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異世界の運動方程式  作者: 見開き7頁
二章 魔力の奔流の入り口にて
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vs.オダワラ(5)

必要のない機能はつけない方がいいですよね。余計な機能を付けるとコストアップクオリティダウンしますからね。冷蔵庫のスマホ連動とかいるのかなあ?

 三割ほどの魔力を使っただろうか。

「ちょっとずつ剣が重くなっている・・・!?」

「拳が軽いぜ! もう終わりか?」

 さっきから私達は、打ち合ったり鍔迫り合いをしたりと互いに攻めきれず、膠着状態に陥っていた。

 私の体感では、相変わらず少しずつ斬撃が重くなっている。それに少し遅れる形で使用する魔力量もちょっとずつ減って来て、ある一定量に落ち着いている。機能がおかしくなっているのだろうか。でも魔法器械はともかく魔法器の故障なんて聞いたことが無いし・・・これじゃあただの頑丈な手袋ね。

 相手はいまだ余裕の表情が崩れず、積極的に斬撃を打ち込んでくる。全部避けるか受けるかしている私にも余裕はあるのかも知れないけれど、魔力的な余裕は無い。

 最初の一発だけクリーンヒットすれば後は流れで勝てるのにと思い、フェイントも交えて色々なコンボを仕掛けているけれど、中々決めさせてくれなかった。

 それにしても、さっきから相手の動きがおかしい。何度かこちらが不利になった事があったけれど、攻めきって来ない。逆にこちらからのもう少しで通る惜しい打撃が増えた。そのお陰で消費魔力も減っているのだけど、何かおかしいと思っていた矢先。打ち合いが崩れて、私達は互いに距離を取った。

「何でお前の手が切れねーのか、やっと解ったぜ! その手袋、大地アース属性だな?」

 分析されていたらしい。そういえば、向こうの魔法器も不調なんだったっけ。これに乗っかれば解決の糸口が見えるかも知れない。自分の武器の能力がバレて動揺したように答えた。

「そ、そうよ・・・!」

 いい感じに演技できたのではないだろうか。

「手前の拳がちょっとづつ軽くなってきたので解ったぜ! こっちは大空クラウドだ! これと打ち消し合うとか、なんて馬鹿げた属性の強さしてやがる! 勇者関係者とはいえ、冒険者でもねえ亡命者風情がどこでそれを手に入れた!?」

「・・・答えたらあなた達は帰ってくれるのかしら?」

「んな訳ねえだろ! 死ねや大根役者!」

 そう叫んでダッシュで迫ってきて、また打ち合う。演技がバレてた。あ、攻めが激しい。怒らせちゃった!?


 そう言えば魔法には属性があるものがあるって、アル君が言ってたっけ。魔法や魔法器、魔法器械には属性があって、単属性が全部で炎、氷、大地、大空の基本四属性と、聖、邪の二元属性、光、闇の空間属性だったかしら?

 炎と氷、大地と大空、聖と邪、光と闇はそれぞれ打ち消しあうのよね。

 アル君みたいに魔法屋さんじゃないから流石に複合属性までは覚えていないわね。確か組み合わせると強まったり別の属性になったりしたような気がする。

 とにかく、『大地の絶対手甲アースアブソリュート』の大地属性の魔力と『不死牛イモータルビロース』の大空属性魔力が打ち消しあって、互いの本当の力が出せていないという事なの?

「ならあの剣に当たらなければこの手甲の全力で殴れる・・・逆もあるのね」

 そう、あの剣も今まで能力を出せていないという事である。さっきは確か、何でも切れるって焦りながら言っていたと思うけれど。

 一つ不思議なことは、名前と能力が一致していない事だ。魔法器は使った瞬間、使用者に自分の名前を教える。教えてくれなくても光魔法『鑑定アナライズ』を使えば、最低で名前くらいは判る。上手くいけば使い方だって分かる。

 そして理由は知らないけれど、名前と魔法器の能力が大きくかけ離れることは絶対に無いという。「イモータルビロース」という名前に「何でも切れる」というニュアンスは入っていない筈。

イモータル(不死)だけど・・・当たればただじゃすまなさそうね」

 死に直結しそうな気がする。


「だからって、当たらなければ何という事もないのよね!」

 互いに能力を打ち消しあっているとしても、剣にぶつかっても拳や手は全く痛くないので絶対に被弾しないようにすれば大丈夫。ならば拳の手数で圧倒していこうと決め、相手はよく見ると足回りの防御がおざなりになっていることに気が付き回避運動に合わせて足をひっかけようと思ったその時。

 これまで見たことのないような爆発が、私達を止めた。

 何らかの魔法による爆発だった。いや、何かが違う。発生源は真ん中の戦場(せんじょう)みたいだけど。急激に魔圧が高まって体が緊張した。ピンと何かが背筋を駆ける。

「何だぁ!?」

「なに!?」

 遅れて音がやって来る。木で反響したのか、地鳴りのような、それでいて大工が何かをハンマーで見えないほど速く連続で叩いているような音だった。驚いた私たちは咄嗟に距離を取って、様子を見た。

 これはアル君の魔力でも、ミヤフィちゃんの魔力でもなく、敵の魔法の爆発だった。つまり、これが意味することは・・・

「二人が・・・危ない?」

「ハッハッ! そうみたいだなあ!!」

 すぐあっちに行かなくちゃ! こいつを倒してから! いや、今すぐ!

