第五話 アレクside
やはり魔王様は素晴らしいお方だ。
城中の魔族達が感極まって涙を流している。
その気持ち、分からなくもない。
そしてゼメガが見たこともないほど美味しそうなものに呪文無しでしてしまった!
流石です!魔王様っ!!
2000年も眠っていたというのに衰えがまったくない!
メイドたちも美しい魔王様のお姿に頬を赤く染めている。
魔王様は渡さないけどな。
魔王様はゼメガを食べ終えると早々に立ち上がって部屋の扉に向った。
俺も慌てて魔王様を追いかける。
すると魔王様は、
「美味しかった」
そう言って部屋から出たのだ。
ああ、魔王様。
「魔王様に『美味しかった』と言われるなんて!!」
「なんていいお方なの///」
「一生ついて行きますわ!」
当たり前だ!
魔王様の素晴らしさは語れないほどある。
***
そして翌日。
魔王様は私の名前を忘れてしまったらしい。
これも全部眠りについた代償なのかもしれない。
…人間死ね。
ゴホン。
まぁ、それはおいておこう。
なんていったって今日は魔王様のお目覚めを民たちに知らせる日なのだから!
時間になり、魔王様を迎えに行けば、いつも以上に堂々と凛々しいお姿。
…魔王様、目のやり場に困ります///
胸元が大きく開かれて色気がっ…!!
これも全部メイド長の仕業らしい。
…よくやったメイド長っ!!
思わずグッとしてしまう。
魔王様に冷たい目で見られてしまったが仕方ない。(実際は『え、何やってんの?』という目)
***
魔王様をバルコニーに案内すれば、ほとんどの民が城下にいた。
魔王様が一歩前に出ただけで歓喜の声が飛ぶ。
「静まれ」
その一言で静まりかえる。
魔王様の威圧感に思わず一歩下がりそうになってしまったが、耐える。
ここで絶えなかったら魔王様の従者として情けない。
それと同時に高揚している自分に気付く。
流石です魔王様!素晴らしいです魔王様!最高です魔王様っ!!
何を言うのか期待せずにはいられない。
きっと魔王様のことだ。
素晴らしいお言葉を言うのだろう。
その様子を本人が見て内心悲鳴をあげているのに気付きもしない。
「俺が目覚めたからには魔界を人間共の好き勝手にさせない。もちろん裏切りも許さない、俺に着いて来るのであればお前たちを全ての力を使ってでも護ると誓う、決断するのはお前たち自身だ」
あまりの素晴らしいお言葉に涙を流している者や、魔王様が笑わない様子に人間共に怒っている者たち。
そして前まで魔王様は人間共のことを『人間たち』と言っていたのに『人間共』と言った。
それに気づいている者たちも人間に対して憎しみを憎悪させる。
それに、魔王様について行かない者などこの場にいる中では絶対にいない。
「…大事な仲間に再び会うことができたことを幸せに思う」
魔王様は一息つくと、そう言い、城の中に向う。
城下では魔王様コールが響く。
俺はすぐに魔王様を追いかけた。
***
魔王様の少し後ろを歩く。
…魔王様は俺のことを大事な仲間だと思ってくれているのだろうか?
それが不安でならない。
眠りにつく前は毎晩『これからも俺と共にいろよ』と言ってくれた。
俺が特別ってわけじゃないけど、その言葉が嬉しかった。
でも、魔王様は目覚めてから一度もおっしゃってくれない。
もしかして…名前と同時に俺のことも忘れてしまったのだろうか?
「…魔王様」
そう思うと、声をかけてしまった。
魔王様は俺を見て立ち止まる。
っ…魔王様の時間をとってしいまった…!
謝ろうと口を開いた時、魔王様のお顔が真横にあった。
魔王様の手が俺の髪に触れる。
急なことに体が動かない。
「アレクも大事な仲間だ、離れないでほしい」
魔王様はそれだけ言って離れてしまった。
ああ、魔王様は俺の不安もなくしてくれる。
それに…まだ魔王様は忘れていないようだ。
アイツのことを…。
それだけは悔しいが、今は…
今はアイツがいないのだから、魔王様の一番は俺だ。
自然と笑っていた。
「俺が魔王様から離れることなんて絶対ありません!これからも側においてください!」
ずっと側に…。
俺はアイツみたいに離れません。
だから魔王様。
そのお心を俺でいっぱいにしてください。
「…ゴミは捨てておく」
いきなり話が変わったことに戸惑うが、魔王様の左手に小さな盗聴スライムがのっていることに驚いた。
もしかして…俺の髪についていたのか!?
流石魔王様。
俺でも気づかなかったのにすぐ見つけてしまうなんて!
魔王様が盗聴スライムの上に右手をかざせば、盗聴スライムは醜い声をあげて塵になった。
魔王様を裏切って人間側に行こうとしている奴の部下だろう。
魔王様は冷たい眼差しで塵を捨てる。
魔王様を裏切ったからいけないんだ。
魔王様は身内には優しいが、敵だと決めた者に情けをかけることはない。
「行くぞ」
「はい!」
魔王様の斜め後ろを歩く。
魔王様に仕えることができるなんて幸せだ。
2000年も耐えたかいがある。
これからもずっとお側においてくださいね。