表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗き洞穴に雷鳴は轟く  作者: 無意識な梅
暗き洞穴に雷鳴は轟く リメイク前
9/9

ギン編 まとめ

リメイク前の中途半端になっていた部分を完成させました

 1階を嵐に変えてから数日、初心者が来なくなり中堅くらいの冒険者と思わしき人が増えてきた。さすがは中堅の冒険者とでも言おうか。始めはあまり攻略できなかったものの死ぬやつは少なく、モンスターもどんどんやられていくのでポイントがすごい勢いで減り始める。このままではいけないと思い、1階に入ってすぐのところにコロシアムのような場所を作った。コロシアムといっても狭く、せいぜい家ひとつ分くらいの大きさだろう。入り口に罠扉、奥に仕掛け扉を設置し、罠扉は入ってきたら閉まる、仕掛け扉は俺に1撃を入れることによって空くように設定した。そして、全体に死なない魔方陣を部屋全体に効果があるように作って終わりだ。


 中堅クラスといっても俺が本気でやれば1撃も入れれず帰っていった。たまに1撃を入れれたやつは奥に進み、宝などを見つけると、なぜか見つけた地点より奥には行こうとせずにそのまま帰っていった。たまたま来た冒険者に聞いてみると奥には小雷龍レッサードラゴンがいるので危険だという噂が広まっているらしい。そうしているうちにだんだん本気で攻略しようとしているやつは少なくなった気がする。俺に勝てればもちろん経験値は入るらしく俺と勝負だけして、出て行くやつもいるくらいだった。


 夜、そろそろ寝ようかなと思ったところでアラームが鳴り、俺はコロシアムへと出る。相手を倒せばダンジョンポイントも貰えるのでこれを怠ってはならない。相手は誰だ……と見てみると最初に逃がした盗賊だった。仲間を連れている。


「久しぶりだな。お前も挑戦しに来たのか?」


「そ、そんなわけないじゃないですか。絶対勝てませんって。だいぶ冒険者稼業も慣れてきたんで報告しに来たんですよ。俺はパーティーのリーダーになったんです」


 なるほど。ほんとに来るとは思わなかった。てっきり俺を恐れてお世辞でも言っているのかと思っていた。まあ、来たなら歓迎しよう。後ろのメンバーが不安そうな顔してるしな。


「そうか、なら歓迎しよう。こっちに来るといいよ。他の人も遠慮せずに」


 他のメンバーには事前にある程度話しをしていたのだろう。俺がそう言っただけで安堵の表情を浮かべている。それから俺はパーティーのメンバーも合わせて盗賊の話しを聞いた。盗賊の名前はライルというらしい。冒険者としてももうすぐ中堅の仲間入りができそうでそろそろ南の山脈に行こうとしているそうだ。俺は話しをして、他のメンバーとも仲良くなることができた。魔法使いのアッシュという男に関しては気がとてもあい、水晶を貰った。この水晶は登録した他の水晶と通信ができると言っていた。暇なときなどは通信してみよう。最後にここでは死なないことを説明して戦ってみることにした。ライルは嫌がっていたが他のメンバーが死なないならいいじゃないと説得されていた。


 さて、戦闘である。向こうは魔法使い1人戦士1人僧侶1人盗賊1人である。(盗賊はそのままそういう職業になったらしい。)すごくバランスがいいのではないかと思う。俺はポイントで買った鉄の剣を構えて相手がどう動くか待つ。


 相手は基本通りの動きで来た。戦士が攻め、僧侶と魔法使いが後方で支援、ライルは何やら罠を仕掛けているようだ。確かに相手が近接ならこの形が1番いいかもしれない。しかし、俺は遠距離型だ。まず戦士の剣を正面から受け止めた。力はこちらのほうが勝っているが、押し返せるほどではない。そのうちにアッシュが呪文を唱え始めた。隣の僧侶も呪文を唱えている。俺は呪文を阻害すべくサンダーブレスを後衛2人に放つ。二人とも麻痺してしまったようで呪文を中断せざるを得ない。しかし、そちらに意識を向けていたせいか戦士に押し返される。俺は一旦距離をとるべく後ろに飛ぶ。すると後ろには何時の間に回りこんだのかライルがいて、剣を構えていた。戦士も追い討ちをかけるように迫ってきている。挟み撃ちだ。俺はこのままでは避けられない!と思い、翼を出して飛び上がる。


