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よそ様の子とうちの子07

作者: 空愚木

 あらすじにもありますが、私が勝手に書いたものです

 本来の設定等と違う点などあると思います。特に口調が違う、性格が違う、呼び方が違う、など。

 藤咲様から直接指摘していただく以外はそのままにしようと思っています

 「雨か……。困ったな。夜になる前に一人ぐらい人に出会いたいものだったんだが」


 ザーザーと音を立ててキセトの横を落ちていく雨粒を、キセトは無表情で眺めていた。傘など持っておらず、落ちてくる雨粒に濡らされるままになっているのだが、キセトも好きで濡れたいわけではない。

 例によって魔法の誤作動で異世界に飛ばされたようなのだが、キセトが経験したことのない世界であるらしかった。

 「らしかった」というのも、この世界に来てから人に会っていない。ここがどういう場所なのかも、キセトには今だわからないままなのだ。


 「ん? 建物?」


 とりあえず真っ直ぐ進む。それだけを続けていたキセトの視界に、今はありがたい屋根のある建物が見えた。幸いなことに明かりも灯っているので人も住んでいるのだろう。

 迷惑をかけるのは不本意だが、この世界について話だけでも聞けたらいいと思ってその建物に近づく。ある一定の距離を越えてから、中から警戒心が漏れ出てきた。もしかして腕のいい山賊か何かの根城なのだろうか、とキセトも警戒する。それでも近づくのをやめないのは、玄関先でも屋根のあるところで寝たいという純粋な欲望からだった。


 「こんばんは」


 規則正しいリズムによるノックと、出来るだけ敵意を示さない声。キセトなりの努力だったのだが、中から伝わる警戒心はピークを迎えようとしている。


 「誰ですか」


 「えっと、旅人です。急な雨に合ったので出来ればお邪魔したいのですが、よろしいですか?」


 「こんなところを、ただの旅人が通りますかね?」


 「『こんなところ』もわかってないんですよ。迷子ですから」


 「………」


 扉を少しも開けないあたり、相当警戒されているようだ。山賊というより護衛だなと思う。何せ彼らの警戒心に信念のようなものを感じとっっていたからだ。不思議と不愉快さはなかった。もし不愉快だと思っているとしたら、それは建物の中にいる者たちの方だろう。


 「レイラ! 旅人さんが濡れちゃう!」


 突然開いた扉の奥に見えたのは、キセトが感じていた警戒心とは無縁そうな少女だった。肌は一度も何かに害されたことがないかのように透き通る白で、走った直後なのかほんのり赤くなっている。瞳が綺麗な青だったことがキセトの印象に強く残った。

 そして隣に、(おそらく警戒心の発信源である)青年が立っているのも確認した。ダークブロンド、というのだろうか。部屋の中からの明かりに当てられている部分、いつのまにか空に姿を現していた月の光に当てられている部分。それぞれで違う色に見えるほど美しい髪をした青年だ。


 「決してここにお住まいになっているあなた方の邪魔をしませんし、害も加えません。それは約束します。雨が上がるまで、雨宿りさせてください」


 こんな時に自分が無表情しか作れないことが憎い。ここでやわらかく微笑むことさえできたら、彼だってこんな疑いの表情にならなかっただろうに。

 青年とは間逆で少女は疑うことを知らないのか、タオルとって来るね、ともうキセトを招き入れる気だ。青年は一瞬だけ不服そうにして、仕方がない、とばかりにキセトを招き入れた。ただ、キセトに対する警戒心は一行に強くなるばかりだったが。


 「えっとね、私はフツキ。彼がレイラ。彼女はアリシアで、奥にいるのがクロウ」


 案内された広いダイニングで少女がそれぞれ名前だけを紹介してくれた。おそらく、周りの三人から警戒するように言われたのだろう。玄関で見たときと違って動作にぎこちなさが見て取れた。


 「俺はキセトです。すいません、突然お邪魔してしまいまして。雨が上がれば、事情によればそれよりも早くお暇しますから」


 言った後にしまったと思った。事情によれば、などという曖昧な言い方をすれば更なる警戒心を持たせてしまう。気づいた時にはすでに遅く、フツキ以外の三人からは三者三通りの警戒心をいやおうなしに向けられた。

