心霊夜話 廃墟にて
今でも、人気のある廃墟探索をヒントに、ホラー物を書いてみました。少しでも、涼んで頂ければ幸いです。
私は、怖い話が好きである。
大好きと言ってもいい。そのせいなのか、良く人から体験談を聞く機会もあり、今回、廃墟で恐ろしい体験をしたという話を伺う事ができた。
体験者は、仮にAさんとしておこう。
Aさんは、次の様に語ってくれた。
「自分は、心霊物が好きなんですけど、特に心霊ビデオが大好きなんですよ。
良くある投稿ビデオってやつね。
中には、胡散臭い物もあるけど、これは、本物じゃないかって、物もある訳ですね。
もしかしたら、自分でも、ビデオに撮れるのじゃないかと思ったんですよ。
それで、採用されれば、謝礼も貰えたりするし、それも魅力だったんですね。今、思えば、止めときゃよかったんですけど。あの時は、どうせ、心霊スポットに行っても、何も出やしないだろうと思っていたんですよ。 後でカメラに捉えられているパターンじゃないかと思っていたんですね。まあ、そういう訳で、友達(仮にBさんとしておく)を誘って、深夜に二人で、とある廃工場に行ってみる事になったんですね。
え?
廃工場の噂ですか。
閉鎖される以前に、事故で死んだ人がいたとか、その霊を見たとか、色々な噂はある様ですよ。
地元でも、有名な心霊スポットです。」
Aさんが、語ってくれた体験談を書くと次の様になる。
深夜1時頃、Aさんは、車に友人Bさんを乗せて、廃工場に向かう事にした。
Aさんの自宅から、車で20分程、走った町外れに、その廃工場はある。周辺には、家は、まばらにしかなく、周りを畑と樹木に囲まれている。
昼間に訪れても、寂しい場所である。
それを、よりにもよって、こんな夜更けにやって来た訳だ。
何が出てきても、おかしくない雰囲気である。
Aさん達は、廃工場脇の道に車を止め、ライトとビデオカメラを持って、敷地内に潜入する事にした。
敷地内には、腰の高さ程の草が茂っていたが、侵入者が多いのか、草が倒れ、踏みかためられて、道が出来ている。
その道を20m程進むと、廃工場にたどり着く。月が出ていないせいか、真っ暗闇で、ライトがなければ、その姿を見る事は、できないだろう。
当然、人の気配は全くない。
この廃工場は、想像していた程の大きさではなく、町工場といった大きさだ。 壁面には、トタン板が、はりつけられ、全体的に茶色く錆びている。
どちらかと言うと、工場というより、倉庫の様にも見える。
高さ的には、二階建ての様で、上部に採光用らしき窓がある。
なぜか、一階には、窓がない。
中に入らない限り、内部を見る事はできない。
二人は、錆びたドアの前に立った。
外れかけたトタン板が、風にあおられ、音をたてている。
「おう、おう、雰囲気出てるねえ。
こりゃ期待持てそうだな。
なあ、お前、ビビんなよ。」
「その言葉、そっくりそのまま、お前に返すよ。
霊なんか、出やしねえって。」
「とか、言いながら、我慢してるだろ。」
「してねえよ」
「じゃあ、まあ、そういう事にしておくか。
ようし、ドアをあけるぞ。」
Aさんが、ゆっくりドアノブを回す。
鍵はかかっておらず、引くと、嫌な音を立ててドアが開いた。
二人は、顔を見合せると、ゆっくりと中に入った。
プンとカビの臭いが鼻をつく。
Aさんが、カメラをかまえる。
内部をライトで照らしてみると、旋盤や作業台が、埃まみれの状態で並んでいる。
この埃の量から見て、廃業して、かなりの年月が経っている様だ。
床には、何かの書類がぶちまけられている。二人は、奥へと進んでいく。
歩くたびに埃が舞い上がってくる。
一番奥に入った時、Bさんが階段を見つけた。
「二階に上がれるみたいだ。」
「足元に気を付けろよ。
階段が、かなり錆びているぞ。」
足元をライトで照らし、二人は、恐る恐る階段をあがる。
足音が、工場内に響く。
二階に着いた。
すぐ、正面にドアがある。
「部屋があるな。
なあ、B、ドアを開けてくれ。」
Bさんが、ドアを開け、ライトで内部を照らす。
「ええっ。
なんなんだよ、これ。」
Bさんの声が響く。
Bさんが、大声を出したのも、無理もなかった。
部屋の中は、壁が真っ赤に塗られ、マネキン人形が、うず高く積み上げられていたのだ。
「なんか、ヤバイ雰囲気がする。」
「すぐに、ここを出たほうがいい。」
もう、ビデオ撮りどころでは、なくなった。
すっかり気味が悪くなった二人は、逃げる様に廃工場を出た。
廃工場の外に出ると、二人はほっとため息をついた。
「あのマネキン、何なんだろうな。」
「もしかしたら、ここ、マネキンを作る工場だったんじゃないのか。」
「じゃあ、真っ赤な壁は?」
「スプレーを使ったイタズラさ。
ここ有名だろ。
侵入した誰かが、びっくりさせる為にやったんだよ。」
「じゃあ、俺達、引っ掛かった訳か。」
Bさんが、ニヤリと笑う。
「マジでビビってたろう。」
「お前だってそうだろ。」
「確かに、あれには驚いたけど、結局、なんにもでなかったな。
まあ、予想していたけどさ。」
「さてと、帰って、ビデオをチェックしようぜ。」
二人は、廃工場前の草むらを歩き始めた。
すると、Aさんは気になった事がある様で、Bさんに、こう言った。
「あのさ。
お前・・・・。
まあ、いいや。」
「なんだよ、言いかけて。
気になるじゃねえかよ。
言えよ。」
「俺の勘違いかも知れないんだけどさ。
お前、来る時、リュックなんかしょっていたっけ。」
「俺は、そんなもん、しょってねえ・・・」
そう言いかけたBさんは、自分の肩から首元にかけて、何かがぶら下がっていることに気がついた。
それは、だらりと垂れた二本の白い手だった。
「それ、一体なんだよ。」
振り払おうと、Bさんが背を向けた時、その姿が見えた。
両足のちぎれた何かがBさんの背中にしがみついていた。
この後、Aさんは、こう語ってくれた。
「あの後、大変でしたよ。
全速力で車まで逃げました。
しがみついていたのは、どうなったかって?
車に着いた時には、消えてました。
帰りに、ファミレス寄ったんですが、二人なのに、ウェイトレスが水を三人分、持って来たりするんですよ。
一つ多いと言うと、不思議そうな顔をされてね。
気持ちが悪いですよ。
まだ、ついてきてるんじゃないかってね。
Bも精神的にすっかり、まいってしまって、部屋にこもりっぱなしです。
ビデオテープは、どうなったかって?
結局、何も映っていませんでした。」
Aさんは、私に全てを話し終えると、深いため息をつき、席を立った。
帰って行く彼の背中を見て、私は、はっとした。
彼の首が何かに締め付けられているかの様に、大きく窪んでいた。
最後までお付き合い下さいましてありがとうございます。
この話は、筆者が体験者にレポートする、やり方で話を進めて参りました。
心霊夜話の次回作を書くとしたら、この様な感じで書く予定です。
尚、この話は、フィクションです。