 そう、これが俺が竜化を覚えて得たもう一つの能力である。人形態で翼のみを出して、飛ぶことができるのだ。ライルは突然飛び上がった俺に反応できず前のめりになる。そして戦士とライルがぶつかる寸前のところでブレスで麻痺させる。これで戦闘は終了だ。ポイントで解痺薬を買って4人に飲ませる。


「飛ぶなんでずるいですよ」


と、ライル。


「ちゃんと俺の能力だからな。ずるくなんてないよ。それに良い戦い形だったぞ。まあ今度は後衛をすぐに攻撃されないようにもっと気をつけるんだな。後は後衛がやられたらまずそっちを助けにいってやれ」


 冒険者としてはまだまだであるかもしれない。そう思ったが、ライルはまだ何か言いたげだったので今日はもう遅いというのを理由に軽い料理を作って4人に食べてもらう。ここでも料理は大好評だった。そして、また戦おうと約束して4人は帰っていった。明日、南の山脈に行くそうだ。


 ライル達が来た次の日の朝、俺はいつもより遅めに起きた。昨日は寝るのが少し遅かったのだ。といってもダンジョン内なので朝日などはなく、時計で時間が分かるだけなのだが……。最近になって気づいたのだが自分が女の体であってもあまり気にしなくなっていた。また、人からはくと言われても違和感を感じないのだ。俺はそのことに少しだけ危機感を覚えるが、どうやったって男には戻れないので既に諦めかけている。


 その後、朝食の準備を俺は始めた。食べなくてもいいとは言っても、ここで食べなくなってしまうと本当に人間じゃなくなってしまうと思ったからだ。まあ、料理上手のスキルがあるのでおいしいものを作れるという点もあるのかもしれない。料理上手のスキルをとってからは毎日作っている。


 それは朝食も終わり、ダンジョンに来た奴の相手をして間が空きそうだったので昼飯を食べ始めた時だった。部屋においてある水晶が光り始めたのだ。俺はさっそくかと思い光っている水晶を使って通信をする。水晶が光るのは通信が来ている合図だった。


「さっそくか、どうした?」


 俺は水晶の向こうにいるであろうアッシュに向かって話しかける。帰ってきた声を聞くとやはりアッシュのようだった。


「それがさ、いま南の山脈にいるんだけど新しいダンジョン見つけたんだよ。ただ俺達だけじゃちょっときついかなって、どう?白さんも一緒に行ってみない?」


 なぜそこで俺を誘うと思ったが彼らもよく知っている奴と組みたいだろうし探していたらダンジョンが見つかってしまいかねないかなと思い、俺は少しだけ考えた後、


「いいよ。南の山脈のどこ?」


 と返す。水晶の向こう側で歓声が上がった気がする。


「南の山脈の中腹くらいです。場所は……。じゃ、待ってるんで」


 そう言って通信を切る。まあ、たまには冒険者の真似事もいいだろう。それにダンジョンの主が同じ転生者なら会っておいて損はないだろう。ある程度の情報の交換ができるはずだ。


「準備しなきゃなぁ……」


 まず俺はステータスを開く。


____________________

 名前:稲妻 白 17歳(女)

 種族:雷龍族 Lv21 

 HP 2133(+863) MP 1097(+417)

 ATK 469(+129) DEF 342(+92)

 DEX 70(+17) AGI 475(+173)

 INT 225(+80) LUC 38(+3)

