4.特別手当
そんな医官殿の助言もあり、私は「女」であることの努力をしないと! と少し反省した。
結に頼み、少し「女」を意識した髪型にしてもらう。髪をアップに結って貰い。少し甘めの香水を少しだけ振る。
そして先日届いた紫水晶とダイヤモンドの小さめの耳飾をつける。
実は、殿下に内緒で耳たぶに小さな穴を開けたのだ。
ピアスホールを開けてしまった。医官殿にお願いして先程開けたのだ。暫くは消毒は必要だが、それは仕方ない。
怒られるか心配で、一応ご機嫌取りを兼ねて今日は弁当を作っていた。
さて、鬼が出るか蛇が出るか? 出陣の時間だ。
衣は薄紅色の絽を選んだ。ただし、それは袴を履かずワンピーススタイル。チマチョゴリに似たデザインのものにした。夏場はこのスタイルで過ごす者のいる。
まぁ高貴な女性はその上に打掛を羽織るのですが……
敢えて私は「女」を強調する為に、薄い絹地を使った短めのショールにした。
所謂オーガンジーのショールだ。
「参りましょうか」
結と共に出勤する。
高貴な女性が髪を上げることは殆どない。禁忌とはされていないが、黒髪長髪が美女のそれ。とされている風習がある。平安時代じゃあるまいし!
現代の主流、ゆる編みなどとんでもない世界であった。香油ベタベタで一本も乱れないガチガチの結髪。 相撲取りではないのだから……
結に編み込みをしてもらい、私は敢えて解させた。髪飾りは殿下に最初に頂いた。あの鳳凰の簪を。
さて? どう出ますか? 光の君?
「ちょ、あ、あれ」
「御方さま??」
「え? 別人?? 誰?」
「いや、御方様以外に……誰がいると言うのだ?」
「で、でも……」
「あんなに綺麗だったか? いや、綺麗だとは思ってたが??」
うん。掴みはまぁまあね。ただ問題はあの御方。
「ご苦労様です」
「え?」
「御方様?」
「え?」
「ええええええええええええ?」
執務室の前の秘書達に挨拶をする。
──トントントン
「凛花です」
「入れ」
殿下のだった。
あ、定例会議がまだ終わっていないのかしら?
──ガチャリ
「遅くなりました」
「ああ、無理しなくて良い、って!! おい!!」
「駄目かしらぁ? 似合いません? わたくしには?」
私は敢えて、彼に流し目気味に問う。
「どういう風の吹き回しだ?」
戸惑いの顔を見せるが、嫌そうな雰囲気は感じない。
「お嫌いですか?」
少し意地悪な顔で殿下にたずねる。
「そんなわけないだろ? でもあまりその格好で外を歩くのは控えて欲しいけどな」
殿下が私の手を取る。
「何があったのだ?」
「殿下にもっと私を好きになって貰いたくて?」
「そんなことをされたら、仕事にならんではないか?」
「あ、お弁当を用意して参りましたの。ご一緒にと思って」
そう言って私は殿下の腕から、すっと逃げる。
医官殿の教えだ。常に従順過ぎても駄目。だからと言って弄ぶのはもってのほか。
その加減が上手い女になれ。と。
「おいおい。本当にどうした? 何か頼みごとか? 今度はいったい何だ?」
「ひどーーい!! 少しでも私をもっと好きになって貰う努力しようと思ったのにぃ」
斜め45度から見上げてみる。
殿下はこの視線に弱かったのだ。
「すまんすまん。あまりにも可愛いから。ってその耳?」
気づいたか。怒るかな?
「駄目でしたか? 駄目なら塞ぐことも可能なんですが……」
「いや……痛みはないのか?」
そう言って殿下が耳たぶを触る。
「大丈夫です。ってお止め下さいね? 職場ではしない約束ですからね?」
「ん? しないって何を?」
やばい……忘れていたわ。この方のペースにはまるところだったわ。
「……ねぇ? 貴方? 今日は早く帰って来て下さいますか?」
私は彼の頬に手をあてて、耳元で囁いた。
「まったくもう。どこでそんな手技を覚えてきたのやら。おおよそあの医官だろう?」
バレてる……
「ごめんなさい……」
「阿呆、そんなことしなくても、お前しか抱かないと言ったろ?」
「……そうではなくてですねぇ」
「あ?」
少し殿下が怪訝な顔をした。
「だって……私だって殿下に……」
「は??」
「いいから今日は早く帰って来て下さい!!」
「プッハハハハッ。やっぱりお前は、お前だわ! 最高の女よの!」
殿下が久々に大笑いしている。
「んもう!! 笑い事では御座いません!!」
「これでも一生懸命色々と!」
「そう言うところよ、俺がお前に惚れたのは」
殿下はまだケラケラ笑っていた。しかも机に座っていた。
「どう言うところですか!」
ってこの会話前もしなかったかしら?
「だからそこだよそこ」
「今日こそちゃんと教えて貰いますからね!」
「で、このまままた犯されたいと?」
「殿下!!」
「まぁまぁ、怒るなって。良いんだって。お前の良さ俺が一番分かってるし、変な小細工など要らんのだって」
「じゃあ、こう言うのは嫌いなんですか?」
私は殿下に顔を近づけて聞く。
「仕事中はな。じゃないとこっちの身が持たんわ。これで抱いたら、約束が違う! って責められるんだぞ? 無茶苦茶だろ?」
「……」
最もな意見であった。挑発だけして、我慢しろと私は十九の青年に言っているのだ。
「なら、夜にいっぱい愛してくださいますか?」
私は彼の耳元で小さな声で囁いた。
「ちょ、り、凛花……」
ん?
どうかなさいましたか?
──あの女! 俺がどれだけ我慢していると思ってるんだ!
最近少し疲れ気味なのかと思い、夜も抑えているのに、それを抜け抜けと。
変な挑発を覚えて来たと思ったら無邪気に誘いやがる。
どれだけ俺を縛り、魅了すれば気が済むのか──
「今夜は寝れると思うなよ?」
殿下が耳元で妖しく囁く。
「はい」
◇
「ちょ、凛花……」
「たまには?」
「知らんぞ? どうなっても」
「御心のままに」
「り、凛花……やめ、ろ」
「やめろ」
「お、おい」
「待て待て、無理」
「は、離れろっ」
「っり」
「……」
「妻の努めですから」
「お前のせいだぞ?」
「……」
「寝れると思うなよ?」
◇
「あ、寝てろ。今日はゆっくりしてろ」
「……」
「謝らんぞ」
「……行ってらっしゃいませ」
やっぱり化け物だわ……
──医官殿に特別手当出すかなあ?
妻と旦那の想いはそれぞれ複雑だった。




