Dream3 怪しい宿(前半)
沙漠から抜け出し、町に入った二人。そして今日はボロイ宿に泊まるのだが・・・
その夜、俺は再び夢を見ていた。
「今度はなんの夢だろう?」
ぼやぼやとその全貌が見えてきた。場面はまた沙漠の上空だった。下を見るとラクダのテッドが荷車を引きながら歩いていた。
「おいっ!あれが町だ」
クアナの声が聞こえ、テッドが歩いていく方向を見る。沙漠の中に高層ビルなどの建物が幾つも見える。
俺は昨日のように、下に移動しようとした時、急に辺りが暗くなった。数秒後、明るくなったと思えば、場面は町に変わっていた。舗装されていない道路には荷車が行き来し、歩道を見れば色んな種類の生物が歩いていた。建物を見れば東京と変わらない高層ビルが沢山建っていた。下から見ると今にも倒れてきそうで恐い。俺は地上から3m程上にいた。すると突然荷車が優斗の目の前に迫ってきた。
「うわっ!」
俺は身を守ろうと、しゃがんだ。しかし荷車は俺の体を通り抜けていった。
「あ、そっか。これ夢だもんな」
優斗は少しホッとした。
その後も俺は町の中を散策していると、クアナともう一人の俺は周りの新しいビルとは違い、所々亀裂が入った二階建てのビジネスホテルの前に立っていた。
「今日はここで一泊すっからな」
クアナの言葉が聞こえる。
「ほぉ……ってマジかぁ」
もう一人の俺の口から小声で思わず本音が飛び出た。
「なんか言ったかあ?」
「い、いえ。何でもございません!」
それをしっかりキャッチしたクアナは瞬時にもう一人の俺に嫌悪感を持ちながら返答した。それに気付いたもう一人の俺は慌てて返す。
「でも、これは流石に……」
しかし、俺はハッキリと言った。
「ほら、行くぞ!」
クアナの後に下にいるもう一人の俺は後をついた。
「にしても今夜はこんな宿に泊まるのか……」
俺は少しガッカリした。これは逆に正夢にならないで欲しい。俺は宿内を見ようと中に入ろうとした…が
ボンッ
「イタッ。何これ、バリア?」
目の前には透明なバリアがホテル内を囲んでいた。
「こうなったら、強行突破だ!」
俺は少し後ろに下がり、一気にホテルに向けて走った。しかし…
ゴンッ
「イッテエェェェ!!!」
激しくぶつかり、俺は当たった箇所を押さえていた。
「!!」
そしてそれと同時に優斗は目を覚ました。辺りは薄明かり程度だった。クアナはまだぐっすりと寝ている。俺は起き上がり、迷子にならない程度にそこら辺を歩いた。特に何もなく、辺り一面砂が広がるだけの世界。取り敢えず砂丘を登り、ちょうど地平線から出てくる太陽を見ていた。
「うわぁ。綺麗」
その光景は素晴らしかった。太陽の光に砂が反射し、砂の一粒一粒がキラキラと輝いていた。
「いつになったら元の世界に戻れるのかなぁ……」
あまりの綺麗さに俺はたまらずに心の叫びを言ってしまった。
八時頃、俺とクアナは町を目指していた。
このまま夢の通りに行けば町に着く筈。俺は荷台の後ろで思っていた。
「おいっ!町が見えたぞ」
クアナの声を聞き、荷車の前に進むと、確かに前には高層ビルがある。
夢の通りだ。このまま行けばあのホテルに。そんな事を思いながら俺らは町へ向かった。
町に近づく程、建物が高く見える。
「おい、優斗。この町にはパスポートがいる。わりぃが荷台の下で隠れてくれ」
「な、なんで?」
「金がかかるからだ。優斗の分まで払ったら飯代がなくなる」
「あぁ、いいよ」
「床に扉がある。その下に一人分が入る空間があるからそこに入っててくれ」
優斗は後ろの床で扉を探してると小さい取っ手があった。扉を開け、下を覗くと一人分入る空間があった。俺はそこへ入った。痩せ型な為、なんとか入った。荷車は刻々と門に近づく。
「イウカタウン入り口専用門です。この町に入る為にはパスポートが必要です」
門の端にいる警備官の一匹が言った。
「あ!」
「どうしました?」
「いやいや、くだらない事を思い出しただけ。はい」
クアナはパスポートを見せた。
「パスポート確認しました。どうぞ」
警備官は離れ、俺達を乗せた馬車は町へ入った。
「もういいぞ」
クアナの声に俺は再び空間から抜け出し、上へ上がった。
「あ゛ぁー、キツかった」
「何だ?そんなに狭かったか。あそこ」
「狭い狭い。板が外れるかと思った」
「それは悪かった。アハハハ」
クアナはおかしそうに笑い出した。
「何がおかしいの?」
「いやいや、パスポート見せる時に、良く思ったら隠れる必要無かった事を思い出しちゃってさ」
