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異世界の運動方程式  作者: 見開き7頁
二章 魔力の奔流の入り口にて
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たのしいおはかづくり

 次の日。ミヤフィとリタはいつものように日の出と共に起きた。キーナは日の出から三十分後位に目覚め、既に一日の準備が終わっていたミヤフィ達に驚いて急いで準備したが、髪はボサボサ、服はきっちり決まっていないと散々で、リタに直された。


 日の出から一時間後、宿の朝食の時間になった。この宿には冒険者が多く泊まっており、朝食はがっつりと取る人が多いので量が増え、準備に時間がかかる。その結果が一時間後だ。従業員が小気味良い音を鳴らすベルを振ると一階二階、外で素振りをしていた冒険者達が一斉にドタバタと入り口前の食堂に集まった。


「うーわ凄いね。通勤ラッシュみたいだ」

「冒険者さんは活力がありますからね」

 通勤ラッシュにしてはアグレッシブな集団に巻き込まれたくはなかったので歩いて食堂に向かったミヤフィ達は当然待機列の最後尾に並び、他の客が美味しそうにパンと魔大豆の赤味噌スープを食べているのを眺めていた。


 そこに後ろから近寄る影。


「ふぁぁ~。眠い~。何で朝食の時間は選べないんだよ~」


 彼は金髪の髪をボサボサにし、寝巻きのまま列に並んだ。前世ではたまに同じことをしていたミヤフィですら「だらしねぇな」とつい呟いてしまう程のだらしなさ。

 それが聞こえた彼は声の主を見た。だらしなくても音の方向を完全に把握できるのか、ミヤフィの頭上を見る事なくミヤフィの方を直ぐに見てかったるそうに応えた。


「はいはい、悪ぅござんした。ってあんた誰だ?」

「・・・なんでもないです」

 社交辞令スマイルで誤魔化したが、彼は眠くて機嫌が悪いのか、突っかかってきた。

「なあ良いじゃんよ嬢ちゃん、ついうっかり口を滑らせての出会いも一興ってやつさ」

「ごめんなさい失礼なこと言って。あなた幼女趣味の危ない人っぽいので自己紹介は名前だけ。私はミヤフィです」

 出会いという言葉に反応するミヤフィ。出会い系サイトは危ないとか歌い手が出会い厨・・・だとかという前世での知識から、出会いと聞くとなんとなく忌避感があった。大体ぼさぼさな髪のせいである。


「おいおいシケてるなあ。こう名前だけじゃなくて戦闘スタイルとか教えてくれてもいいじゃんよ。何よりここは冒険者達が出会ってパーティを組む場所の一つである宿だぜ? ああなるほど、俺の自己紹介が先だったな。俺っちはケイン。武器は長剣にタワーシールドだ。十六歳で偏属性は大地。盾役にうってつけだろ? どうだ嬢ちゃん達、あんたら強いんだろうが、前衛いないんだったら一緒に「冒険」しないか?」


「・・・ロリコンって訳じゃ・・・なさそう?」

「いいんですか? 背後から撃たれるとか考えないのですか?」

「あんたらみたいな可愛い娘達に撃たれて死ぬなら本望かもな! なあ従者さん、友達から始めないか?」

「従者じゃありません、メイドです・・・私には主人がいますので・・・」

 満更でもなさそうに顔を赤らめ俯いて断るリタだった。反応をみてケインはもう少し攻めたが、

「私にはメイド道がありますので・・・」

 と断られてしまった。


「まあ脈ありって事にしといて、どうだい、ランク三地域辺りには行けそうな気がするんだが?」

「私達まだ冒険者に成り立てですから遠慮します、それに今日はやる事があるんです」

「なにするの?」

「昨日言ってなかったっけ? 鑑定の前に、パパとママのお墓を建てるの」

「石作るなら得意だぜ」

「貴方には聞いてません!」

 リタは顔を赤くしてほぼ反射的に突っ込んだ。


「(この二人意外と反りが合ってるんじゃ)」

 そのタイミングは正しく阿吽の呼吸である。

 確かにケインは背は高く、顎はすらっとして、目は水色の西洋風のイケメンで筋肉もあるし悪くはないのかなと思うミヤフィだったが、自分の好みではないーーと考えてやっぱり恋愛的に好みも(性別からして)変わっている事を意識して、そこから三段飛ばしの思考でミヤフィもまた顔を赤くした。まるで心まで初心な乙女になったようだった。