 SP 27

 <スキル>

 稲妻サンダー 龍の咆哮 ライトブレス 料理上手 竜化

 <称号>

 勇者殺し 初心者の敵 

____________________


 中堅の冒険者と戦い始めてからレベルが上がるのが早くなった気がする。しかも、途中からステータスの上がり方が異常だ。強くなる分には問題ないのだが……。とりあえず、行くにあたってスキルを習得してしまうことにする。いまなら2個ランダムで習得できる。


『SPを20消費してスキルを2個ランダムに習得します。スキル雷球スパークを習得しました。スキル高速回復を習得しました』


 雷球スパーク……雷の球を放つ。

 高速回復……常時発動。傷などの回復が早くなる。


 なかなかいいスキルがとれたのではないだろうか。というか前がひどすぎた気がする。とりあえずこれでだいぶ戦力も上がっただろう。ポイントでポーションなどを買い込む。多めにあっても困ることはない。そして、防具は無いが鉄の剣をいちおう持っておく。そして、ダンジョンに書き置きを残して外へ出る。これで準備は完了だ。翼を出し、南の山脈に飛んでいく。いまはすでに夕方だが、この速度なら日が完全に落ちる前には着くことができるだろう。


 結構な速度で2時間ほど飛ぶとライル達が野営をしているのが見えた。俺が降り立つとライル達は驚いたような様子で、


「え、早すぎません?」


 と聞いてくる。だが、実際には竜形態で飛んでこればもっと早いのだ。俺は何時突入するか聞く。


「早いという突っ込みは無視ですか……。いちおう明日の朝から行こうかと思いますがどうですかね?」


 俺はそれに対して、そのほうがいいと言う。ダンジョン内で昼夜の区別はあまりないと言っても夜は若干暗くなるし、万全の体制で挑むのが好ましいだろう。俺はそんなに寝る必要はないので見張りを引き受ける。皆が寝静まったころだろうか。ライルがこっそり起きて、こちらに来る。


「どうした?見張りならやっておくから大丈夫だぞ」


「いやぁ、なんではくさんは人間に優しいんだろうなぁって」


 俺は少し考えてから


「俺が人間と仲良くしたいっておかしいか?」


 すると、ライルは


「いえ、おかしくはないんですが大抵の魔族は人間に対して恨みとかを持ってたりするんですよ。人間って魔族とかを見つけると自分の利益のためとかに殺してましたから。正直最初捕まった時は素直に言っても助からないと思っていましたしね。まあはくさんに出会ってからは俺は印象が変わりましたけどね。あと、その俺っていう1人称やめたほうがいいですよ」


 と苦笑する。俺はそれに


「そう言ってもらえると嬉しいよ。基本的に仲良くしたいからな。あとこの俺だけは直せない」


 と言って笑いながらライルと話していると、他のメンバーが何時の間にやら起きてきて


「内緒話しか?俺達も入れろー」


 と言い、話しに乱入してきて、結局朝方までこれまでの話しなどをし合ってしまった。明日はダンジョンに入ってみるというのにこんなので大丈夫なのだろうか。少し不安に思いながらも俺は一緒になって寝ることにした。


「うー、まだ眠いー」


 ライルが眠そうに言う。結局朝方まで話しをしてしまったせいか俺以外は朝に起きることができず、結局昼まで他のやつは寝ていた。ライルに至っては昼になっても起きる気配が全くなかったので叩き起こしたら一瞬起きて二度寝しようとしたので水をかけてやった。人に水をかけるとあんな起き方するとは、まあ自業自得だから仕方ないが。


 その後は、俺がライル達が持ってきていた食料を調理することになった。どうやら料理上手というスキルは料理が上手になるだけでなく、完成品は味が数段階グレードアップするようだ。同じ素材で作ったのにここまで変わるのかと驚かれた。昨日はひどいスキルだと思ったがその考えを改めなければいけないのかもしれない。


