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異世界の運動方程式  作者: 見開き7頁
二章 魔力の奔流の入り口にて
31/66

イタ飯実食

5/29 ミヤフィが食べるものはイタ飯ではなくスペイン料理だとご指摘が。それでも食べる物は変わらないので話の本筋に影響はありません。

「ミヤフィさん? そんな大声で突っ込みのような声をあげてどうしました?」

 異世界でイタ飯を食べることになったミヤフィは驚くと同時に赤面していた。さっきまでの自分の言動はどうだったか。要約すると「日本食は醤油がいいですよね」である。異世界に召喚されるのは日本人ばかりだと思い込んでいた。そこにまさかのイタリア人である。店の看板は古ぼけた木の板だがイタリア語で書いてあるので地球産の店で間違いないだろう。


「なにが醤油だよまったく」

 思い込みの結果を反省しながら店に入る。他に日本人がいたら笑われていたところだが、いないのでほっと一息吐きながら入った。思い込みの結果悪い結果を生んでしまうところは、生まれ変わっても変わっていないところだ。それで私立大は全て落ちてしまったのだ。W大は物理、M大は数学でやらかしたのだった。これでこのまま一人で戦闘をしようものならいつ何をどうドジってやられるか分かったものではない。


「ほう・・・」

 さて店内を見回してみると、店員があちこちを駆け回っていて、中々繁盛しているようだ。日本のように外に人が並んではいなかったが、九割のテーブルに人が座っている。三人なら余裕で座れそうだ。テーブルはいい木目の四角い一枚板であるものが多く、茶系の木で出来た椅子、比較的明るい店内と合わせていいイタリアっぽさが出ているのではないだろうか? 実際ミヤフィには分からないが、風情はあると信じたい。創業者の勇者はもう亡くなっているだろうに、よくここまで雰囲気を維持したものだと感心した。しかしよく考えてみると雰囲気がわざとらしい気もする。日本人が考える典型的イタ飯屋という感じがしなくもないのだ。実際どうなのかは、創業者に会わないと分からないだろう。


 椅子に座るまでになんども考えたのだが、これ以上は埒があかないので何を食べるか考える事にした。

「ミヤフィ様、何を食べましょうか?」

「そうですね・・・えと、メニューは・・・」

「カウンターの方にありますよ」

「はい・・・何々、『ぺぺ、るぉんつぃーの』?いや『ペペロンチーノ』か・・・ん?」

 確かにカウンターの上の方にはメニューがあった。ぱっと見食べ物の絵が書いてあり、その下には名前が文字で書いてあった。読みは多分地球での呼ばれ方に近い物でこちらの世界の文字で書いてある。人族語なのか共通語なのかは分からないが、そこには特におかしい部分は無い。


 ミヤフィが疑問に思ったのはその下、値段が書いてあるように感じる部分だった。

「リタさんリタさん」

「はい、なんでしょう?」

 リタは笑顔である。今日もメイド服が美しい。彼女の知識によるとメイド服は未だ従者服としての認知は浅く、周りの人は変な格好だなーと思って見ているに違いないが美しいと思いつつミヤフィは尋ねた。

「メニューの文字の下のあれって何ですか?」

「あれですか? あれは値段ですよ。世の中には文字が読めない人が多いですから、絵で書いているんですよ。あの赤色は銅貨、塊一つで五枚を表しています」

 塊とは横に並べた縦棒四つを横棒で串刺しにした物である。横向き串刺し輪切りサツマイモチップス(四枚)、つまり日本で言う『正』の字の数え方のアメリカ版と同じだった。その数え方から見て創業者は日本人ではない、やはりーー

「一般的な表し方ですから覚えておいてくださいね。ちなみに銀貨だと青色です」

 ーー一般的なら日本人の可能性は捨てきれない。またアメリカ人の可能性も無くはない。


 ともかく私たちは食事をしに来たのだからと二人に習ってメニューを眺めた。何故かパエリアがある。大好きだ。さらにハンバーガーまである。意味不明だ。イタリア料理はパスタ、多分ガーリックライス、なんとピザまであった。


「それにしてもいいお店ですね。風情がありますけど、あまり見ない感じの雰囲気です。勇者って本当に異世界から来るんですね」

 ミヤフィのヒャッハーな洗濯風景やその他色々と風情の無い日常生活、そして異世界での記憶を見てきたリタが軽く吹き出す。

「そこ、笑わない」

 ペシュトロミレイアの頭から疑問符が出た。


 気を取り直して。

「・・・確かに、初めて見るような雰囲気の店です」

「いいですよね! この波のような木目とかたまりませんよね! 『灰木』はやっぱりいいですね。燃やした時にーー」

 ペティは木目マニアか、そう言えば機材厨の友達がアシュとかスポルテッドメイプルとかバスウッドとかエボニーとかマホガニーとか言ってたな、と思い出し、木目トークが始まりそうになったところでウェイターが来て、声をかけた。


「『メイアイヘルプユー』、ご注文はお決まりですか?」

 態々英語を使うのがこの店流なのか、私服に緑色のエプロンの店員が英語でオーダーを取りに来た。

「(違うよ、それ英語じゃん! そこはAre you ready to order? じゃないのか? いやこの場合だと『いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか?』なのか。・・・いやなんで英語なんだ!?)」

