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はじまりの刻 ~堅物姫と麗し皇子の秘め事の始まり〜甘美な世界でイケメン皇子に溺愛される〜美しの君は実はドS皇子でした〜  作者: 蒼良美月
第七章 はじまりの刻編

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21.夏の嵐(2)

「跳ねっ返りが、座れ」

 殿下が短く吐き捨てた。


 殿下だって分かっていた。今、一番何をするべきかは。

 でも、上に立つ者としての役目はちゃんと筋を通さないといけない。

 その筋を私は、勝手にねじ曲げたのだ。


「困ったお嬢ちゃんだな。全く」

「申し訳御座いませんでした。如何なる処分も受ける覚悟は出来ております」

 座れと言われたが、私は再度立ち上がり礼を取る。


「呆けが。臣下以外が礼なぞ取るな。座りなさい」

「ごめんなさい……」


「で、何故胡瓜なんだ?」

 殿下がいつもの顔に戻って私にたずねた。


「あ、果物の代わりに漬物を大量に作ります。冷やし胡瓜にして代わりに水分と塩分を確保しようかと。浅漬けで出来ますので追加も直ぐに」

「なるほどな。にしてもプリンと氷菓を毎日とはな。金の掛かる軍じゃのう」

 殿下が呆れた顔をした。


 そう、今回の発端は武官達の来月の食料の注文の品目にあった。

 武官達の仕事は修練だけでなく、開墾作業や、補修工事など多岐に渡る肉体労働を、職人や、市井の民を先導して行う。

 その為の体力維持が必要で、食事は大事な重要案件だ。


 夏場はその消耗をサポートする食材を大量に確保する必要があったのだ。

 水分補給の為の西瓜や、梨などの果物を普段より多く用意し、糖分や塩分を多めに摂らすメニューに変更する。


 いくら働き盛りの武官達と言えど、真夏の炎天下での作業は過酷で、食欲も落ちるからその為に食べやすい果物を用意するのが慣例だ。


 裕進様が右大臣に正式に昇進したのが六月。引き継ぎが双方長引き、七月の注文は惟光様がしていた。その後を任された裕進様は「通常発注」を御料理番所に提出していたのだ。

 武官経験者なら、当然のように分かることだが、裕進様は文官の出だ。

 そして、各所への仕事が多く今月彼は殆ど軍の若い連中と昼食を共にしていなかった。


 この事態を予測出来なかった責任に、殿下は惟光様を責めたのだ。

 そして、相談役である為時様も同様に。


 ただ……これは彼らだけに言うのも……

 とは思ったが、何の為の相談役、指南役? と問われれば返す言葉はない。

 全責任は左大臣家二人にある。と言われても仕方がなかった。


「殿下、酒造所の権を一時的、わたくしに御貸し願えませんか?」

 この国の酒蔵は全て国営であった。その販売権や値段は国の専売品である。


「何をする気だ? 次は?」

 殿下が怪訝な顔を私に向けた。

「酒になる前の梅酒を譲っていただきます」


「次から次へと……全額、惟光と為時の給料から引いとけ!」

「殿下!!」

 きっと今探している物も追加で出た金は、彼らが自腹で用意することが殿下も分かっていた。その上でのこの言葉だった。


 通常発注と違い、無理矢理にでも探してもらっている品。

 値段はその分当然跳ね上がる。

 人数が多い分、かなりの出費になることは確実視されていた。


 が、彼らの命には換えられない。疲労が蓄積した身体で働き、万が一大事故でも起こすようなことがあれば、金などとは言っていられないからだ。


「金策にわたくしも行って参ります」

「呆けが。好きにしろ。ただ無理はするなよ? 本来お前の仕事ではないぞ? 分かっておるな?」

 殿下が少し心配そうな顔をして私の手に自分の手を重ねる。


「心得ております。ちゃんと下の者に私は指示を出しますゆえ。そして私の大事は貴方の支えで御座いますので」

 そう言って私は彼の手を軽く放し微笑む。



 その後、各所への通達を一旦済ました左大臣家三人が殿下の執務室に集結した。

 ただ先程とは違い、真夏だと言うのに皆、上掛けを羽織り寒さ対策万全で臨んでいた。



「此方が只今、用意出来る品の予定表で御座います」

 兄が最初に主に進捗情報を伝える。


「今何と言った? 惟光よ? 余の聞き間違いではなかろうな? 予定とは?」


 温度が一気に冷えた。


「申し訳御座いません!! 必ずこの数を納めます」


「予定の話なら、余にわざわざ言う必要なかろう!! 決定だけを申せ! たわけが!」

 殿下が報告書を投げつけた。

 隣で硬直している父上とは対照的に、この事態に慣れている支宣は通常運転の様相だった。


「西瓜、梨などの果物は、名家に御願いし現在協力を得ています。承諾済みで四分の一。残りを現在、退役者にも声を掛け譲って頂くように交渉中で御座います。正しい数字は申し訳御座いませんが明確には、今後も八方に声を掛け続け集めます」


 父為時が、包み隠さず現状を伝えた。


「で、その金は何処から用意するのじゃ? 為時よ?」


 殿下の冷たい声が飛ぶ。


「左大臣家で全額賄います!」


「たわけが! それがお前が言う責任か!!」


 二回目の雷が落ちた。


 それでは殿下の怒る意味がない。

 ミスしたら自腹で補填すれば良い。と言うのは国の政をする上で絶対やってはいけないことだ。


「どいつもこいつも! 昨日入ったばかりの新人か!」


「各所への通達に伴い、一時的に貸し付け金の金利を下げる許可をいただきたく。あと外宮にある空き店舗の敷金を落とし競売に掛ける許可を御願いします」


「は? どういうことだ?」

 殿下の驚いた表情をよそに、冷静に支宣は主に提言する。

 こんなことは過去にも何度かあったので彼は特にこのような事態を恐れてはいない。


「空き屋になったままの店舗を置いておくのも不用心ですので、この機会に商いを行いたい者に払い下げようと思います。ちょうど後宮の者達もそれぞれの技術を学んでいますし」


「先の飴で、後からしっかり税を増やす算段か? 宣よ。お前の考えそうな冷徹な話よのう」

 そう言って殿下は少し支宣を睨みながら笑った。

「冷徹って……」

 この二人の会話に全くついていけてない脳筋親子は目を大きく開いている。


「説明してやれ、そこの脳筋共に」

 殿下が呆れて扇子で自身の顔を扇ぐ。


「いいですか? 一時的に金利を下げると新たに商いをしてみたい者にとっては、好機です。しかも物件も格安で買えそうになるのですよ? 立つ者が必ず出ます。そうなれば市井も賑わい、延べては国の財源も増えるのです」


「皆にとって良い結果になります」


 支宣は最後は主に向かって述べた。


「此方が競売に掛ける物件の地図です。既に所有者から譲渡の証文は得ております。所得税の二割を免除で話しをつけました。そして此方が下げた金利半年分の財務表になります」


「二割で既に話しをつけたと?」

 少し殿下の眉が動いたが支宣は続ける。


「太政大臣としての仕事で御座います。報告が遅れて申し訳御座いませんでした」

 そう言って支宣が臣下の礼を取る。


 太政大臣とは全ての文官、省庁を束ねる。財務大臣も日銀総裁も兼ねた重職だ。

 帝の許可は発布の際には当然必要だが、基本的によほどの愚案で無い限り、帝がもの申すことはしない。それだけの権限を与えるに足りる者と帝自らが任命しているからだ。


 後出し感はあるが、そこは今回の緊急事態であった。



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