9、ザンジバルをゲットしようぜ!
美術館に着くと、僕は一番見たかった昔の服のファッションに視点を置いた企画展に入った。
説明文読んでると、横でザンジバルが大あくびするので気が散る。
「何が面白いんだよ、こんなの。」
「だから、外で待ってていいって言ったじゃん。」
「絵だろ? たかがさ。」
「絵だよ、その時代の服が緻密に書いてあるんだ。
この時代ってリアルでいいよね。
ほら、この上着、同じ色の糸で刺繍して、立体感のある飾りがされてるんだ。
同じ色だよ? ぱっと見わかんない。
無駄に見える、これが上流社会のオシャレなんだ。
何でこんなの考えたんだろうね。
この時代、考えてみなよ、全部手仕事なんだよ?
そう言う100年か200年前の職人さんの仕事を、その時代の絵を書く職人が書いて、そして僕らがそれを見られるんだ。
その時代のダブル職人の息吹がさ、絵から感じられるんだよ。」
「ジジ臭えなあ。お前、高2なら16か17だろ? 」
キョンとする。
そうだよなあ、普通なら17かあ~
「まあさ、僕だって、前はこんなに服に興味なかったんだ。
ただ、可愛い服が欲しかっただけ。
でもね、服にも歴史があるんだよ。
日本人が昔、十二単着てたみたいにさ。
僕は、女の子の服を見るうちに、服の歴史に興味持ったんだ。」
「ふうん…… 」
ザンジバルが僕の横顔見てる。
あんなに嫌ってたのに、お姉さんの化粧の魔法は凄い。
僕は魔法が解ける前に、ザンジバルを下僕にしなきゃならない。
チラリと流し目送って、アルカイックスマイルで妖艶さを演出する。
ザンジバルが、思わず見つめて、慌てて目をそらした。
「じゃ、じゃあ、大学そっち系? 」
「んー、僕が習いたい先生がさ、女子大なの。
だから、無理かなーって。」
「そりゃあ無理だな、女子大に男が入ったなんて、このジェンダーレスな時代でも聞いたことねえや。」
ムウッと来た。
僕だってさっ! 諦めきれないのにっ!
ドスンッ
思い切り肘で突く。
「いてえっ! 」
ほんとデリカシーの無い男!
嫌になっちゃうよ。
僕はそぞろ歩いて気になった絵で立ち止まると説明を見る。
そうしていると、ザンジバルがスマホを差し出した。
「ほら、音声案内やってるよ。イヤホンは? 」
「へえ、持ってないね、借りられるかな? 」
「俺ので、よければ…… 嫌なら借りてくるよ。」
「 貸して 」
ボディバッグからケース取り出して、ゴシゴシシャツで拭いて差し出す。
へえ、綺麗だとこんなの貸してくれるんだ。
お化粧の威力すげえ。
「ありがとう、雅史さん。」
「い、いや、」
ニッコリ受け取ると、ボッと赤くなった。
イヤホンに、チュッとキスする。ボッと赤くなるだけで嫌がらない。
くくくく……
ヤリいっ! ザンジバルのハートゲットだぜ!!
やっと第一関門突破じゃん!
こいつを進化させるの大変そうだけど、ゲット出来たのは大きい。
だって、ATMと車装備してるもん。
金と足って最強じゃん!
まあ、今のところ、ハートはおまけかな?
企画展見た後、時計見てザンジバルが舌打ちした。
「お花見たいって言ったけど、こりゃ無理だな。諦めろ。
明るいうちに帰らないと、お父さんが心配するだろ。」
「え~~、じゃあさ…… 」
階段下りてホールを歩きながらクルリとザンジバルを向いた。
唇に指を当て、肩をすぼめておねだりポーズ。
「ごはん、いこっ。」
「まだ早い。帰ってたら家につく方が早いだろ。」
「じゃあ、お茶しようよ、お茶ー 」
「お前は食うことしかないのか。」
「だって、そのくらいしか浮かばないじゃん? 」
ザンジバルがさっさと前を歩き出す。
僕はつまんなくて、その場でポツンと突っ立って、あとを追わなかった。
ドライブに来て、美術館で終わりって、それデートになんないじゃん。
なんか励めよザンジバルぅ~
「あーー、もう! なんで来ないんだ! 」
ザンジバルが振り向くと、ツカツカ引き戻して僕の手首を握った。
ぐいぐい引いて、美術館を出る。
僕は、握られた手を見て、なんだか嬉しかった。
手首だけど、力強くて温かい。
男の人の手って、ほんとゴツい。
まあ、僕も男だけど、クリーム塗ってマッサージしてる。
ああ、ちゃんと手を繋ぎたいな。
ほら、普通のデートみたいにさ。
いや、でもここで手を離すと、きっともう繋いで貰えない。
意識が離れたとき、サッと手を返さなきゃ。
引かれながら、僕はその手に集中する。
早くしないと、駐車場に着いちゃう。
美術館と駐車場の間の道にある横断歩道でじっと待つ。
だーれも通らないのに、赤でちゃんと待ってるザンジバルは偉い。
「ふぁーーあ~ぁ」
あくびしたその時、フッと手がゆるんだ。




