えていいだろう。リタはまだアカシックレコードと練習しているが、恥ずかしがっていないので大丈夫だ。

 しかし、ミヤフィだけがこの不思議なマントのより良い形態を引き出したのに本人に使い道が分からないのではお話にならない。先程からマントをバサバサ振り回してみたり、着てくるくる回ってみたり、跳んでみたりと色々やってみてはいるのだが何も起こらない。


「最後に魔力でも流してみるかな」


 最初にこれをやらないのは元地球人だからだろうか。昨日このマントが今の形に変化した時魔力を吸われた気がする。これで駄目だったらお蔵入りだな、と思いつつ、少量ずつ増やすのは面倒なので本気で魔力を流してみる。


「ちょっと本気で魔力流してみます」


 ドッ! というプレッシャーとともに、爆発的に魔圧が高まった。


「うわっ!? ミヤフィちゃんとんでもねえ魔力だな!? こりゃすげえ! 俺の目に狂いはなかった!」


「あたしより多い、流石ミヤフィ!」


「ミヤフィ様、魔法器は容量以上の魔力を流したら壊れますよ!」


「びっくりして鑑定やり直しじゃねえか! 勘弁してくれ!」


「ごめんなさい!」


 怒られても気にせず魔圧を上げて今にも流れ出しそうな魔力を解放して流し始める。リタには壊れるかもと言われたが、何故だかどれだけ魔力を流しても壊れない気がしていた。


 実際に魔力は流せば流すほどマントに吸収されている。首にかける部分を留める青いクリスタルのペンダントがそれに伴って輝きを増していくが、まだ店が薄暗いから見えるとしか言いようがない、電池切れの懐中電灯くらいの明るさしか発していなかった。


「まだ輝きが足りないな」


 どれ位になるまで魔力を注げばいいか、と考えて、アンプのパイロットランプ位の明るさが丁度いい。何故かそのような気がした。そもそも勇者関係で名前に「アカシック」と付くのだ。恐らく知識の塊である。使い方は神っぽいあいつが言っていた加護的な何かか、一番ありそうな線でこいつが教えてくれるだろうと期待して、そうなるまでどんどん魔力を注ぐ。


 クリスタルがそれ位の光を持った時、変化が起きる。


「頭が軽くなった」


 フードが縦に二つにわれて、後ろに垂れたのだ。目に見える変化はそれだけだったが、目に見えない変化もあった。


「魔力パスが二本? こっちは入り口、そっちは出口? あれ、何で分かるんだ?」


 ミヤフィがマントの中の魔力回路を認識出来るようになったのだ。自分とマントの間には入出力の二つの穴、のようなものがあると認識できた。そのうち一本は入力、先程からミヤフィが魔力を込めていた場所で、もう片方は出力だった。何故出力だと分かったかは分からないが、加護・・・いや、マントが教えてくれたのだと思ってミヤフィは無造作ににそのパスを継臓に通した。本来は出力は魔法が出てくる先で、炎や氷、土などで危ないのだが、危険がないと思ってのことだった。


 瞬間ミヤフィを中心に、輝く正八面体の魔力領域が展開された。その魔力は紫色をしていて、領域を作っている事からミヤフィのものである事を雄弁に物語っていた。それでも不透明な魔力の壁に囲まれている四歳の女の子のことがどうしても心配で、キーナとケインが驚きの声をあげるも反応は無かった。


 それから五秒程で紫色の光が消えた時、一同は驚きに包まれる事になった。








「なにこれええええ!?」


 一方中のミヤフィは、閉じ込められてマントがたなびいたかと思った次の瞬間、何故か全裸にひん剥かれていた。服が一瞬にして魔力の色になったかと思うと消えていたのだ。それから足元や頭上、腕の周り、足の周り、胴回りに円形やメビウスの輪状、閉じていない帯の魔法陣が展開されていくのをただ見つめるしかなかった。