 色々突っ込む点は多かったがリタとペシュトロミレイアは既に注文したようなので黙認して料理を頼む。考えないようにしていたがいい匂いが漂っていたのだ。早く食べたかった。久しぶりの地球料理なので、一番好きなものを頼もうと思った。だから頼むのはこれだ。

「パエリア下さい」

「はい。『マルゲリータ』と『ボロネーゼ』と『日替わりパエリア』ですね。お待ちください」

 ご飯と海鮮のハーモニーが素晴らしい、伝説の超飯メニュー、パエリア。かつて友達を家に呼んだ時やちょっと贅沢なご飯を食べたくなった時によく作ったものだ。ウェイターが店の奥で注文をコックに伝えると、ジューっという音が聞こえて来るような気がしてきた。実際はさっきから聞こえていたのだが、待ち遠しさがそうさせたのだろうかと、よだれを垂らさないように頑張りながらミヤフィ達は話に花を咲かせた。


 最初に運ばれて来たのはボロネーゼだった。ミートソースとも呼ばれる事もある恐らく誰もが家庭で手頃に作れるスパゲッティだ。

「伸びるといけないし、お先にどうぞ?」

「そうですね・・・では失礼して、いただきます」

 ミラディアのマナーでは、麺は啜ってはいけない。というより、誰も啜れない。突き詰めると循環論法になってしまうが、啜って美味しくなる麺が無いからだ。マシュロでも同様だ。麺を食べる時はフォークにクルクルと一口で入るように巻き取って食べるのだ。

 ボロネーゼを頼んだのはペシュトロミレイアだが、彼女はまだ長い麺に慣れていない。この世界に圧延製麺機が出来たのはこの店が最初で、常連でもないとこれまでのものの三倍の長さを誇る麺に対応してフォークを上手く扱う事などできないのだ。

 だから一口で食べきれない量を巻き取ってしまい、一口で食べきるために吸い込む。

 最も戦いに近いブルーカラーだけあって肺活量は大きいが、その分ズボっと大きな音がした。隣のテーブルのおばさんが眉を顰めた。


 リタは流石のポーカーフェースで何もない振りをして、ミヤフィは元日本人なので気にしなかった。

「『聖銀食器類セイクリッド・テーブルマナー』」

 可哀想に思ったリタは出来るだけ静かにペシュトロミレイアのフォークに固有魔法を掛けた。他人に気付かれると困るので魔法陣はテーブルの裏に書いた結果、足元が少し銀色になっている。踊るフォークにより、ペシュトロミレイアの次の一口はパクッと一口で入る食べやすい量になっていた。

「あれ? 急に食べやすくなった? しかもさらに美味しくなったような?」

「きっと最初のところが絡まっていただけですよ」

「そうですね!」


 その後マルゲリータが運ばれて来て、リタは定番の丸いピザカッターを受け取った。長年使われてきたのか、刃は潰れかけていた。

「『聖銀食器類セイクリッド・テーブルマナー

 本来チーズの代用品がくっ付いて切りにくい筈のピザが、紙のように切れていく。チーズがくっ付く事もなかった。

「そんなに上手にピザを切る人、初めて見ました」

「そうですか? これが当たりだったのかも知れませんね?」

 リタはカッターを示しておどけた。


 最後にパエリアが来た。

 オレンジ色のお米のようなものの上に新鮮そうな魚介類、アクセントに緑の葉っぱが乗っている。湯気が出ていて美味しそうだ。

「いただきます」

 ここでは日本語で言ういただきますで通用するようだったので、マシュロ式で行ってみた。正直ミラディア式は嫌だ。両親を殺した宗教の祈りなど、反吐が出る。今まで両親は自分達を守る為に仕方なく教徒のふりをやっていたのだと思う程だ。

「いただきます」

 考える事は同じだったのか、ピザを切り終えたリタも同じ方法を取った。


 さて何から食べようか、ミヤフィは蒸し焼きになった魚介類を見つめた。海老(のようなもの)やアサリ(のようなもの)や長い巻貝が入っていた。

 ここはやはりアサリ(っぽいもの)だろうと決意し、いつの間にか『聖銀食器類セイクリッド・テーブルマナー』の掛かったスプーンで貝柱を外し始めた。


 対するリタは切り終わったピザに辛子を掛けていた。パラパラと散る粉は『赤辛子』を挽いたもので、その葉っぱを守る為に葉が辛味成分を分泌する薬草だ。低体温の者に食べさせると体温が上昇したり、神経を昂らせての士気高揚にも使用される。つまり葉っぱを食べる唐辛子だ。

「(うわあんなにいっぱい)」

 すでにピザは真っ赤だ。リタはそこへオリーブオイルのような緑色の油を一子匙取って垂らして食べた。

「んー!!」

 それはとても幸せそうな笑顔で、赤い灼熱のハートがそこに漂っているように見えた。

 ミヤフィはげっそりしながら身を食べて、すぐに元気を取り戻した。

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