「さて、ダンジョンに入ろうと思うが準備はいいか?」


「「「「おー!」」」」


 ダンジョン内ではいつもの4人が先頭を行き、どうにもならなくなったときは俺の出番になる。まあ本気で攻略するわけではないしこれでもいいだろうと思い、ダンジョンに入っていく。しかし、その考えは甘かったようだ。ダンジョンに入った瞬間どこから現れたのか大きな岩が入り口を塞いだのだ。俺はこのダンジョンは危険だと判断して、大岩を壊そうと稲妻サンダーを放つ。しかし、大岩には傷一つ入らなかった。


「なっ!?」


 俺は思わず驚きの声を上げる。おそらく自然の岩ではなくトラップのようなものなのだろう。しかし、人をも一瞬で消し炭に変える稲妻サンダーですら傷一つつけられないとは……。その後、雷球スパークを打ったが消費するMPがこちらのほうが低いだけあり、やはり壊すことはできなかった。竜化を使うことも考えたが入り口は狭くここで竜になりでもしたらダンジョンが崩れてしまいそうだ。仕方なく他のメンバーと相談し、奥へ進むことにする。当然危険と思ったので俺が先頭だ。


 しばらく進むと階段があった。地下2階への階段のようだ。1階はなぜか魔物が一体もいなかった。俺はそのことに少しだけ不安を覚えつつ階段を降りていく。ちなみに1階に敵はいなかったので残りの4人には残ってもらっている。普通のダンジョンならさほど問題ないだろうがこのダンジョンは危険だと全員が感じていた。


 階段を降りるとその不安は現実となった。そのフロアは暑かった。いや、暑いという表現だけで済むのだろうか、地面は細い道となっておりその両側には溶岩が流れていた。竜になったせいで遠くまで見えるんだが、遠くのほうには小さな竜も見ることができた。おそらく環境からいって小炎竜レッサードラゴンといったところだろう。よく見れば溶岩の中に入ってると思われる固体もいる。これはますます何かありそうだ。そして、あの4人の実力では絶対敵わないと改めて感じた。実ははくはライル達と戦ったとき実力の半分も出していなかったのだ。まあそのせいで危うく攻撃を食らうところであったが……。


「しかし、暑いな……」


 白は呟きながら進む。正直言って小炎竜レッサードラゴンが何体かかってこようがいまのはくには負ける気がしない。しかし、ここはダンジョンである。何が起こるか分からない。そんな緊張感を溶岩が流れているほど高温な中で保ち続けなければならないのだ。いくらはくとはいえ、精神的にきついものがある。


 道中に出てくる雑魚は一睨みするだけで去っていった。それほどの実力差がある証拠であろう。さすがに小炎竜レッサードラゴンは襲ってきたが全て雷球スパークで一撃だった。そんなおかげもあり次の階段を見つけるころにははくはだいぶレベルが上がっていた。そもそもがレベルに不相応なステータスなのである。レベルが大量に上がってもおかしくはないだろう。


____________________

 名前:稲妻 白 17歳(女)

 種族:雷龍族 Lv27 

 HP 2585(+452) MP 1707(+610)

 ATK 538(+62) DEF 373(+31)

 DEX 78(+8) AGI 540(+65)

 INT 341(+116) LUC 39(+1)

 SP 17

 <スキル>

 稲妻サンダー 龍の咆哮 ライトブレス 料理上手 竜化

 <称号>

 勇者殺し 初心者の敵 

____________________


 MPを使うスキルで多く戦ったせいかMPが大幅に上がっている。せっかくSPも溜まったので3階へ降りる前に使っておく。そして得たスキルがこれである。


 耐熱……炎に対して耐性が大幅に上がる


 なんともこの場所に適した能力である。もしかしたらランダムでもその場に合ったものが選ばれやすいのかもしれない。そんなことを思いつつ次の階段を降りる。入り口付近で待っているライル達を早く安全なところまで連れていきたい。そう思うと自然と足も早くなっていった。