 仕方がない、とキセトは信じてもらえない可能性を無視してすべての事情を話す。


 「事情というのも、実は俺は異世界の出身なんですよ。元の世界の魔法の誤作動で、突然この世界に飛ばされたんです。この世界と俺がいた世界の繋がりさえ知ることが出来れば、今すぐにでも元の世界へ戻ります。そこで、よろしければこの世界について教えてくださいませんか? 俺がいた世界との共通点を何個か見出せれば繋げられるでしょう」


 「異世界!? 御伽噺みたい。でも、私もずっと建物の中にいて、外の世界に出たのはつい最近のことなの。だから、レイラたちに聞くのがいいと思うわ」


 どう? と輝いた目で問われて、思わず言葉を飲み込んだ。

 訪問者を歓迎しているのはフツキだけで、他三人の警戒心はどことなく嫌悪感ではないかと思えるほど強くなってきている。やはり異世界の話は信じられていないのだろう。


 「フツキさん」


 「な、なんですか? きせと、さん? 私のことは呼びすてでいいですよ?」


 「初対面でいきなり呼び捨ては抵抗あるから、フツキちゃんにしよう。フツキちゃん。ちょっとアリシアさんとここに残ってくれるか? 俺はレイラさんとクロウさんにこの世界について聞いてみるから」


 「ここじゃ駄目なの?」


 「フツキちゃんは外の世界について知らないって言っていた。外の世界のことを聞くときはドキドキすると思う。俺が知りたいのはただの知識として。それとフツキちゃんの知りたい世界って表現の仕方が変わってくるだろう。だからここで無機質な知識として知るとネタばらしになる。ドキドキは後にとっておいたほうがいい」


 それじゃ、とダイニングを後にして。後ろに一人だけついてきている気配を確認して振り返った。クロウと紹介された彼はダイニングに残ったらしい。キセトについてきた、改めてキセトを監視しにきたのはレイラだけだ。


 「信じてないって表情で言わないで下さい。コレでも嘘はつけないなんて仲間内からは言われてます」


 レイラたちがフツキを大切にしているのはキセトにもわかった。そのフツキの前で、フツキは信じきっていることを疑っているなど言いたくはないだろう。キセトのその気遣いに気づかないレイラたちでもない。あからさまの嫌悪だけは内にしまって接する。


 「雨が止んだら出て行ってください」


 有無を言わさず、といったレイラの態度に、キセトは心の中だけで苦笑いで返した。実際はいつも通りの無表情だったが。


 「そのつもりですから安心してください。強いていうなら、玄関先でも屋根があればいい、なんて思ってたぐらいです。そちらの指示に従いますから、都合のいいようにしてください。こちらの要求は屋根のあるところです」


 「部屋はあります。そこで休んでもらえば結構です。ただ、勝手に部屋を出たりしないでください」


 「わかりました。あ、タオル、一枚だけ借りますね」


 最初にフツキが玄関先まで運んでくれていたタオルを取って、キセトは案内された部屋で寝ることにした。家主に挨拶もせずに失礼かと思ったが、レイラたちを無意味に逆撫でしなくなかったのだ。髪をタオルで拭いて絞れるほど濡れた上着は脱ぎ、シャツもタオルで出来るだけ水分を取ってからベッドに入る。

 寝る前に純粋そうな黒髪の少女の顔が浮かんだ。そして青い瞳。魔法で水鏡を発生させて自分の瞳を見つめる。青、というより水色やら空色と称される色がそこにはあった。キセトの世界でもこの色はある身分を示していて、フツキたちの世界でもフツキの瞳の色は特別なものだと知るのは、翌日の話。



 朝目覚めた時、キセトは完全に失念していた。ここが異世界で、自分が警戒されている立場であるということを、だ。

 極自然に部屋を出て、無意識に昨日案内された道を逆にたどり、無意識にダイニングまでたどり着いてしまった。ダイニングの扉を開けてアリシアを見て、やっと自分の立場を思い出したぐらいだった。