「(いったい何をどうするの!?)」


 冷や汗をかく時間的な余裕はなかったので内心でだけ冷や汗をかいているミヤフィを包むように、澄んだガラスを叩き共鳴させた楽器のような音と共に、全裸状態からニーハイソックス、ぴっちり目のパンツ、インナー、下から半分くらいまで横が割れた膝長のスカート、上服、指ぬき手袋まで着たところで、丁字に固定されていた体が動き、手が降りて足が少し開いた。そして低いヒールのあるぴったりの靴が構成された。

 そして最後に構成されたのはマントで、本が目の前に出てきたと思えば装飾のある一枚の布になり、一周の輪の輝く金具の内を通って一体化しフード付きのマントになった。そして頭から首まで通ったところで非接触で固定された。金具は前面では少し落ち込んでおりV字に円がついた様になっていて、最後に紫色の宝石が固定され、それを守るための金属フレームがついた。


 それから変身は仕上げに入る。


「全てを識りて、繋げ! 『理識る闇の絶対聖布(アカシック・マント)』、接続エンゲージッ!」


 ミヤフィは急に湧いて出てきた確信に従って何も考えずに台詞とマントがバサっとする様なポーズをとった。同時にフードが縦に割れ、蝶々の下羽を上下反転させた様に開き、そして周りの正八面体が割れた。








 光が割れた後、最初に発声したのはリタだった。普段何もしていない時にミヤフィの体から発せられる魔力漏れが全く感じられないほど障壁がしっかりしている様を見て驚いた。


「かつて勇者は各々がこの世界のどこかにあるという神話武器で敵と戦ったと本で読みましたが、すごい・・・!」


「ああ、そこらへんの魔法器械とはお話が違うぜ。あれだけ魔力を入れても壊れないし・・・一つの魔法器械では一種類の障壁しか出せないらしいが・・・これは何種類あるんだ? 枚数も数えるのが億劫だな」


 感心する二人を他所に、ミヤフィは一人赤面していた。


「(いやいやいや何これ!? めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど!?)」


 いきなり周りが光ったかと思えば全裸変身からのかっこいい台詞である。しかもめちゃくちゃノリノリだった。これが恥ずかしくなければ何が恥ずかしいのだろうと思った。


「いやそんなことより見た目めちゃくちゃ弱そうだったミヤフィが強そうになってるわよ! こんなに小っちゃいのに!」


「へ・・・何だこの厨二くさい衣装は!? いやキーナ、私そんなに小さくないもん!」


 ミヤフィはキーナと比べても頭二つ分くらい凹んでいるので本当に小さかった。変身が始まる頃にはアカシックレコードと言える様になっていたリタはシルヴィアの姿を思い出しながら励ます。


「大丈夫ですミヤフィ様。シルヴィア様は私より背が高かったですから、きっと伸びますよ」


 当然バストサイズのことは喋らない。口は災いを産むのだ。


「そ、そうだよね、一次の成長期すらまだだしね」


 糠の上でホッとしたミヤフィだったが、時間が経つとともに頭に流れて来た情報からマントの能力を理解していくとその顔は険しいものに変わっていった。


「へぇ・・・魔法ってこうやって使うんだ・・・それに百万七千三百四十九種類の機能ロック、ほとんど開いてる、後五十種類くらい? 八十種類の対魔力、対物理防壁・・・それに・・・GPS? いやゲームみたいなマップだな・・・地名まで書いてある、それに赤い大きな三角形は・・・敵?」


 その三角に意を注ぐと注釈が表示された。現在三角形は街からそれなりに離れた場所にぎっしり詰まっていたが、表示された速度から、それがゆっくりと街の方向に移動してきていることが分かった。