 ……そして次の階で待ち受けていたのは一面真っ白な氷の世界であった。


「寒い……」


 この階に来てから30分ほど経っただろうか、前の階層では全体が開けていたのだがこの階層は迷路のようになっているようで、いまだに次の階への階段を見つけられないでいた。何度行き止まりに当たったことか。こういう迷路ならば飛べば上から行けるのではないかと思うのだが、地下にあるせいなのかそれとも天井が低いのか氷の壁は天井まで続いていた。一度氷の壁なら壊せるのではないかと思い、雷球らいきゅうをぶつけてみたが、びくともしなかった。ダンジョンの壁は壊せない設定になっていた気がするのでそのせいだろう。


 何はともあれ、この現状はあまりよくなかった。襲ってくる魔物はたいしたことないのだが、こうも寒いと体力を削られる。前の階層を進んでいたときこの程度のダンジョンなら問題はないなと思っていたが、思わぬ罠があったものだ。あまりに長くこの階層にとどまっていると本当に活動ができなくなりそうだ。そういえば、竜って地球で言えば爬虫類の部類だよな……。ということは冬眠をするのかもしれない。本能が眠いと言っている。


 なんとか眠気と戦いながら進んでいる途中で俺はあることに気づいた。


「……魔物が向こうからしか来ない」


 魔物が度々襲ってくるのだがどの魔物も同じ方向から来るのだ。そして、その方向は魔物が多いとめんどうなのでまだ探索していない。もしかしたらこっちに次の階層への階段があるのかもしれないと思いながら進んで行く。


 どうやら当たりのようだ。向こうに階段が見える。さすがにこれ以上深いということはないだろう。もっと深かったら魔物はこれほどまでに弱いはずがない。俺はそう考え、ながら階段へと一歩を踏み出す。しかし、その判断が甘かった。


 ここに至るまで最初以外は罠の類はいっさいなかった。それで、俺はこれからも罠など一切ないと思っていた。それが俺の失敗に繋がったのだろう。踏み出した足場が崩れ落ちる。その下には鈍い光を放つ針の山があった。通常の冒険者なら針に突き刺さって終わりだろう。しかし、俺は焦りながらも翼を展開する。それにより魔力が削られるが針に串刺しになるよりはよっぽどマシだ。俺は穴から無事脱出して、階段を降りていく。途中、火球が何度か飛んできたがその威力は弱く、簡単に払いのけることができた。


 階段を降りるとその先は大きな広間だった。ここが最下層なのだろう。フロア全体が見渡せるのに階段と思われるものはない。すると、突然何かが向かってくるのが見えた。俺はその何かをつかむ。早くてもこの身体の動体視力はとても優れているため掴むことができた。


「足?」


 掴んだものは足だった。それも人の足ではなかった。鉤爪が付いている。


『離せ、この人間め!』


 よく見ると掴んだのは竜の足だった。それもただの竜ではない。俺のように要所だけ竜化している人間形態の竜だった。まだ幼いのか少年というべき姿だ。全体的に赤っぽいということは火竜なのか。さっきの火球もこいつが打っていたのだろう。


「よく、見ろ。俺は人間じゃないぞ」


『そんなのに騙されるか!人間なんて……!』


 そう言って今度は手をこちらに振りかざしてくる。俺はその手も簡単に掴み、その少年に尻尾を見せる。この尻尾、はじめはいままでない器官だったので制御がほとんどできなかったが、だいぶ動かせるようになった。


『え……、竜?』


「これで信じてもらえたか?」


 すると少年は信じられないという顔をしてから、急に掴んでいた手を振りほどいて、距離をとった。あまりに急すぎて思わず手を離してしまったじゃないか。そして、どうするのか見ていると


