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異世界の運動方程式  作者: 見開き7頁
二章 魔力の奔流の入り口にて
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vs.オダワラ(1)

みなさんクリスマスプレゼントは貰いました?

僕は貰いました。もちろんサタンクロースからね。

何をもらったと思います?

詳しくはあとがきで。


用語解説します。他にも聞いて下されば教えますよ。(露骨な感想稼ぎ)

・解呪 対象に掛かった魔法を解除する魔法全般のこと。呪いだけでなく、強化魔法などプラスに働くものを解く魔法もこれにあたる。こういった魔術には大抵プロテクトがかけてあるため、時間がかかる。要はハッキング。

 アルテミア様は確りと準備をされていたようですが、国、教会がそう簡単に逃がしてくれるはずがないことはあらかじめ予想していましたから、戦闘の準備もバッチリです。


 思えば、ダールグリュン家は不思議な家族でした。異常と言っても良いでしょう。

 ミヤフィ様の教養の高さは、特に不思議でした。それまで勉強という物を全くしていなかった筈ですのに、数学(かずがく)は天才レベルで、あの年齢で鶴亀算まで出来るとは思ってもみませんでした。魔力操作も体外で魔力を自在に操るといった神業を身に付けられました。私だったらどちらも五十年修行して身に付けられるかどうかという程で、もう言葉が見つからない程です。

 それに、アルテミア様はともかく、ミヤフィ様は戦闘は初めてのはずなのに冷静で、シルヴィア様も魔圧で負けているのに怯えていません。まるで名だたる歴戦の勇士のようでした。

 ですが私の知る限り最も暖かい家族だと思います。そして私の第二の家族です。この身に代えても、守ってみせます。


 さて、戦闘が始まります。アルテミア旦那様の選んだ組み合わせの通りに敵が分かれました。偶然か、それともあれほどの小声で聞こえていたのでしょうか。


 家族と分かれた私に相手が声を掛けてきました。

「メイドさ〜ん、ハァハァ、僕が、殺して、一生飾って大事にしてあげるよ〜」


 な、変態!? この人、敵の中では穏やかな人だと思ったら、ただの気持ち悪い人でした!

「な、何なんですか貴方は!?」

 冷や汗をかき言いつつ私も左前の方に走り続けます。それぞれの戦場を離すために。ミヤフィ様とアルテミア様は真っ直ぐ、シルヴィア様は右側に展開しました。あちらも上手くいっているようです。


「そっちに行くのかい? 追いかけっこだね?」

 ボソボソと少しくぐもった声で言うので更に不審者感が増しています。本当に気持ち悪いですが、取り敢えず付いてきてくれました。しかしこのまま進んでも崖です。どうしましょうか。

 あまり引き離そうとすると、崖に近くなります。魔法で落下死は無いでしょうが、落とされると戦力的には死んだも同然です。しかしあまり崖から離れ過ぎると今度は分断が叶わなくなります。

 相手が槍使いということもあり、障害物の多い森に行きたいのが本音ですが、仕方ありませんね。


 一度も打ち合わず、崖からミヤフィ様三十人分位の位置で私達は立ち止まりました。

「メイドさん、名前は何だい? 僕は名前をつけるのは苦手でねえ。人形の名前を知らないと遊べないんだ?」

「ラインズィル=クィラーソです。貴方のような素晴らしい殿方に言い寄られるなんて女の幸せに尽きますわ」

 ・・・嘘ですけれど。名前も含めて。しかし戦う前の口上は良いのですが、気持ち悪いです。早く黙らせましょう。

「えへへ・・・そうかい? 嬉しいなあ、じゃあ殺すよ? 僕は人形はバラバラでないと興奮しないからね、ああ、そうだ。僕はクレイドル=ゼウーフェだよ! まあ人形になる君に教える意味はないと思うけれどね?」

 ニタニタと笑うクレイドル。こんな変態が今までどうやって暮らしてきたのだろうかと考えると、ミラディア教の闇が垣間見えてくるようです。


「行くよ! ラインズィル(八番目)!」

「はい、いらっしゃい」

 受け入れるとは言っていません。

 十年前、メイドの修業を始めてからは訓練以外で対人戦をするのは初めてで、すこし緊張します。初手は相手に譲るとしましょう。今回は勝つ事よりも負けない事を重視です。相手の固有魔力の性質を見極めつつ、弱点を突いた一点反撃、というスタイルが効果的でしょう。その為にも、魔力を高めておきます。


「『人形飾りの槍(ドール・ディスプレイ)』!」

 掛け声、恐らく詠唱に呼応して、変態の槍が変態していきます。濃い青紫で、ドロドロした色の魔力光を纏って槍が少し太く、一回り長くなり、新たな形が出来上がりました。

「これは・・・先が剣ではなく二つ又に? あの形は、人形を立てるスタンドの形・・・?」

「フッフッフッ、そうだよー! この槍は突いた物を飾ることが出来る! さあ、君を綺麗に飾ろうか!」


 変態がダッシュで突撃して来ました。身体能力も上がるのでしょうか、さっきまでとは違い走り方が丁寧で体幹が全くぶれていません。人形遊びのために器用になったということですかね。