 朝食をとった後一行はお墓の土地を探しに城壁の外の墓地に来ていた。しつこくも、ちゃっかりケインが付いてきていた。


 そこは城壁に比べれば心許ない木製の囲いしか無かったが、墓地は減らさない限り拡がっていくものなので、尊厳と経費のバランスを考えると妥当なところだと判断されているのだろう。なお経費には邪属性魔力による遺体のデッドモンスター化、つまり遺体が邪属性魔力の効果で動き出す事も勘定に入っていて、大量発生しても墓地が石や金属の壁で要塞にならないために木が使われている面もある。心許ない方が都合がいいのだ。それに、墓地を襲う魔物などお供えを狙う弱い鳥類だと相場が決まっている。


「やけに荷物が多いと思ったらミヤ・・・フィの両親の遺体が入っていたとは、大丈夫なの?」

「大丈夫、お別れはしてきたから」

「空を見上げながら言われてもねぇ」

「本当に大丈夫だから!」

「辛かったらいつでも俺っちを頼ってくれてもいいんだぜ?」

「そうさせてもらおうかな?」

「こんなのよりも私を頼ってくださいミヤフィ様!」

「ありがとう」

「こんなのとは酷いぜリタちゃん!」

 ちょっと周りはうるさいけど、心配される自分は幸せ者だと何処かに感謝だ。きっとお星さまくらいが聞いてくれるだろう。うんうんと頷いていると、本当に周りがうるさくなってきた気がした。



 しばらく探すと良さそうな場所が見つかった。


「ここ花畑に近くて良いですね」

 キーナは屈んでお墓目線で周りを見た。

「良い景色ね、ここが良いんじゃないかしら」

「そうですね、では穴を・・・」

「任せてくれ! 万物を容れよ『造穴メイクホール』」

 ケインが手のひらに魔法陣を展開し掲げると、地面にも魔法陣が描かれ、四角形に地面が光り、その部分の真ん中から少しずつ地面が崩落するように穴が空いていった。最終的に出来たのは丁度人が二人分入れる棺のような直方体の穴で、一瞬遅れて穴と同じ体積の土が直ぐ横に積み重なった。


「おお、やっぱり魔法って凄い」

「だろー?」

「考えたのは五代前の勇者ですよね?」

「そこまで素っ気なくすることないじゃんよー?」

「ふんっ」

「さっきのナンパ紛いは謝るからさ!」

 頭が上がらないとは正にこの事で、先程からケインが何かを言うたびにリタが突っかかり、ケインが適当に謝るという状況会話とでも言うべき事が繰り返されていた。彼らにとって一種のボディランゲージなのだろうか。


「(いやイチャイチャしてるようにしか見えないから)」

 それは元工学部のいがみというものかも知れないが、ミヤフィとキーナはあきれ顔でそれを見るしかなかったのは間違いない。


「じゃあ遺体を埋葬するぜ」

「待って」

「ん・・・どうした?」

「火葬しないと、何だっけ、アンデッドになっちゃう!」

「アンデッド? なんだそれ・・・・・・デッドモンスターの事かい?」

「ミヤフィ様」

「はい、なんでしょう?」

「一度『屍人(グール)』、デッドモンスターになった死体は二度とデッドモンスターになりません、大丈夫です」

「一回浄化したし、それなら土葬でも大丈夫なのかな」

 それを聞いたキーナとケインはゾッとした。


「この二人、一回デッドモンスターになってるの・・・?」

「一体どれだけ魔力あるんだ・・・一流の大魔導士でも一人数日かかるって聞いた事があるぞ・・・?」


 驚く二人をよそに遺体を穴に並べて入れるミヤフィとリタ。墓前に屈んで、それぞれが思い思いの祈り、決意を口にした。それぞれ小声で呟いているので他の人には聞こえていない。