『どうか俺を助けてください!』


 ……土下座して、俺に助けを求めた。


「ちょ、ちょっと待てって。なんでそうなる」


 俺は慌ててそう言う。正直こんな子供に土下座をされると何故か謝りたくなる。


「だって、お姉さん竜族ですよね。どうしても助けて欲しいんです」


 俺のことをお姉さんって呼んだ気がするがまあ、子供だしな。うん、決して慣れてきたとかじゃないんだよ。そして、その竜族の子供から話しを聞くことにした。事は二日前に起きたらしい。このダンジョンは未発見かと思ったらそうでなかったのだ。ただ、発表がまだだっただけである。そして、その冒険者は見事この最奥までたどり着き、ダンジョンの主であるこの竜族の子、名前はギンという、を殺そうとしたということだ。しかし、子供といえど竜族である。なんとか冒険者を撃退したのだが、逃げる時にダンジョンのコアと呼ばれる部分を持っていかれてしまったのだ。俺のダンジョンで言えばあの本がコアにあたる。このダンジョンではきれいな宝石だったのだが、持っていかれるとダンジョンは1週間ほどでなくなってしまうそうだ。


「でも、僕がこのダンジョンを離れるとこのダンジョンはすぐにでも壊れちゃうんだ。あの、入り口の大岩は僕が残っていたダンジョンポイントを使ってなんとか入り口を塞いだんだ。このダンジョンにもお別れだからもう荒らされないように。でも、もしお姉さんが取り返してきてくれるなら僕はこのダンジョンを維持できる。危険なのは分かってるけど、ここまで無傷で来たお姉さんならできると思うんだ。だから……」


 そう言ってまた土下座をしようとする。というか、こちらの文化にも土下座があるのがびっくりだ。しかし、こんな小さな子に頼まれると断れないものがある。だって、見た目小学生くらいだし。


「分かった。なんとか見つけて来よう。ただ、取り返せなかったらごめんな。流石にそこまでは保証できない」


「ほんとですか!ありがとうございます!」


 まるで人(人じゃなくて竜だけど)を疑うことのない眼差し。少し危なげではあるが、この子のためにできる最大限のことをしようと思った。


 岩をどかす約束をして、入り口に戻る。すると、そこでは何故か皆が酒を飲んでいた。しかも、ライル以外は既に寝ている。いったいどこから酒なんて持ってきたんだ……。


「あ、白ひゃん。そっちはろうれすか?もう、おそいんでのんじゃいましたよ」


 そして、倒れた。これで全員寝ている。なんて緊張感がないんだ。ため息を吐きながら、岩をどかす合図をし、大岩はどかされていく。俺は4人を担ぎ、外へと出る。とりあえず、こいつらは木の下にでも放置しとくか、と思ったが魔物に襲われるといけないので面倒だが一人づつ、人里付近まで運んだ。最後の一人を運び終え、ダンジョンの入り口に戻るとギンがいた。


「あ、戻ってきた。おーい、お姉さーん」


「お姉さんじゃなくて、せめて白って呼んでくれ……」


「じゃあ、白さん。お願いします。たぶん冒険者はここから1番近い都市、グランディアから来たかと思われます。力になれなくてすみませんが……」


「いいって、それじゃあ行ってくるな」


「はい、お気をつけて」


 俺は飛び上がる。ギンがまだ子供だから取替えしてあげようと思っただけではない。あんな子供に手を出すような冒険者にも腹がたっている。2日前に逃げられたならちょうど都市に戻っている頃であろう。魔物の相手をしながら行くのには結構な距離があるのだ。しかし、俺は飛べるので魔物は無視できる。飛んでいる魔物もいるっちゃあいるが敵ではない。


 そうして、俺はグランディアに着いた。しかし、問題はここからである。俺には角と尻尾がある。角はなんとかごまかせるかもしれないが尻尾はごまかせない。絶対に捕まる。何故ならこの街の出入りで人間以外が全くいないからだ。行列ができているのに一人もいないのはおかしい。そこで、一旦自分のダンジョンに戻ることにした。そして、操作して、長いローブをゲットする。ローブを羽織り尻尾は身体に巻きつける。角はどうしようもないので飾りだと言っておこう。怪しまれるかもしれないが、これしかない。


