6、ザンジバルは最低男
「ねえ、待ってってば! 」
無言で先を行くザンジバルは大股歩きで、すんごい早い。
僕は普段履かない厚底靴なので、ちょっと歩きにくいのにさ。
近所のコインパーキングに、真っ赤のコンパクトカーが停まっている。
ザンジバルはその車に行くと、ボタンを押してカギを開けた。
僕は早速助手席に回る。
「お前は後ろだ、馬鹿野郎。」
「えー、なんで? 後ろじゃ話すとき声が聞こえにくいもん。」
「俺はお前となんっっっにも喋ることはねえよ。黙って後ろで寝ろ。
それがイヤなら美術館は却下だ。」
仕方ないなあ。
吉田のせいで、すっかり機嫌が悪くなっちゃったよ。吉田め~
一歩下がって後ろの席に乗った。
助手席は空っぽで、寂しくないのかな?
僕は助手席のシートに抱きつくと、ザンジバルに話しかけた。
「ねえねえ、途中どこかに寄る? 」
「うるせえ、黙ってシートベルトだ。前に乗り出すな、くっさい臭いが移る。」
「前の席空いてるのに、ねえねえ。」
シートベルトすると、車はバックして駐車場を出ると走り出す。
すると、エアコン付いてるのにザンジバルが窓を開けた。
ゴウゴウ風が巻いて綺麗にセットしたのに髪がもじゃもじゃになっちゃう。
「風! 風すごい、窓閉めてよ。ねえ、風! 」
「うるせえな、俺の車が臭くなるんだよ。」
「最悪だよ、せっかくパパりんにセットして貰ったのに。」
「へえ、あの人そんなことするんだ。」
車はスピードを上げて、ゴウゴウ外の風が吹き荒れる。
僕は髪を押さえてシートベルトでシートに縛り付けられ、ただただ到着を待つしかなかった。
久しぶりのドライブ、楽しみにしてたのに。
以前パパりんは車持っていたから、よく夢の国とかお花を見に行ったっけ。
でもママが出て行ったあと、僕を連れてどこにも行かなくなってしまった。
やたら引っ越ししてたから友達も少ないし、夢の国もそれっきり行ってない。
そんなパパりんは土日祝日、朝ご飯食べたら出かけて夜まで帰らない。
どこにも連れてってくれない。
僕の人生、暇がありすぎる。
まあ本当はわかってる。
僕と2人でなんて、どこにも行きたくないって。
甘やかしてるけど実状は放置で、子供なんて面倒なんだ。
ご飯さえやってれば、人目も気にならない。
そのくせGPSとか、束縛はしたがる。
会社の旅行も家族オッケーなのに、一度も連れてってくれない。
きっと人に僕を見せたくないんだと思う。
僕はだから、半分嫌がらせで女装するようになった。
ケバい化粧するようになった。
余計嫌われるのわかってる。
みんな同じ、僕のことは恥ずかしいと思ってる。
女装する男なんて、きっとキモい。
行く所がないから、爺ちゃん婆ちゃんとこに1人でたまに電車で行くけど。
爺ちゃんは、学生服で来いって言うから、ケバケバに化粧していった。
婆ちゃんしか普通に喋ってくれない、ケチ。
そんなこんなで家族でどこか行くこともなくなり、結局車は手放してしまった。
僕にとって車は楽しい思い出ばかりで楽しみだったけど、今の状況最悪だ。
しつこく窓閉めてって言ってるのに、半分しか上げてくれない。
後部座席はぬるい風がゴウゴウ吹き荒れて、自分はクーラーにあたってる。
マジでこれ、嫌がらせだ。
しばらく走って市内を出ると、カフェのドライブスルーに入った。
「コールドのコーヒー、Mサイズ。
お前何がいい? 」
振り返りもせずに問いかける。
風に吹かれて僕の口はガビガビだ。
乾燥して顔にはきっとバリバリにヒビが入ってる。
「 いらない 」
「遠慮するな、ソーダピーチのMで。おごってやるから飲めよ。」
車は前に進んで金を払う。
珍しく年配の女性が対応して、声を潜めた。
「彼女、泣かせちゃ駄目よ。」
「 えっ! 」
驚いて、ザンジバルが振り向く。
僕は乱れてボサボサの髪で、ポロポロ涙流してただただ泣いていた。
泣くしかないじゃん。
最悪のデートじゃん。
1時間かけてヘアアイロンで、くるりんくるりんしてきたのに。
爆発ヘアーのインモーみたいな頭で、カチューシャは外れて髪飾りも吹っ飛んじゃうし、オシャレも何も無いっての。
「な、なんで泣いてんだよ! 」
「くすん、くすん、ザンジバルが最低男だから。」
嫌がらせが過ぎたって、ようやくわかったのか、頭抱えて前を向く。
コーヒーとソーダ受け取り、ソーダを僕に差し出してきた。
「悪かったよ。やり過ぎた。」
「うっ、うっ、もう帰りたい。」
「なんで? 悪かったって言ってるだろ? 」
「こんな頭で恥ずかしいもん。」
車出して、時々バックミラーで僕を見る。
そしてなぜか道を戻ってしまった。
ああ、美術館中止かなー と思っていたら、横道に入っていく。
細い道何度か曲がって、小さな美容室の前で止まった。