「おおー怖い怖い、とっても怖ーい顔をしているじゃあないか? あっちに行こうってか? させる訳無えだろッ!!」

 反転して走り去ろうとしたけれど、動線上に回り込まれた!

「間に立って、邪魔をする!!」

 私と中央の間に回り込んできた彼女は、自慢の魔剣を構えて突っ込む私を食い止めるつもりだろうが、そうは行かない。

「邪魔だああああ!!」

 さっきまで体力や魔力を出来るだけ消耗しないようにと戦って来たけれど、もう終わりよ!

 私はダッシュで彼女に肉薄し突撃の勢いに全体重と残りの魔力を乗せられるだけ乗せて全力の拳を放つ。その拳は、私と中央の間にいる邪魔者の心臓に一直線で向けられていた。

 私を止めるのが目的の彼女は当然剣でガードをする。でも、今の私はそんなやわな防御じゃ止められない!

「そんな軽い拳・・・んなっ!?」

 拳が当たった瞬間、彼女の顔が驚愕で染まった。思ったより拳が重くて驚いているみたいだけど、そんな暇は与えない!

 そんな弱っちい剣、大地の絶対手甲(アースアブソリュート)でへし折ってやる!

「どけ!! 『大地の絶対手甲(アースアブソリュート)全開(エクステンション)』!!」






 それからは、一瞬の出来事だった。『大地の絶対手甲(アースアブソリュート)』は、使用者の魔力を無理矢理引き出して魔法に変える魔法器だ。しかし、使用者が魔力を送ることでもその魔法を発動させることが出来る。そして、魔法の威力は魔力消費量に依存する。だが、その魔法は「手袋が受けた力を魔力的に打ち消す」事だ。決して「自発的に魔力を力学的力に変える」魔法ではない。その制約の下で自動魔力消費能力が成り立っているのだから、魔力()()量は込められた魔力量に比例しないのである。

 今回の場合シルヴィアは、魔力が反対属性で相殺されてしまうので、いや、自動的に使われる魔力は相殺される分だけだったので、込める魔力を手動で増やした。しかし魔力は多くても戦闘中の制御には慣れていない彼女は、相殺した後「手袋が受けた力を魔力的に打ち消す」事に使う分よりもかなり多く魔力を込めてしまった。専門家でもなければ中々気付かない事だ。普通、魔法は魔力を込めれば込めるだけ威力が上がるのだから。

 つまり魔力が余ったのである。一見ただの手袋である『大地の絶対手甲(アースアブソリュート)』には、余剰魔力を蓄えておくスペースも、機能も無い。そもそも魔法形態的に必要が無いのだ。

 シルヴィアの全力の突撃拳は、魔剣にヒビを入れた。魔剣にかかった衝撃力は、一瞬の間だけだったがほぼ無限大であるから当然といえば当然だ。寧ろ割れなかった事を驚くべきかも知れない。この時点で、魔剣は大空属性の魔力を全て相殺され、ただの格好の良い剣に戻った。拳による加速は、中段に構えられていたその剣を半ば弾き飛ばすような形で先の部分から首に突き刺した。

 身に組み込まれた魔法により本来物を切断することのない魔剣は、縦に首の真ん中を貫通し、喉には風穴を開け、神経は断ち切っていた。オダワラの一人、『人斬り魔剣』の通り名を持つ彼女は、自らに致命傷が加えられた事を一瞬遅れて理解し、シルヴィアを呪い殺さんと凝視して「ミラディア神よ、下劣な殺人者の彼女らに鉄槌を」と祈ったが、それまでの自分の行いを棚に上げた身勝手な祈りは、人間の神には届かなかった。




「勝った・・・!」

 今出せる魔力量の限界まで魔力を込めた拳で、私はこいつを倒した、そういえば、名前を聞いていなかったな。幾ら襲われたからって、名前も知らない人を殺してしまったと良心が胸を締め付ける。だけど、早くミヤフィちゃんの所に行かなくちゃ。

 手を合わせて死者への弔いをした後、急いで走り出した矢先、右手が光り始めた。

「な、何!? ・・・え?」

 光が、消えた。

 次の瞬間、私の視界はほぼ無かった。急に目が殆ど見えなくなっていたのもあるけど、何より気付いた時には地面に倒れこんでいた。全身に激痛が走る。

 これは・・・魔力の『逆流干渉(バックファイア)』だ。使うために活性化された魔力が体内で制御を失い暴走して、自らの体に内側から魔力ダメージを与える現象。同じ量の魔力でも、外部からの魔力とはダメージが段違いで大きい、魔法器を使わない魔法使いが最も気をつけるべき現象。何で起こったのだろうか。

「ごめんね・・・ミヤフィ・・・ちゃ・・・」

 ひとまず勝ったという安心感が、落ち込んで絶望感に変わる。その中で、これから数日は動けないな、なんて妙に現実的なことを考えながら、意識が闇に堕ちた。

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