 もう一度準備を整え直してから俺はグランディアに飛び立った。


 さて、街に入ろう。ローブと一緒に帽子も買ったので、帽子さえ取られなければばれないはずだ。俺が戻ってきたころには行列はいつの間にか解消されていた。一時的なものだったのだろう。門の前に兵士がいる。門をくぐろうとしたが特に何もなかったのでそのまま進んだ。兵士はこちらを一瞬見たけれど何事もなかった。

 街に入ってから考える。まずはどうやって見つけるかだ。情報はきれいな宝石ということしかない。とりあえず冒険者ならギルドに行ったのではないかと思いギルドの場所を聞くことにした。


「あの、すみません」


「なんだい?」


 話しかけたのは気の良さそうなおばちゃんだ。露店で何かの肉を串焼きにして売っていた。


「ギルドに行きたいんですけど、どこにあるか教えてもらえませんか?」


「なんだい、この街は初めてかね。ギルドなら通りを真っ直ぐ行ったところにあるよ」


 簡単に聞くことができた。おばちゃんにお礼を言って、串焼きを1本買う。お金も本から取り出すことができたのだ。ちなみに1ポイントで銀貨1枚、銀貨は地球で言う1000円くらいなので交換効率はものすごくいい。ただあまり使わないが。

 ギルドに着くと中は思ったよりきれいだった。イメージとしては昼間から酒を飲んでる人が大量にいると思ったんだが。ギンに事前に冒険者の風貌を聞いていたのだがそれらしき人はいない。ギルド職員に聞くにしても怪しまれるだろうし、ギルドに渡しているとは限らない。どうしようかと思っているとき外から歓声が聞こえた。ギルド職員に聞いてみる。


「すみません、外から歓声が聞こえたんですが何かやってるんですか?」


「今日はオークションがあるんです。冒険者や貴族の方々が逸品を持ち寄って開かれるんですよ」


 なるほど。そこに出品されている可能性もあるか。ギルド職員にお礼を言って外に出る。オークション会場にはすぐに着いた。司会の人がしゃべっている。


「お次の品は今日飛び入り参加で持ち寄られた、ダンジョンコアです!」


 ちょうど間に合ったようだ。きれいな宝石だしあれがそうだろう。問題は手持ちの金額で買えるかどうか。手持ちにはいちおうを考えて金貨を10枚持ってきている。


「こちらのコアは白金貨3枚から!白金貨3枚から!」


 は?白金貨?この世界では100枚ごとに硬貨が変わっていく。銀貨で1000円程度なので白金貨3枚といったら3000万円ということになる。高過ぎて買えない。どうしようか悩んでいるうちに他の人に落とされてしまった。

 さて、困ったことになった。俺はコアにそんなに価値があるとは知らなかったのだ。奪うという手も思い浮かんだが買った相手が悪かった。相手は国でも有数な貴族だ。何故分かるかというと、国王自身だったからだ。貴族どころではなく王族である。国王から奪ったら最悪国に喧嘩を売ることになる。