 「……おはようございます。ここが他人の家だということを忘れていました。今すぐ部屋に戻りますね」


 「い、いえ。もうすぐ姫様も起きてきますからそこにいてください」


 目の届くところにいるほうがマシだ、という言い方だったのは気にしないでおこう。いや、キセトは元々そんなことを気にする性格ではない。そうですか、とテーブルの端の席に座った。

 一つ気になったことといえば、


 「姫様ってフツキさんのことですか?」


 「それは、えぇ、そうです」


 いつもそう呼んでいるのだろう、思わず出たようだ。そして一人の少女を姫と呼んでいることがなにやら都合悪いことなのか、煮え切らない返事だった。


 「フツキさんが姫様ならあなた達は騎士ですか。ただの護衛にしては意思の強い瞳をしています。特にレイラさんが」


 「お答えできません」


 「そうですか。深くそちらの事情に入り込むつもりはありません。元の世界に帰るか、雨が止むまでの関係ですから。……ただ」


 「ただ、どうかされました?」


 「いえ。フツキさんの瞳の色が気になりました。この世界では青色の瞳の方はたくさんいるのですか?」


 「!? どうでしょう。私はあまり見ませんでしたけれど」


 アリシアの顔色が明らかに変わったのだが、背を向けていたキセトにはわからなかった。それが幸いだったのか、話を自分の世界のほうへとずらしていく。


 「俺がいた世界では青色の……空色の瞳はある特別な身分を示していまして。俺が空色の瞳をしている者ですから、面倒事も起こってしまうんですよ。血筋で髪や目の色がほぼ決まっていきますから。金髪も、俺の世界ではある国の皇族の色なんです」


 最後の言葉はアリシアの方を見て言う。短い金の髪を揺らして顔を上げたアリシアと視線が合った。


 「作り話にしか聞こえませんよ……?」


 ぶれないキセトの視線から逃げるようにアリシアが視線を逸らし、気まずさに耐えられずに茶化す。キセトは短く、そうですか、と返しただけだった。


 「おはようございます」


 そんな空間にフツキが入ってきたものだから、アリシアはこの機会にとばかりに話を逸らす。


 「おはようございます! 朝食、もうできてますよ」


 「おはようございます。キセトさん、ゆっくり眠れましたか?」


 「えぇ、あの後すぐに休んでしまいました。そのせいでこの世界について何も聞いていないぐらいです」


 「そうなんですか? 私が教えてもらったことでお役に立てるようなことはないんです……。青薔薇姫のお話ぐらいなんですけど……」


 それは言っちゃいけないらしいの、とキセトの目の前で言ってしまった。アリシアが遮ることも出来ず、フツキの後ろからダイビングに入ってきたレイラもしまったという顔をしている。

 おそらくレイラたちが止めていたのだろう。この世界のものなら、彼女を、彼女の青色の瞳を前にしてそのお話を聞けば察するだろうからだ。御伽噺に過ぎないはずの存在に。

 だが、キセトはこの世界の人間ではない。焦るレイラとアリシアを尻目に疑問符を思い描いていた。


 「御伽噺、ですか? 古くからあるようなものなんでしょうか。よくわかりませんが」


 「私もレイラたちから聞いただけなの。青い――


 「フツキ! ご飯食べましょう、ね?」

 

 不自然でしかないがレイラが今度こそ話を遮った。フツキは素直な子なのか、冷めちゃうね、と話しかけたことをしまいこむ。明らかに不自然なのでキセトが追求してもおかしくない、のだが。


 「そういえばこの世界にも魔法はあるのですか? 俺の世界にもあったのですが。あるとすれば共通点の一つ目ですよね」


 「あるよ! レイラとクロウは使えるの。えっと、確か使える人はとても少ないのよ」


 「でも使えるのですね。共通点が一つですか……。流石にまだ弱いですね。後一つでもつかめればすぐにでも帰れないか確かめてみます」


 「えぇ!? もう帰ってしまうの?」


 「むこうにいる友人も心配していると思いますから。と言っても、共通点が後一つ必要なんですけれどね」


 キセトはキセトで、自分の世界に帰ることしか考えていないようだった。

 話がずれたことに安心して、レイラからキセトにいくつか質問して、無害かどうか判断することにした。雨は暫く止みそうにもなく、何日も世話をすることになるのならいつまでも警戒するのも辛い。なによりフツキもその空気を感じ取るだろう。感じ取って繊細なフツキは体調を壊すかもしれない。

