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はじまりの刻 ~堅物姫と麗し皇子の秘め事の始まり〜甘美な世界でイケメン皇子に溺愛される〜美しの君は実はドS皇子でした〜  作者: 蒼良美月
第七章 はじまりの刻編

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22.三人集まれば

 ──「半年で、元は取れるのだな?」

「金利を付けてお返しします!」

「良かろう。救われたな? 末子に」

 そう言って脳筋二人の顔を見た後、筆を殿下が取った。

 貸付け金利半年間下げる案と、競売物件の払い下げ許可に署名をいれた。


 そしてもう一枚。特別予算として民の夏の恩賜として八月、九月の税を二ヶ月免除を新たに書いた勅を作成した。

 その代わり、民にも協力を求めろと言う無言の命令だった。


 夏場の工事には民にも負担が多く、民にも色々な差し入れが出される。庶民では普段口にすることが出来ない高価な西瓜などを楽しみに参加する者も毎年いるぐらいだった。


「今日中に発布せよ」

「御意」

 支宣は書状を受け取りそのまま部屋を急ぎ退出した。


 天皇の御言葉である勅を素手で手に取り直ぐに消えた男に、父は一瞬ギョッとした顔を見せたが、目の前の主がそういう人だと言うことを改めて思い知ったのだった。


「しかし、問題はあれよのぅ。どうしたものかのう……」

『……』


 そう、当の張本人である裕進のことだ。

 元々は彼の認識不足、勉強不足、確認不足が招いた今回の事件だ。

 ただ、彼は任命されてまだ一月(ひとつき)と少々。


 慣れない武官達の修練に毎日早朝から付き合い、若い武官の育成を率先してやり、修練の計画も大幅に改善したりと、目の前の「武官達の統率」に一生懸命取り組んでいた。


 元々、真面目で勤勉な文官の出。軍の育成は「修練」や「戦術」の向上だけが仕事ではないが、全く初めての重責、全てを完璧にこなせと言うには無理がある。


 だから、殿下も頭を抱えていた。


「任命したのは余であるしなぁ……」


 珍しく殿下が困った顔をしていた。

 一生懸命頑張っている者に対して、殿下は基本熱心に指導し、待つ。

 やる気のある者がミスをしたからと言って、いきなり怒ることはないのではあるが。


「わたくしから、裕進には話しをさせて頂いても?」

 惟光が願いでる。


 本来なら彼の引き継ぎ不足もある。前任の者が話すのが筋であった。


 殿下は知っていたから悩んでいた。脳筋を育てるなら友である此奴に任せておけば良い。

 だが、裕進にはただの脳筋だけに終わらせたくない思いがあったからだ。


「仕方ないのう……うちの跳ねっ返りに今回は頼むかのう」


 自分が話すことは問題ないが、流石にそれでは彼は萎縮してしまう。平服して自分の思いすらろくに話せないことは目に見えていた。

 自分に真っ向から意見してくる奴など、妻である凛花か、生意気な左大臣家の末息子ぐらいしかいないことは分かっていたからだ。


「難儀な奴じゃのう、しかし」


『申し訳御座いませんでした!!』

 雁首揃えて左大臣家二人の脳筋が平服した。


「惟光、凛花を呼んで来い。と、一緒に裕進と信を。後、凛花に結と一緒に来るように伝えろ」


「御意」




 ◇




 ──トントントン

「凛花です」


「入れ」


 結が入り口付近で控えているので、殿下に視線を向けた。

 頷いた殿下を見て、結を入室させた。信も後に続いた。

 最後に彼らの兄である裕進様が続く。


 この面子が御前に呼ばれることは稀な為、皆、少し落ち着かない様子だ。


「今回の件についてだが、()()()()殿()()より裕進に助言を申すことを許す」

 なるほどね。そうきましたか。皇太子妃として、彼に必要なことを言えと言うことですね。


 私は先ず、今回の事のあらましを裕進様と結、信に告げた。


「そんな……大変皆様に……申し訳御座いませんでした!!」