もうちょっと早く思い出せよ!優斗はつっこんだ。
「アハハハ、悪い悪い」
クアナはツボにはまったのか暫く笑い続けていた。
テッドはコインパーキングならぬペットパーキングに預けた。そして町の中で、クアナと俺はイウカ市場で買い物をしていた。
市場には八百屋やアクセサリー店、更には温泉など、多くの店が300m程続いていた。人込みが凄く、年始のバーゲン位な程いた。
ぎゅうぎゅうな中、クアナはどんどん進む。
「ちょ…っと待ってえぇぇ」
俺も迷子にならないよう避けながら進んだ。するとクアナはとある缶詰店で止まった。
「いらっしゃい!」
「あ!これいつもよりも安いじゃん!」
缶詰って言うのはそう…あのまっずい缶詰の事。
「今日は特売日だよお姉ちゃん。いつもより20%OFFだよ」
「これ10個くれ。幾ら?」
「570エントだよ」
「じゃあ1000エントで」
「はいよ、430エントのお釣りだよ。まいどあり!」
クアナは嬉しそうな顔をしていた。俺にとっちゃあアレは地獄なんだけどなぁ…
買い物を済まし、俺達は例のホテルに着いた。あれほど祈ってたのに正夢となってしまうなんて。中に入ると、凄い年季を感じた。まず内壁に亀裂、そして灯りがまさかの豆電球。余計ボロさが伝わってくる。
「いらっしゃいませ」
和服を着た雌ワニがご丁寧に迎えてくれた。にしても牙が凄い、変なこと言ったら噛まれて死にそうだ。俺は唾をゴクッと飲み込んだ。
本当にこんなところに泊まれるのだろうか……
俺は少々不安になった。
「さぁ、どうぞこちらへ」
雌ワニの後について行き、階段を上がって直の部屋に入った。およそ十帖程の部屋で灯りは昭和風の四角で囲まれた中に二重の円型の電球が点いていた。奥を見ると建物が見事に景色を邪魔していた。まぁんな事はどうでもいっか。
「では、ごゆっくり」
雌ワニは牙を見せながら戸をゆっくり閉めた。
「今日はここで一泊だ。ボロイが我慢しろよ」
「べ、別にいいよ。沙漠で寝るよりはマシだから」
「そうか。じゃあ七時になったら一階の食堂に行け。そこでご飯だから。まだ時間はあるし、ゆっくりしておれ。俺は先に風呂に入ってくるから留守頼む」
クアナはそう言うと、立ち上がった。
「オッケー。じゃあごゆっくり~」
クアナは部屋を出た。そして俺は一人になった。
一方、クアナは女風呂の戸を開けて入った。その十秒後、雌ワニが何やら女風呂の戸に「準備中」の文字が書かれた看板を立てた。そして雌ワニは隣の部屋に入った。部屋の中は浴場内のカメラから映し出された映像だった。
「来たなクアナ。さぁおまえの大好きなサウナルームにお入り」
雌ワニはニヤニヤとその瞬間を待っていた。そんな事を知らず、クアナは大浴場に入り、お湯で体を流してから浴槽に浸かった。
「ああ…やっぱ一週間振りの風呂は気持ち良いぜぇ」
誰もいない為、足を伸ばし、肩まで沈んだ。あまりの気持ちよさに数十分間微動だにせず浸かっていた。
「おっ、サウナあるじゃん!」
入り口付近にあったサウナルームにクアナは入った。それを雌ワニは監視カメラで映し出せれた映像で確認した。
「よし、睡眠剤投入!」
ポチッ
モニター前にある緑のボタンを押す。
プシュー
サウナ内に噴煙が噴出された。
「うわっ、なんだこれは!ゲホッ、ゲホッ」
呼吸困難になりそうなくらい、サウナルームは一面真っ白になった。そして吸い込んでしまったクアナは数秒後倒れてしまった。
「よしっ!」
その様子を見た雌ワニは拳を握った。
「館員に連絡、館員に連絡。直ちに集合せよ」
マイクを使い、館内放送で知らせる。館員達は作業を途中で中止し、雌ワニのいる部屋の前に集まった。それは優斗にも聞こえていた。
「何だろう?何かあったのかな」
心配になった優斗は部屋を出ようとしたが、その直後に放送が流れた。
「お客様にご連絡します。ただいまの放送は館員連絡です。決して心配する事ではございませんので、どうぞごゆっくり寛ぎくださいませ」
雌ワニの声が聞こえた。
「なぁんだ、心配する事じゃないんならいいや」
俺は部屋に戻った。
一方風呂ではクアナを運ぶ作業に取り掛かっていた。タオルで全身を巻き、キツク紐で縛り、厨房の方へ運んでいった。厨房の奥の部屋に閉じ込められたクアナは睡眠剤の効果でまだ眠っていた。
カチッ
クアナが入った部屋は鍵でかけられた。
「へ、へ、へ、捕まえたぞ。クアナァ」
雌ワニは微笑みながら呟いた。