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異世界の運動方程式  作者: 見開き7頁
1章 加速器のビームの向こうで
13/66

三分の一

タイトル詐欺がよく起こります。数字にしときゃ良かった・・・

「先に、魔力とは何か、から説明したいと思いますが、そうですね、一旦家の中に入りましょう。」

 私達は庭から家に入った。もちろん靴の泥を落とすことは欠かさない。私は居間に直行したが、リタさんはママを呼んで来るついでなのか、しばらくしてお茶会セットを持ってきた。いい香りの紅茶に少し甘いクッキー。まだ紅茶は分からないが、相変わらずとても美味しそうだ。


「では改めて。魔力とは何か、説明しますね」

 深刻そうに眉を寄せて説明を始めるリタさん。居間には今私とリタさんとママがいる。そんなに深刻なことなのだろうか。

 ママは私たちがさっきまで魔法の授業をしていたことを知っているので、またミヤフィちゃんに悪い所が・・・と、病気の子供を心配するように、リタさんの表情を見て不安げな顔をしていた。


「魔力とは、魔法を使うのに必要なもので、私たちの周りに常に満ちていること。それと、これまでは基礎のために教えませんでしたが、継臓核(リンカオロ)を通して吸収した魔力は、個人に応じて特徴を変えるということが言い伝えられています」

 実際にそうです、と彼女は締めくくる。

 リタさんの魔力解説はそれだけだった。

 情報が言い伝えしかなく、それ自体も少ないという事は、やっぱりこの世界の人間は魔力があることを当たり前のこととして捉えていて、研究はしないらしい。というか『海の加護』から得た知識は初歩の初歩のさらに初歩レベルだったようだ。神様のイジワル。

 それはそれとして、リンカオロという語感からして継臓の真ん中にあるのは核じゃなくて空洞だな、と思った。既にこの世界の言葉は身に付けたので、何となく分かった。二回目のマザータングって、なんだか不思議。


「継臓核を通して吸収した魔力の事は、昔から『固有魔力(オリンディ)』と呼ばれています。人族は、固有魔力を一つだけ持つ筈なのですが、ミヤフィ様は『領域(レンジ)』と『収束(コンフェル)』の二つの性質を持っていらっしゃいます」

「それは本当なの!?」

 珍しくママが狼狽している。二種類の固有魔力というものは、いつも落ち着いているママを慌てさせるほどの物なのだろうか。

「はい。先程この水晶で確認しました。ちなみに魔力光は艶のある紫です。少し銀がかっていますね」

「だったらすごいじゃない! かつて世界を救ったという勇者様でも一つだったのに、二つだなんて!」

 どうやら良い事だった様だ。しかし、勇者と一緒の能力を持って生まれるとは、やっぱり異世界はチートだったか。


「違います、シルヴィア様。二つの性質で連想すべき人物は勇者様ではありません」

「あれ? 誰だっけ?」

「初代魔王です」

 え、魔王!? 勇者じゃないんかい!

 そしてとっさに思いついたのは、某国民的冒険ゲームの魔王達。勇者の光で輝いていた自分のイメージが一瞬にして邪悪に。ち、チートには変わりない・・・か? こだわる理由もないけれど。


「あー、そうね。・・・うん。そうだったわね。で、でも今のはおちゃめなシルヴィアジョークよ!」

 ・・・ママよ、違う、そうじゃない。争点は多分そこじゃない。場を和ませてくれてありがたいとは思うけれど。


「魔王って悪そうな名前だね?」

 リタさんは首を横に振った。

「いいえ。必ずしも悪い者ではありません。魔王とは単に魔族の王のことで、選定基準は本人の強さらしいです。そして即位の儀式の時に、二つ目の性質を得るらしいです。稀にその強さに溺れた暴虐の悪王もいたらしいですが、それは人族も同じです」

 寧ろ、人の方が恐ろしい政治は多いのだとか。

「つまり、世界最強の代名詞ですね。それだけの事ですが、そんな事は関係なく魔王を毛嫌いする人々がいます」

「マジか・・・」

 魔王可哀想。

「それは世界で一番信仰されている宗教、『ミラディア教』の信者達です。人族の三分の一の人々が信仰していると言われている宗教です。・・・ミヤフィ様の敵になるかも知れません」

「マジか・・・」

 私可哀想。宗教って怖いものね。地球では宗教で正当化された残虐な行為がよくニュースになってたし。少し身震いした。


 ところで。

「魔王は悪い人じゃないのに勇者は魔王を倒しに行くの?」

「「へ?」」

「え?」


 ・・・どうして二人は常識が何故常識なのかを問われた様な顔をしているのだろうか。勇者って魔王と戦うものだと思っていたんだけど。


「・・・勇者が戦う相手は魔王じゃないのよ?」

「そうなの?」

 ミヤフィちゃんも変な質問をすることがあるのねぇ、と呟くママ。リタさんは眼を見開いている。こいつ常識ないな、と顔に書いてあった。

「シルヴィア様、こんなことも教えていなかったのですか。その辺の道具屋でもあの絵本は置いてありますのに」

 ため息交じりのリタさん。「あの絵本」で通じるのだろうか?

「へ、部屋にはちゃんと『勇魔獣伝説サーキュレーションレジェンド』の絵本を置いていたはずよ・・・? き、きっとミヤフィちゃんが読んでないだけだわ」

 通じた。そしてしれっと責任を移された。その本は幼児教育のバイブルなのだろうか。そんなタイトルの本は見たことが無かった。

「ミヤフィ様、『勇魔獣伝説』という絵本を読んだことがありますか?」

「ないです。ママ、何処に置いてたの?」

「本棚の一番上の段に置いたわ」

「リタさん、下から読んだからまだ読んでません」

 身長的に。まだ一メートルも行ってないはず。

 成程、という様な顔をするリタさん。対照的に、しまったという顔をするママ。

「読んで欲しい順に上から並べたんですね、シルヴィア様・・・」

 はい・・・と言ってしょぼくれるママ。でも笑顔は消えていない。いたずらがバレた程度にしか考えてないみたいだ。

「でも三歳より前の頃はその本を読み聞かせていたはずだけど、どうしてミヤフィちゃんは覚えてないのかしら?」

 読み聞かせられていたならどうして知らなかったのだろうか。

「・・・寝落ちしたからではないでしょうか」

「「それだ」」

 確かに、小さい頃は絵本を読んでもらう時寝落ちしてたな。一ページで。

 最近は集中力が元の水準に戻って本じゃ眠らなくなったから子守唄だし。



「それはそうと、一番の問題は、ミラディア教の本拠地が、ここ『神聖ミリシア王国』であることです。ミヤフィ様は、既に危険な状態にあります」

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