「大きな邪属性魔力から逃げてきた弱小生物とこの街に誘われた強大な生物の群れ・・・これって」


「あいつのせいですね」


「そういえばなんか街道に立ち入り禁止区域と回り道の区間の護衛のクエストが出てたな、もしかしてそれか?」


「街道からは少し外れた所を通ってきたのに街道にまで被害が行っていましたか、やはりあの眼鏡は凶悪でしたか」


「でもあいつらを見て一目でオダワラだと分かったパパって一体何者? いやそんな事より強大な生物がこの街に来てるって不味いんじゃない? 数も多いよ?」


「どれくらいだ?」


「雑魚は抜いてざっと千以上」


「「「千!?」」」


「名前は・・・石巨人ストーンゴーレム軍猿アーミーモンキー人鼠ヒューマルラット毒虎ポイズンタイガーとか・・・一番強そうなのは・・・炎鱗龍ブレイズドラゴン? 他にもいっぱいいて言い切れないな」


 ケインは顔を真っ青にしてその場に手をついて嘆いた。キーナは少し分かっていない風だったが、リタは表情を引き攣らせていた。


「終わった・・・この街終わった・・・!」


「たとえ龍でも単体ならどうにかなりそうですが・・・他にも魔物がたくさんいるとなると流石に・・・逃げたほうがよさそうです」


 ドラゴン種は下級の戦闘力を持つ種ですらよく連携のとれた人々が十人程度集まらないと勝てないとされていることを知っているリタとケインは、魔物の数も考慮して早速逃げる用意を始めようとしたが、横で準備をしているミヤフィを見て動きを止めた。


「まあ龍といえば強い魔物の代表格だよね・・・っと、入った入った」


 ミヤフィはマントが用意したマントがチャームポイントの魔法少女風の服の上から腰に着けたポーチに、保存食や傷薬、水などの戦闘で使いそうなものをどれも取り出しやすいように整理しながら入れていた。明らかに逃避行のと準備とは違う準備だ。


「なにしてるんですか?」


 聞きながらリタは思った。ミヤフィのしている事は分かっている。だが世の中には分かっていても聞かなければならない事があるのだと。


「あれ、倒しに行くんじゃないんですか?」


 それに対してミヤフィは何食わぬ顔でそう答えたところで、空気が読めてないのか? と微かに感じ始めた。もし男だったらケインからありがたいご指導をいただいているところである。


「「なんで!?」」


「だって私達冒険者ですし、龍ですよ? 倒すしかないじゃないですか。これのおかげで私強いし戦力的にも行けると思いますよ?」


 ミヤフィは感じ始めた空気などを気にせず答えた。男の子は一度は龍退治にあこがれるものだ、と思ってそういえば今は女の子だったと思い直したが、ドラゴン退治は思い直さなかった。


「・・・ミヤフィ、そのマントがすごいとしても流石にドラゴンは無理なんじゃないの?」


「そうだぜミヤフィちゃん! 俺は前衛だけどよ、ドラゴン相手はやったことねえ。一撃で堕ちちまうかもしれないぜ?」


「それはないです。私が補助しますから」


「ですが危険です! 街の人々にはそれに気付いている素振りはなかった、兵士の準備は間に合わないはず。こちらは少数です、いくら強くなったとて、物量でやられますよ?」


 マップを見ると確かに城壁前にはなだらかな丘があり、五キロ程進むと森が広がっている。魔物はまだ森の中を進んでいるため城壁からは見えず、その森も街道からは遠い位置で、誰も気付くことが出来ない大移動だった。これでは軍の準備が間に合う前に魔物の群れは街へ到達しそうだ。


「でも相手がドラゴンとかなら城壁は壊されます。逃げたとしてこの街は無くなりますよ? 魔物を捉えたのと同じ地図の効果で、この街にいる人々の名前が分かってしまって、見捨てられないです」


「でも」


 皆が反対する中、ミヤフィは笑顔で言い切った。



「大丈夫、勇者を舐めるな」

そろそろ練習もそれなりの数になってきたところで新作の設定も温まってきました。夏休みのうちに投稿できたらいいなと思います。

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