「彼の世でも仲良くしてね・・・」

「ミヤフィ様は必ず私が立派に・・・」

 遅れてキーナとケインも祈った。

「ミヤフィをこっちに連れてきてくれてありがとう」

「・・・」

 お祈りを済ませてミヤフィたちは黙々と穴を埋めた。穴を掘るのには使わなかったが、実は持ってきていたスコップは土の重さを損失なく掌に伝えてきた。


 土を掛け終わって、ケインとリタで墓石コンペをして、リタの石の方が美しかったためそっちを使う事になった。墓石の表面には「大切な者の為に命を賭けた勇敢なる親、ここに眠る」と彫られてあった。悔し涙のケインは落ち込みながらも鑑定屋に向かう一行に逸れずに着いてきた。









「これを鑑定してください」


「はいよ、銀貨四十枚ね」

「(高けーよ!)」

 鑑定屋に着いて、直ぐにミヤフィはマントを脱いで鑑定屋に預けた。鑑定料が思ったより高いが、彼らからすれば客は二度同じ物品を持ってくる事は無いため、一回こっきりの商売だ。だから値段は高くしているのだろう。


 ところでこの世界の貨幣レートだが、何故かどの国でも大体一緒で、銅貨百枚で銀貨一枚分、銀貨大体百枚で金貨一枚分らしい。レートのせいなのか銅貨はとても小さく、金貨はとても大きい。大体、というのは金と銀の需要により時折レートが変わるからだ。例えば戦争や災害で政府が大量に物資を注文すれば、支払額が多いので当然その支払いには金貨が使われる事だろう。そしてそういう時、政府は大量に金貨での支払いをするため市場には金貨が溢れる。金貨が大量にあれば金貨の価値は下がる。その後民が納税に金貨を使い始めれば金貨は国庫に戻り、市場での量が減った金貨は元の価値に戻る。銀と銅の間でレートが変わる事はここ百年でなかった。

 とミヤフィはリタから教わったのだが、理系だったのでそういう変動市場などの経済は理解できるのだが疑問点が一つ。


「(精錬技術が発達してないはずのこの世界でいえば銅貨って明らかに百円以上の大きさがあるのにそれより小さいお金が無いんだよね)」


 銅貨は十円玉よりも少し小さいが、精錬技術が未発達ならばその程度の銅でもそれなりの金額がするはずである。つまり銅貨が例えば五百円玉として、無いからには必要ないのだろうが、それより小さな買い物はしないのだろうか、と思って考えてみると、そういえばこの世界は地球ほど物に恵まれていないのだと気付く。

「(お金の価値が安い)」

 それほど物が無いのなら、ちょっと物が不足すればインフレが起こるな、とミヤフィは先程から考えていて、マントの名前を聞き損ねた。


「・・・って名前だね。凄えぞ、初めて見た。鑑定書を出すから待ってな。・・・あと他にも同じ様な物があればただで良いから鑑定させてくれ! 鑑定したとなれば箔が付く!」


「へえそうなの、じゃあ詳細な鑑定を・・・どうする、ミヤフィ?」

「へ?」

「だから大地の絶対手甲を詳細に鑑定してもらうのよ、聞いてた?」

「聞いてなかった」

「しっかりしてよー」

 ごめんごめんと謝って、また考え事かとあきれた目線をもらったがミヤフィは気にしなかった。彼女にとってはそういうことは日常茶飯事で、むしろ考え事のほうが大事だと思っているからだ。考え事は人生を潤わせる。二十年ちょっとのまだ短い人生で彼女が培ってきた考え方だ。考え事をして一の情報から十を導き出すのは楽しい。

 戻ってきた鑑定士から鑑定書を受け取り、詳細な鑑定を頼んだ。

「おお! あるのか! 駄目元で頼んでみたが本当にあるとはな、ありがてえ」

 鑑定士は嬉しそうに大地の絶対手甲を受け取って、奥に持っていった。そして裏に入って何かを確認して戻ってくる。それから鑑定を始めた。どうしてそんなまどろっこしいことをしているのかというと、今部屋の隅で彼は『鑑定』の魔法を使っているが、

 鑑定している間に鑑定書で先程聞き損ねたマントの名前を確認する。


 分厚い羊皮紙

「なになに・・・? 『仮名:闇の聖布(ダークセイクリッド)』と『真名:理識る闇の絶対聖布(アカシック・マント)』? クサメタルみたいな名前だな」

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