5、でえと、開始!
「この野郎、うちの息子をケバいだのキモいだのって言いやがったな?
どこのどいつだ! 」
カーンッ!
お玉でフライパン鳴らして、パパりんがドスドスやって来た。
「帰れ! 」
お玉をぶんっと振り下ろす。
ザンジバルさんは、腕組んでドアに寄りかかり、はんっと馬鹿にして毒づいた。
「キモいからキモいって言っただけで、あんたの教育方針が…… 」
「「 あーーーーっ! 」」
2人が指さし合って時間が止まった。
「四季島さん、なんであなたがそこにいるんですか? 」
「ここは私の家ですので。どうしてうちの息子と知り合いで?
え? 課長、付き合ってるんですか? 」
「冗談じゃ無い、こっちは絡まれて迷惑してるんですよ、いや、
ちょっと忘れ物を息子さんに預かってもらってるんで。」
「忘れ物? 」
パパりんが僕を見るので、玄関に置いてたバッグを見せる。
「これ! もらったの! 指輪も! 」
「だっ! 誰がお前にやるか! 」
「えー、可愛いじゃん、バッグ、ちっちゃくて。」
「返せ! あーーーっ! なんで中に物入れてんだよ! 」
「だって、お出かけだし、丁度いいって思って。」
「この野郎! これ30万のブランド物だぞ!
誰がクソガキにやるか、中全部捨てろ! 」
「でもさー、すでにフラれたんだし。…… ああ、次の彼女に使い回すの? 」
「ぐっ…… 」
あー言葉に詰まった。ってー事は、使い回しか! ショボッ!
「まーちゃん、バックは返しなさい。」
「えー、可愛いのに~ 」
「ほら、おっきなリボンのピンクラメのバック、あれフリル付いて可愛いじゃない。」
「でもぉ、こっちが落ち着いてて、このワンピースに合うんだもん。」
もじもじしてると、ザンジバルが絶句してた。
「ぴ、ピンクラメ、でっかいリボン……
頼む、これ以上、俺の男に対する価値観を破壊しないでくれ。
そのバック、やるから。」
「えっ?! 」
「やるから! 行くぞ! 」
「やったーーっ!! 」
「では四季島さん、息子さんをお借りしますよ。帰りは3時頃で。」
「うっそ! 帰りは6時頃ね! 」
「馬鹿野郎! 行ったらとんぼ返りだ! 」
「勉強って言ったじゃん、じっくり見る時間考えてよ。
じゃ、パパりん、晩ご飯ごちそうになってくるから! 」
「誰がごちそうするか! 」
「ホテルに泊まってもいいよ。勝負下着着てきたから! えへ! 」
ニッコリ、ピンクベージュのロリータ靴履いて、ピョンとザンジバルの腕に飛びついた。
カンカンカンカンカン!!
あーー、フライパンうっさーーい!
「ホ、ホ、ホ、ホテル?? まだ早い!
パパりん、それは許しませんよ! 」
「誰がホモだって?! 直で帰る!
四季島さん! 会社で変なこと言いふらしたら評価落としますからね! 」
「なにい! プライベートを会社に持ち込むな! 若造が! 」
「若造って、あなた36でしょう? 何言ってんですか。」
「まだ35だ! お誕生日が来てませんので! 」
あーーー、今度はパパりんとザンジバルがケンカ始めた。
僕のためにケンカするとか、それ、僕は望まないし。
「行ってきまーす! 」
にらみ合うザンジバルをグイッと引っ張って、ドアをバタンと閉めた。
ザンジバルと腕組んで歩いてると、サッと腕を引き抜かれる。
隣の隣のおばちゃんが僕を見て、一瞬怪訝な顔で、次にニッコリすると、わざとらしくアラッと声を上げた。
「まあ! 今日も可愛いわね、デート? 」
「そ! これ彼氏! 」
「違います! 」
「ほ、ほ、ほ、」おばちゃん、引きつってるぞ。
「行ってきまーす! 」
元気に手を振り通り過ぎる。
ザンジバルが苦い顔で牙むいた。
「お前! 2度と彼氏って言うな!
いいか、もう一度言ったら行かないからな! 」
「あのおばさん、どうせ僕のことしか見て無いし。
変態クソガキ、死ねってしか思ってないから大丈夫だよ。」
「ふうん…… 随分冷めた奴だな。」
「そ、だから友達なんかいないの。いこっ」
「あ? あーーー、、 」
グイと引かれて、散歩嫌がる犬みたいにピタリと足を止める。
「そっか、バッグお前にやったら無理に行かなくていいんだ。」
あっ、しまった気がついちゃったか。
でもなー、僕気合い入れてオシャレしたのに。
ここまで来て中断はないだろ。
「え~~、行こうよ。男に二言はないんでしょ? 」
「だいたいな! なんでこんなバケモンみたいな男と美術館なんか行かなきゃなんねえんだよ、面白くも無い。せめて化粧落とせ。」
「そんなこと言わないでさ。楽しいよ、きっと。行こうよ。
ほら、ほらほら! 僕いい香りでしょう?
アルバイトして買った香水付けてきたんだよ! とっておきの。
今日が初下ろしなんだ。思った通りの香りだ、うふふ! 」
優しい柑橘系の爽やかな香りで気持ちが高揚する。
ちょっと高かったけど、やっぱり買ってて良かった。
初デートはこれって決めてたんだもん。
「どーりで臭いと思った。
こんなの女が付けるんだろ、なんでお前が付けるんだよ。」
「えー、いいじゃん、爽やかで気持ちいいもん。」
「クソが。」
ザンジバルが、ちょっと嫌な顔してまた歩き出す。
ホッとして、あとを付いていった。
「あれ? 高瀬、高瀬じゃないか! 久しぶりだなあ、娘さん? 」
呼び止められて、ザンジバルが僕から離れた。
引きつった顔で振り向き、ニイッと笑う。
「や、やあ、吉田か、久しぶり。元気にしてた? 」
「あ、ああ、結婚まだだったっけ? 誰? 」
なんだか吉田は僕をジロジロ見てくる。
頭のてっぺんから足の先見て、プッと吹き出した。
「なんだ、女の子と思った。男? いや、どっちだ? 」
「知り合いの子なんだ、ちょっと約束して…… 」
「ひでえ、まさか付き合ってんの? ケバい、趣味悪ぃ!
しかも男かよ! ホモか! 」
笑う吉田に僕はとってもムッとして、なんか言い返そうかと思ったんだけど、ザンジバルがひどく狼狽えてるのもガッカリする。
なんかさー、言い返してよザンジバルぅ
「お前相変わらず口悪いな。
違うよ、知り合いの息子さん。
ただ、美術館行きたいって言うから連れてってあげるだけだよ。早とちりすんな。」
吉田はヒヒッと意地悪く笑って、冗談冗談とうそぶく。
マジ気に食わない。
そう言うとこだぞ、吉田ぁ! お前いじめっ子だったろう!
僕はニッコリして、ぺこりとお辞儀した。
「吉田さんって言うんだー、はじめましてマリルーでっす! 」
チュッと指にキスして飛ばしながらウインクする。
微妙な顔で、一瞬視線が泳いだ。
「まあ、確かに可愛いけど、変わった子だな。」
「やだあ、僕普通ですよ~
ちゃんと勉強したいから連れてってってお願いしたんですぅ 」
ピョンとザンジバルに寄り添うと、マジで嫌な顔して見下された。
やだなあ、ちょっとは嬉しそうな顔してよ。
「行くぞ、遅くなる。」
サッと先に行っちゃって、僕は吉田に手を振ると慌ててついていった。




