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異世界の運動方程式  作者: 見開き7頁
1章 加速器のビームの向こうで
15/66

お久しぶりです。遅筆すぎて泣けて来ます。学祭終わったので週一目指して頑張るぞ。

「・・・まさか、そんなはずない。分かったぞ、勇魔獣伝説を読んでパパをからかいたくなったんだろう? あはは、ミヤフィはお茶目さんだな!」

 食卓が凍りついて数瞬、最初に物を言ったのはパパだった。まだ融けかけの様だったが。

「そ、そうね! ミヤフィちゃんったらお茶目さんね! まだパパに構って欲しいお年頃だものね!」

 ママの笑いが乾いてる。やっぱりミラディア教徒のパパにこの話は不味かったかな? 二人ともかなり動揺している。リタさんはあまり動揺していな・・・目が泳いで焦点が合ってない。凄く動揺してる。

 ・・・これ結構まずいやつだった? でも私はパパを信じてる。それに何時かはバレる事だし。大丈夫かなーと思う。

「本当だよ? 私は『収束』と『領域』の二つの固有魔力を持っています」


 そんな信頼を他所に、パパは深刻だった。

「本当に本当の本当なのか?」

 嘘だと言ってくれ、と言わんばかりの表情のパパ。そんなに必死に聞くことなのかな、本当に不味いのかな? 私が魔王と一緒だということに。

「えと・・・」

 これ、まずいやつだったかな。真面目に。

 でも、今なら、まだ戻れるかもしれない。今、全部冗談だったって言えば・・・嘘を言えば、どうにでもなるかもしれない。パパとの関係は壊れないかもしれない。本当だと言えば、パパとの関係は壊れるかもしれない。

 でも、どちらも確証はない。世の中なんてそんなものだ。自分の選択の結果が、どう転ぶかなんて分からない。だから、かつての日本はローリスクローリターンを選んだ。どう転んでも目先のリスクが小さいような選択をしたのだ。それを聞いた時、無自覚な崩壊(ローペインノーゲイン)ではないかと思ったものだが。

 そう。人は楽な道に進む。

 さっきのは冗談で全部嘘でした。って言ってしまえばきっと楽だろう。これからは固有魔力を隠して生きていけばいいだけなのだから。






 だから、固有魔力の事は隠してしまえばいい。きっとバレない。昼間はパパはいないので、リタと一緒に片方だけを出す練習をすればいい。だから、上手く笑って--

「えっと--えへへ、実は、う、そ、っ!?」


 息が詰まった。


 とてつもなく大きな拒絶感、というか、絶対にしてはいけないことをしているような気がした。言葉が出なくなった。体が硬直した。全身に鳥肌が立った。

「(どうして!? WHY!? WARUM!? もう海の加護は消えただろう!? 体が言うことを聞かないなんてそんなことがある訳がない!!)」

 当然思い当たることはない。視界が眩む。いや、歪んだ。

「ミヤフィ、どうし――」

 パパが何か声をかけてくるが、聞き取れない。分からない。どうしてこうなったかが全然分からない。

 歪む平衡感覚。口もかすかにパクパク動くだけ。



 もうまっすぐ座っていられない、そう感じたその時、視界が暗転した。

「なんだ――ここは、前の家!?」

 急に視界が全くなくなったが、瞬きのように一瞬で視界が元に戻った。

「みや、今何か言おうとしなかった?」

(・・・あれ? ここは、黒野家のリビングじゃないか。何だかおかしいぞ?)

 いつの間にかさっきまでとは違うところにいた、という状況には最早慣れっこである。流石の私だ、経験が違うよ。と言っても四回目だけど。ただ今回はいつもとは少し違うらしく、行先が自分の知っている場所だった。今までには無かったことだ。どうしてだろうか。

 それに目の前には私がまだ純粋な男の子だったころというか前世の母さんがいる。あたりを見回すと、食器棚や食事のテーブル、椅子は元のままだった。でも、どこかおかしい。部屋全体にどことなく違和感があった。

(よく見ると、カーペットが違う。冷蔵庫も昔のやつだ。それに日めくりカレンダーの日付がだいぶ古いぞ・・・十歳の時じゃないか)

「雅? どうしたの? 黙り込んできょろきょろしちゃって。・・・もしかしてエッチな本でも隠してるんじゃないでしょうね?」

「なっ・・・違うよっ!」

 さっきから話しかけてきていた母さんが冗談を言い始めた。突っ込みを入れる私・・・僕? の声が聞こえた。今喋ってない筈だったけど。これはまた体が勝手に動いているのかな? それとも自分で動けるか?


「あ、腕が外れた」

 試しに手を動かしてみると手が二つに分かれた。うまく動いたほうは紫色に透けている。そこで立ち上がってみると、案の定身体と透けている自分、精神体かな? とに分かれた。どちらも姿形は十才の時の自分であるらしい。

「他人から見るとこんな感じだったのか、かつての私は」

 ガリガリではないがヒョロヒョロ少年である。なんだか悲しい気分になった。

 今の独り言は聞こえていなかったらしく、母さんと昔の私の会話はそのまま続いた。

 ・・・文面だけだとオカマになったみたいだけど、今の私は女の子だから問題ないよね? オカマは皆そう言うみたいだけど。

「じゃあどうしたの? 雅、何か隠してるでしょ?」

「えっと・・・じつは・・・」

 そういえばこのシーン、何となく嫌な感じがするぞ。そう、これは嫌な記憶・・・トラウマ?

「(シキを本当に殺したのは僕だ、なんて言えない)」

 私の考えが流れ込んできた。これはやっぱり私の記憶だ。しかもとびきり最悪なやつ。今度は自分が凍りつく番だった。

「もしかしてシキの事が悲しいの?」

 過去の自分は中々返事をしない。そういえばここでとっても迷ったんだった。母さんもシキの事が大好きだった。いつも尻尾を振って出迎えてくれた、人懐っこく可愛い柴犬だった。

「・・・うん」

 そして、結局言えなかったんだ。

 彼女は十歳の頃に死んだ。交通事故だ。散歩中にうっかり道路に飛び出しかけた私を引っ張り戻した反動で車道に出てしまい、運悪く通り掛かった車に跳ね飛ばされてしまった。

「殺したのは僕なんだよ、って言えなかった。ずっと隠していたんだ。母さん」

 その声が届かないことは知っていた。独りよがりだ。でも言わずにはいられなかった。いや、聞こえないからこそ言えたのかもしれない。

 こんなにも、苦しかったのか。生まれ変わって思い出す機会はなかったけど、大事な記憶だ。

「まだ全部見てないけど。固有魔力の事も正直に言っちゃえって事、ここが何の空間だか分からないけど、ちゃんと分かったよ」

 作ったのはどうせ神だろう。そういえば、あいつがミラディアなのか?まあどうでもいいね。


「母さん、僕を産んでくれてありがとう。生きてる間に言えなくてごめんなさい。じゃあ、私、行くね」

 後ろを振り返って瞬きをすると、元の食卓が戻ってきた。

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