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異世界の運動方程式  作者: 見開き7頁
1章 加速器のビームの向こうで
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三歳の誕生日

 目が覚めると、天井が見えた。見慣れた天井、子供部屋だ。

 体を起こそうとしたが、力があまり入らない事に気付く。でも、起こせなくはないので体を起こした。いつの間にかベッドに寝かされていたみたいだ。

「ミヤフィちゃん、起きたのね!」

 ママが横で見てていてくれたみたいだ。おはよー。と言うとギュッと抱きしめられた。苦し・・・くない。お胸ないもんね。

 ママから解放されると、ドアから人が入ってきた。

「ミヤフィ!大丈夫か!?怪我はないか!?シルヴィア、医者を呼んだからな!」

「パパ、おはよう」

「なっ!?無事じゃないか!?」

 パパこと残念イケメン国家魔術師アルテミア=ダールグリュンは錯乱して一人娘が無事なことに驚いている。見た目は優しいイケメンなのだが仕事以外ではすぐ慌ててドジを踏む。一々格好がつかないので近所の人々にクラスのバカ担当みたいな感じで愛されている。らしい。

 当然わが家でもいつも遊んでもらっている。むしろパパをいじって遊んでいる。

「パパは、私が怪我してたほうがいいのー?」

「ひどいわねー」

「ねー」

 私とママはにこやかに冗談を返すが、パパは真顔でこちらに歩み寄りつつ、

「そんなことは絶対にありえない!!俺はミヤフィを世界一愛してる!!それこそママの愛がホマ粒程度に感じるほど愛してる!!」

 と言う。因みにホマとは前の世界でいえばゴマだ。少し辛みがある。ほぼ薬味だ。

 図らずもママの愛を小さく言うという失言をしてしまったパパに向け、カッ!とママの神速ボディーブローが繰り出される。速すぎて腕がぶれて見えた。魔力を全く使わなくてもその威力だとは流石ママ。もろに食らったパパは後ろに吹っ飛び頭から綺麗に着地した。

 ママはパパの方を静かに見つめている。魔力とは別の威圧感だ。

「す、すまん・・・冗談だ、ゆ、許せシルヴィア。ミヤフィがいきなり倒れたって聞いて本当に心配したよ。本当に大丈夫か?ミヤフィ?」

 今度は本当に心配そうな顔だ。最初からこうしてればママの怪力の餌食にならずに済むのに。こういう時のママのオーラは何だか家族内の絶対的な支配者という感じで、全く勝てる気がしない。私とパパの共通見解である。

 軽くビビっているとママは私に質問した。

「私もミヤフィちゃんの事とっても愛してるわよ?ミヤフィちゃんはママ大好きだもんね?」

「あっ、はい」

 パパにかかと落としが放たれた。








「アルテミア様、ポール医師をお連れしました」

 しばらくするとリタさんが医者を連れて来た。白髪の初老の男だ。倒れた私の診療に来たのだろうが、パパの治療が先なのではないだろうか。すごく痛そうだし、まだ床に倒れてるし。

 ポール医師はそんなパパを完全にスルーして私の診察を始める。

「あの・・・パパを、診ないの?」

 彼は苦笑いしつつ、

「アルテミア様なら大丈夫。この位いつものことだからね。ひどい時は壁に刺さったり地面に刺さったりしてるからね〜」

 パパって本当に魔術師なのか?実は騎士ポジションで前線でモンスターの攻撃を受け止める役割タンクをしていないだろうね?

「じゃあ診察を始めましょうね。服を上げてくれるかな?」

 服を上げると、聴診器的なものを胸に当てられた。しかしチューブが伸びていない。どうやって心音を聞くのだろうか?

 しばらくして、ポール医師は聴診器を離した。

「魔力ダメージの痕跡がありますが、大した事はないでしょう。大事をとって今日は魔法は控えてください」

「私が不用意に『灯火トーチ』を使ったせいです。ミヤフィ様、誠に申し訳ございませんでした」

 リタさんが深く謝罪をする。かかと落としの後で聞いたのだが、原因らしいので気持ちは分からなくはないのだが、あまり落ち込まれても後味が悪いので、悪気はなかったんでしょ?と笑って許す。リタさんは収まらなそうだが、納得してもらおう。

 魔力ダメージとは攻撃魔法により受けるダメージの事で、攻撃魔法の魔力で継臓の魔力の流れが乱れる事により疲労や体調不良、酷い場合には気絶をもたらすものだ。海の加護の最終目的、魔力の習得により知ったことだが、基本的知識を勉強せず得られたのはラッキーだった。ついでだと言って神が事の子細まで教えてくれた。脳内に直接。

 気絶するまでは、私は魔力自体は持っていた魔力耐性0の状態だった。これは魔力0の人と同じ状態らしい。それで、『灯火』―――ライタークラスのしょぼい火力、の魔力で死ぬほどビビりつつ魔力ダメージを受ける。そして加護で魔力に覚醒した途端、恐怖から魔力を一部開放し気絶したと。

 しかし掠ってすらいない『灯火』でダメージって、魔力0だと死ねるな、この世界。魔力あってよかった。

 そして特に危険がないということでポール医師は帰っていった。お見送りを家族全員でした後、私はパパに抱き付かれ、ママの一言によりお誕生日会を開始することになった。

 因みに大したことがないと知れた時、ママもパパも目尻に涙を浮かべていたのだが、口に出すのは野暮だというものだ。私だって状況が同じならそうなるだろうし。リタさんはガン泣きだった。

 今までは家族のことをこんなに見ていなかったし、心のどこかで新しい生活を受け入れられてなかった。受け入れられていたら、身体の強制力が海の加護だって簡単に気付けたはずだ。でも今は自分が今居る場所はここで、大切な場所だと思う。パパもママも大好きだ。今では前世の両親よりも素直に話せる。転生初っ端から前世の心配をしていた事がもったいなく感じた。もうくよくよすることは無いだろう。

 三歳の誕生日、私は新しい生活を受け入れ、家族に愛されていることを知った。

一章はまだ終わりません。


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