 それは避けたいのだ。


 「キセトさん、あなたは魔法を使えるのですか?」


 「はい、使えますよ。それなりに極めています」


 「剣術は……帯剣していませんけれど」


 「剣を振るうことはできますが、何かの流派を極めたわけじゃありません。我流です」


 「二つの質問の答えからして、それなりに戦える人ですね」


 「力で言えば。ですが俺自身が人を傷つけるのは好みません。はっきり言うと嫌いです」


 ここでフツキが嬉しそうに笑う。キセトも釣られて笑顔になろうとしたが、残念ながら引きつったようにしか見えないなにかで終わってしまった。


 「笑うのが下手ですね」


 「昔からです。この無表情で不愉快にさせていたら申し訳ない」


 深々と頭を下げたキセトを見てなにを思ったのか、レイラは深く息を吐いた。そしてアリシアに視線を送って何かしろの意思を伝えている。


 「貴方が帰れるように協力いたします」


 意思疎通の内容はレイラではなくアリシアが音にした。フツキが朝食を食べながら少し残念そうな表情をしていた。


 「共通点となるかわかりませんが、貴方の世界では青色の瞳が特別な身分を示すそうですね。示すものは別としても、この世界でも青色の瞳は珍しい……いえ、ある特定の人物を示します」


 「それは……中々期待できそうな情報ですね」


 青い瞳の少女――フツキ――を目の前にしてキセトが自然に笑う。レイラが判断を早まったかと思うほど"普通"からはかけ離れた笑みだった。


 「御伽噺とされている青薔薇姫という存在を示すのです。特別な存在としかここでは言えません」


 「いえ、十分ですよ。青色、俺の世界では空色ですが、特定の色が特定の立場や人物を示す。それだけでも十分です。すいません、家具動かしてもいいですか。俺の手が届く範囲は俺と一緒に戻ってしまいますので」


 そういってキセトは家具を出来るだけ動かさないでいい場所に立ち、フツキたちに近寄らないように指示してダイビングの一角に光で円を描き始めた。


 「安心してください。俺が移動し終えればコレも消えますから」


 「も、もう帰ってしまうの?」


 「帰れるようになるまでという条件でしたしね。あぁ、窓の外を見てください。丁度雨も上がりますよ」


 確かにキセトが言っているように雨は上がろうとしているが。

 なにより突然過ぎないだろうか。雨が止むのも、キセトが帰るのも。


 「すいません。突然お邪魔して突然去るような形で。クロウさんにも謝罪していたと伝えておいてください。俺もやらなければならないことがありますから」


 「本当に異世界から……?」


 「異世界との交流は俺にとって珍しいことではありません。もしいいと言ってくださるなら、そちらの都合を踏まえたうえでまた会いましょう」


 それでは、とわざと軽くいった。長引かせるだけ相手を複雑な気分にさせるだけだと思ったからだ。

 合図として床を蹴る。次に着地したときには見慣れた自室が目の前に広がっていた。


 「青薔薇姫か。綺麗な瞳だったな」


 帰ってきてキセトは、一度だけあの少女を頭の中で描く。美しい少女だった。やはり、自分と似たような青い瞳が印象強い。

 近くのノートをとって、名前も知らない(そういえば聞かなかった)世界についてメモを取る。暫定的に先ほどの世界をキセトは青薔薇と名づけた。

 今回は交流もせずに急いで帰ってきてしまったが、次はゆっくりと誤解を解くことも含めて、友好な関係を築けることを祈って、ノートを閉じる。


 * * *


 「き、消えた!」


 「なんだったんでしょう……」


 「おはよーってあれ? どうしたの? 三人とも」


 「キセトさんが帰ってしまったの」


 「そうなの? あー、雨も上がったしね」


 クロウはあまり気にしていないのか、去ったものまで追うつもりがないのか、キセトに無関心のようだ。三人もクロウに習って席につき、いつも通り食事を始めた。昨晩から今朝にかけて、確かにここにいた青年を思い浮かべながら。


 

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