 これは固有魔力を利用し、自分自身を術式として投影する魔術、『自己顕現アイデンティフィケイション』の効果で間違いありません。

 『自己顕現』とは、自らの固有魔力を使って物体および自分を強化することが出来る魔術で、その内容は使用者本人に依存し、どんな人生を歩んできたかとか、好きなもの、嫌いなものなど、その人の人格を反映した魔法になります。彼の場合は人形に思い入れがあるのでしょう、『ドール・ディスプレイ』と言う名前になっています。確かミヤフィ様には七歳くらいで教える予定でしたね。


「僕の・・・コレクションになっちゃえ!」

 口では従順にしましたが、やられる訳には行きません。

 あの槍は当たると特殊効果が大変そうなので避けます。その後カウンター主体に攻めていきましょう。

「ハッ!」

 槍がヒュッっと音を立てて迫ります。速いですが荒い突きです。


「『聖銀食器類セイクリッド・テーブルマナー』!」


 半身で躱したのちに連撃を右に回避しつつ、予め準備していた自己顕現の魔法を発動しました。その効果で全身に魔力オーラがメイド服の様に纏わりつきます。メイド服を着ているので一見メイド服の表面にオーラが出ているように見えます。完璧にメイド服に重なる様な丁寧な造詣ですが、魔圧耐性以外の一切の効果はありませんし、自分で操作しているのではありませんから、驚きです。

 自己顕現魔法は自らの存在意義を術式にした魔法で、発動している間は勝手に動くのです。術者が操る術式が小さいので戦闘向きな魔法です。まあ、存在意義が戦闘に向いていない人は効果が戦闘向きではありませんが。

 私の『自己顕現』は、ナイフやフォークを始めとした食器類等に聖属性の魔力を通して強化し、性質を強調する魔法です。変に形などを変化させない分強いです。それに破邪の力も付与出来て、使うと汚れが取れるので重宝しています。

 その場にあるもので主人をお守りする、これぞメイド道です。

 私が今から使うのは用意していた銀のナイフ。その場にあるものでとは言いますが用意しているに越したことはありません。そのナイフに聖属性の魔力を流して、仮聖銀です。本当に聖銀で出来た食器も持っていますけれど、御主人様一家の食事専用なので使いません。聖銀(ホンモノ)で切ると料理が美味しいんです。

「ふっ」

 右に回避しました。そのまま側面に回り込んだ速度を生かしてナイフを首に付き立てようと左手をケースにあてがいます。クレイドルはまだ槍を戻せておらず、反撃のチャンスです。そのまま着地して左手を動かそうとした瞬間。


「裏切りだ!」

 ――転進!? 槍が向きを変えて!?

「くっ!?」

 何とか咄嗟にお盆を取り出して防御します。カンッ! と子気味良い音を立て、槍がお盆にぶつかりますが、『聖銀食器類』で強化された銀のお盆はびくともしませんでした。

「ああっ!!」

 しかし私は大きく吹き飛ばされ、背中から地面に激突。少し転がって一瞬呼吸が止まりました。ちょっと痛かったですが、まだまだ戦えます。


「・・・ふぅ、バレていましたか、油断していると思っていたのですが。それとも、油断していたけれどもリカバリが速かったのですかね」

 言いつつ立ち上がりました。衝撃の影響で小声になっていたのでしょうか、彼には聞こえていなかったようでした。

「なんだよ・・・僕のコレクションになってくれるんじゃなかったの? さっきまでのは嘘だったんだ? しっかりお盆で防御までするなんて。どこから出したのさ? それならもう全力で殺すしかないね? 残念だったね、君はもうご主人様にご奉仕できないんだよ!」

 カウンターが決められなかったので少し悔しく煽ってみると、うまく挑発になった様で肩を震わせながら激怒するクレイドル君。

 身体は強いようですが、心とオツムがまだまだの様ですね。バレていたのではなく単に反射がよかっただけだとあっさりバラシてくれました。ラッキーです。


「私は絶対に殺されません! それはメイドだからです!」

 ここで本心を宣言することで相手の挑発を受け流します。今の挑発で弱気になったかというとそうではありませんが、ちょっとした棘抜き、おくびみたいなものです。

 それに本心ですしね。大切なことです。


「へぇ。でもそうは言っても、右手のそれはもう離れないよ? どう戦うつもりだい?」

「何?」

 右手の甲に蓋をするような形でお盆が浮いていました。さっきの禍々しい色の魔力がこびりついています。手首を動かしても位置が変わりませんね。これでは右手でナイフを持っても円形のお盆が邪魔で切れません。

「それがこの槍の効果だ! もう君は右手を攻撃に使えない! ナイフを使えない君に勝ち目は無い!」


 やはり『自己顕現』の効果でしたか。この魔法は術者が気を失うか高度な解呪(ディスペル)でしか解けないので厄介です。解呪は発動に時間がかかるので戦闘中に使うには難しい魔法ですし、本当に単純ながら強い魔法だと思います、個人差はありますが。今度考えた奴をとっちめてやります。


「だからって私はばらばらの死体にはなりませんよ?」

「死体じゃない、崇高な人形だ! 諦めて僕の人形になれ! 今なら綺麗にバラシてやる!」

 激昂した彼が再び襲い掛かってきました。とっとと倒して、他の助力をしようじゃありませんか。

さて、何を貰ったかというとですね、

腹痛とインフルエンザ並の高熱です。しかも藪医者とセット。

このお話で奴の殺害が決定されました。

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