 結局解決策は見つからず、今日は寝ることにした。考えがまとまらないときは寝るのが一番なのである。適当に宿をとって寝た。


 次の日、朝から考えていたが考えはまとまらない。もう昼も近くなっている。期限もあと4日ほどしかない。考えながら歩いていると不意に呼び止められた。


「そこの者、フードを取って顔を見せろ!」


 兵士がこちらに武器を取り出しながら近づいてくる。


「お前の正体はもうばれている!お前は人じゃなく、竜族だろう。おとなしく着いて来い」


 何故ばれたんだ。ただ明らかに戦闘体制で言われて素直に着いていく俺じゃない。


「断る。だいたい、竜族とは何だ?そんなもの知らんぞ」


「しらばっくれても無駄だぜ。この街の門兵は鑑定スキル持ちだ。とっくにばれている」


 あそこで既にばれていたのか……。だが、何故あそこで止めなかったのだろうか。気づいていたのなら街に入れなければいいのに。


「どうせ捕まるんだから教えてやるよ。この街にはあるルールがある。それは人以外がこの街に侵入したら奴隷にできるってルールだ!」


 急に背後に殺気を感じてその場から飛ぶ。後ろを見るとやはり兵士が剣をさっきまで俺のいた場所に振り下ろしていた。


「あれを避けるか……。まあいい、この数で相手できるかな」


 そう言うと道の至る場所から兵士が出てきた。数は20ほどだろうか。俺はそれを見て一言。


「……へぇ、上等じゃないか」


 そこには無意識的ににやりと笑っている俺がいた。



 俺の雰囲気が変わったのか数人の兵士が少し下がった。最初に声をかけてきた隊長のような兵士もこちらに飛び掛らせることができずにいる。俺はそれを好機と見て、翼を出した。そして、飛び上がる。


「な、何をする気だ!」


 ここまで来てしまえば、そう簡単には攻撃できない。剣は当然届かないし、魔法もこの距離ならよっぽどじゃなければ避けれるからだ。


「じゃあねー」


「「「「は?」」」」


 俺が飛び上がってその場を去ろうとすると兵士は呆けていた。大方攻撃が来るとでも思ったのだろう。だが、俺はそんなことをしない。こんなところで戦ったら一般市民にも当たるかもしれないし、なにより戦う理由がない。勝ったところで俺に得ないし。

 まあ、それだけで離脱するんじゃないけどね。ここまでされたら、もう国王からコアを奪ってもいいんじゃないかと思う。国に喧嘩を売ることになったとしても、ここで暴れたら暴れたで、同じことだし。


 というわけで上空から国王を探す。すると、一際豪華な馬車が目に止まった。他にもいくつか城のほうへ向かう馬車もあるが、一つだけ異様に金がかかってそうな外見だ。そちらに向かって急降下する。下では「待て!」などと言う声も聞こえるがそれで待つやつはいないと思うんだ……。


 馬車へとたどり着く。そして、ゆっくり近づいて


「国王様はいらっしゃいますか?」


 と聞いた。空から降りたところは見られていない……はずだ。


「貴様!何者だ!」


 当然兵士は警戒する。すると、何故か国王が出てきて


「ふぉふぉふぉ、慌てなくてもよい。お主は竜族じゃな?どうじゃわしのところへ来ないか?わしは亜人族の収集が趣味でな。大丈夫、可愛がってやるぞ」


 と卑下た笑みを浮かべながら言った。まるで、断られるとは思ってもいないように。まあ、当然だよな。逆らったら絶対に逃げられないから、普通なら。あいにくながら、こいつの下へ行くつもりは全く無い。それに、もう見つけた。国王はその手にコアを大事そうに抱えていた。

 俺は国王の下へ歩いていく。そして、ひざまづいた。今はコアを狙っているとばれていない。だったらそれを利用するまでだ。


「こんな私ですがよろしければ」


 そう言って手を差し出す。

 うえ、私とか吐き気がしそうだ。やっぱり一人称は俺に限る。


「ふぉっふぉっふぉ」


 国王は笑いながら手を取ろうとした。俺はその隙を見逃さない。瞬時に立ち上がりコアを掠め取る。


「貴様!」


 槍を持った兵士が突いてくるがもう遅い。翼は閉まっていなかったのですぐに飛び上がる。


「な、なんのつもりじゃ!」


「用はもう済んだ。お前らに言うことはもう何もない」


 そういい残して、国から飛び去る。すぐには対応できないだろう。しかし、いちおう迂回して、ギンのところへ戻る。

 洞窟へたどり着いたときには既に日が沈んでいた。だというのに、ギンは未だに外で待っていた。俺の姿を見て喜びの表情を浮かべる。


「待たせたな」


 コアを差し出しながら言う。


「いえ……」


 ギンは顔に涙を浮かべながらそう言った。とても嬉しそうだ。


「……ありがとうございました、はくさん」


 こうして、俺がダンジョンから離れていた長い期間は終わった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