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日常

「よし、これで十分だな。」


テーブルに並ぶのは、サンドイッチにポテトサラダ。ズバリ昼食って感じだ。


そして俺は目の前の人物に語りかける。


「どうだ?母さん、うまそうだろ?」

「……………」


帰って来たのは無言の返事。


母さんが『こう』なってしまったのはここ数年のことだ。俺が幼い頃は、女手1つで俺を育て上げた『至って普通の母』だった。


今では排泄、食事などはきちんとする。だが、話をする、外に出るなどはしなくなった。他人とのコミュニケーションがほぼ全くといってもいいほどなくなり、ただ『生きているだけ』となってしまった。


病院に連れていったが原因もわからず、特殊な治療をする余裕もうちにはない。なんとかいい企業に就職して金をため、母さんに良い治療を受けさせる。これが今の俺の目標だ。




「じゃあ行ってくるよ、母さん。俺がいなくてもご飯はしっかり食ってくれよ?」


返事がないのはわかっている。でも声をかけずにはいられなかった——。




「アーク!おはよう!」


家を出ると黒のブレザーの制服に身を包んだ赤毛のポニーテールの女の子が、満面の笑みを浮かべてぶんぶんと手を振っていた。


「おはよう、ティナ。今日も元気そうでなによりだ。」


ティナの笑顔をみていると、こっちもつい笑顔になってしまう。


ティナはうちのお隣さんだ。いわゆる幼馴染ってやつかな。変わりきってしまった母さんを前に唖然とする俺を立ち直らせてくれた。とっても優しい子だ。


『アークがこんなんじゃ、シエラさんも治らないよ!アークがしっかりしなきゃダメじゃない!』あの時の言葉は、一生忘れないだろう。感謝してもしきれない。いつかティナにも恩返しをしたいと思っている。


「何か難しいこと考えてる?」


考え事をしていたらティナに怪しまれてしまった。


「そんなことないぞ。じゃあ、学校行くか」



——ここで俺含め、俺の周りを紹介しよう。俺の名はアーク。物心ついたころから母さんと2人で過ごしてきた。父さんのことは母さんに聞いてもわからなかった。父さんのことを聞いた時はいつもはぐらかされていたのだ。母さんと話さえできない今となっては、父さんのことは当分わからないままだろう。


そしてお隣のティナ。この家庭も母子家庭であり、そのせいか母さんとティナの母さんは仲が良かった。ティナの父さんはティナが生まれる前に事故で亡くなったらしい。


そして——


「おはよう、アーク。ティナもおはよう。」


「おはようさん、ゼル。きょうは学校来て大丈夫なのか?」


「今日は体調がいいからね。来ることにしたんだ。」


ゼル。俺の親友だ。黒髪メガネのイケメンだが、病弱で色が白く、学校に来れない日も多い。今日は大丈夫らしい。


「おーい、お前ら席につけぇ。」


そうこうしているうちに担任の先生が来たようだ。俺の席はゼルの後ろ。長い長い授業が始まる。



——眠い眠い爺さんの世界史、とってもわかりにくい説明しかない数学を乗り越え、ついに昼休みになった。

するとすぐに『うおおおおお!』と雄叫びをあげて男共が教室から走って出ていく。


うちの購買ではパンがつきることはない。だが、『まともな』パンが買えるとは限らない。うちの購買では『まともな』パン(アンパン、ジャムパン、焼きそばパンなど)は半分ほどで残りは『まともでない』パン(納豆コチュジャンロール、アボカドひじきサンド……etc)だ。弁当を持って来ない男達は、自分の昼食をかけて走っているのだ。まあ俺には関係ないが。


俺は家で作ってあるのでパンを買いに行く必要はない。ゼルもうちから病院で決められたゼル専用の食事を持って来ている。俺たちは地獄のパン買い競争には参加しなくても食事にありつける。その点は母さんに感謝しないとな………


弁当が半分ほど減った頃、ティナがずんずんと俺たちの席めがけてやって来る。来た途端どん!と机にチラシを叩きつけると、


「アーク!ゼル!今日の放課後、駅前の『ポメダコーヒー』行くわよ!イーナちゃんから聞いたんだけど、この新しいパフェがめっちゃくちゃ美味しいんだって!もちろんアークのおごりで!」


「ティナは食いしん坊だね。まあ今日は暇だし、行こうか。アークのおごりで。」


「なんで俺がおごるのが決定事項なんだよ?!まあ今日は珍しくゼルも来るって言うし、3人で行くか。」


ティナのチラシのパフェはチョコと生クリームが『えくすぷろーじょん』していた。よくこんなもん食おうと思うな……おかしいだろ……女ってわからん…


そして、放課後3人そろってポメダコーヒーに向かった。




この時はまだわからなかったが、

これが俺の、いや俺たちの物語の始まりだった——。

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