 裕進様は青ざめ、震えながら床に俯せた。

「この度は、兄裕進により多大なご迷惑をお掛けして大変申し訳御座いませんでした」

 結が殿下に平服した。

「大変申し訳御座いませんでした」

 臣下である信は片膝を付き、臣下の礼を取る。


「面を上げなさい。謝罪をさすために御前に呼んだのではありません」

 私は三兄妹に事務的に言う。

 結が一番に立ち上がり私の顔を真っ直ぐに見た。それに続いて兄弟も立つ。


「先ず今回の件には、前任の者にも落ち度はあります。ただその反省は個々でしなさい。御前ですることに何ら意味を持ちません」


 一瞬殿下が私の顔をじっと見た。


「裕進、貴方の落ち度はそこではありません。分からないことがあれば教えを請い、協力を求め、迅速に対応することが貴方に与えられた仕事です。「右大臣中将中尉」とは、軍の総司令官では御座いません。それなら役職は「右大臣中尉」で良いです。この違いの意味はわかりますね?」


 私は裕進様の顔を真っ直ぐに見る。

 彼は勤勉人だ。きっとこの意味は理解できるはず。


「わたくし達は仲間なのですよ? 裕進殿。その為に私もおりますし。それに貴方にはこんなにも優秀な妹と弟が居るではありませんか? 人間、得手不得手が御座います。それを補いあうのが仲間ですよ?」


 私はそう言って、結と信の背中を押し、臣下の礼を取ったままの裕進様の前に立たす。


「信は算術が非常に得意ですし、緻密な計画書も的確に作る能力に長けています。結はとても皆の信頼が厚く、そして行動力が早い。そして貴方はとても勤勉で何事にも一生懸命取り組める」


 そう言って私は三人の背中を撫でる。


「一人なら難しくとも、三人集まれば互いの足りない所を支え合えますよ?」

 ちょっと例の有名な言葉をお借りしてしまったが、まあよしとしよう。


「兄様、御方様の仰る通りで御座います! 頼りない我々ですが、もう童の頃と同じではないのですよ? 困った時はお互いではありませぬか?」

 結が項垂れる兄の背を撫でた。無言ではあるが信も側で兄を気遣う。


「為時殿、裕進の育成を命じます」


「しかと承りました」





 ◇




 次の日、左大臣家より大量の「酒」と「菓子折」が皆に「差し入れ」として振る舞われた。

「手間を取らせたな」

「いいえ。そのようなことは、私達は皆、仲間ではございませんか?」

 私は殿下の腕の中で彼に答えた。



「惟光様へは?」

「減俸六ヶ月かな」

 本人のミスではなく、後任者のミスの処罰にしては結構重い処罰だった。

「為時様も?」

「同じだ」


「飛び地に飛ばされなかっただけでも有り難く思え」

 殿下は少し笑いながら言った。

 これは裕進様への無言の殿下からのメッセージだった。

 二度目はないぞ。との。



 翌日、政務室廊下の大きな掲示板に、でかでかと二人の処分が掲示された。

 それは見せしめのようにも見えるが、殿下の彼らへの期待度からだ。

 きっと彼らならその期待に答えてくれるはずだ。


 私は彼の机に無言で大福を二個置いた。

 今回のことで一番心を痛めたのは裕進様や左大臣家の者ではなく、彼だったからだ。


 怒る難しさと育てる難しさ、その両方を彼は一身に背負っている。

 そんな彼の苦悩を私は少しでもサポートできればと思う。



「ん? 気前が良いな?」

「疲れた時は甘い物で御座いましょう?」

 そう言って私は茶を淹れる。


「有り難う」

 そう言って私の顔を見た彼の瞳は今日もキラキラと輝く、そして晴れ晴れしい笑顔だった。




第七章(完)

今回で第七章(完)になります。次回からはいよいよ即位に向けてになります。

ここまでお読みになった時点でも構いませんので、広告下にある✩✩✩✩✩から作品へ評価を頂けると、執筆へのモチベーション維持に繋がります。また、次回が気になると少しでも思われたらブックマークも是非お願いします。









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