16.夫婦会議
「ただいま。って寝たか。相変わらず無防備だなぁ」
あんなに外では活発な女が、まるで子供のように寝ている姿を見て、思わず口づけをした。
「ん~~」
「は! ごめんなさい! 私ったら! お帰りなさいませ!!」
「ただいま。いや構わんよ。たまにはゆっくり休め」
しまった! あのまま寝てしまったんだ……嫁としても妻としても、妃としても失格だわ……
「凛花。全てが最初から完璧な者は居ないよ。日々の積み重ねだ。焦ってはいけない。私達は互いに支え合い寄り添うのだろ?」
読まれている。私が最近色々一生懸命だったことを。
安岐様の件以来、私の中でも少し考えが変わった? と言うか、帝の妻になるということの重みを感じていたからだ。
言葉にすれば簡単かもしれないが、その責任と重圧は計り知れない。
私は、早く皆に認めて貰いたい! と焦っていたのかも知れない。
光様は産まれた時からずっとそれを日々精進してきている。剣技にしても、名実ともに国内一に上り詰めた今尚、日々精進を忘れていない。
皇后か……
ちゃんとなれるのかなぁ? いやならなくてはいけない。
「凛花? また一人で頑張ろうと思ってないか? 君は一人ではない。それともそんなに俺は頼りないかい?」
殿下が苦笑いしながら私の頬を両手ではさみ、正面から逃げられないようにロックした。
「ずるいです……そんな目で見ては……」
本当にこの御方はズルい。絶対的自信があるくせに、こうやってたまに本当に淋しそうな御顔を平気で見せてくる。こんな顔をされたら否なんて言えるわけがない。
「ごめんなさい……甘えて良いですか?」
「よく言えました凛花さん」
そう言って彼は頬の手を放した。
「あ! 殿下!! 学校の話しなのですが!!」
私はあのままになっていた学校の話しの詰めについて殿下に申し出た。
「凛花さん? 仕事熱心なのは良いですが、妃の本来の仕事はお分かりですね?」
「……」
殿下がそのまま寝台に私を押し倒し、覆いかぶさってくる。
妃の一番大事な仕事は帝の子を産むことだ。
「で、殿下……それは今は……だって殿下だって承知ですし、だから加減なさっているはずでは?」
そう、こうなってしまう時に二人で決めたことがあった。ちゃんと即位して結婚の儀を終えるまでは子は作らないと。本来は結婚の儀までは同居の予定ではなかったのだ。
それが急遽こうなってしまい……書類上は夫婦なので別に問題がある訳ではないのだが、なんとなくそこはケジメとして……
「結婚の儀を早めるってことも出来るがな?」
殿下が真面目な御顔で言う。
「い、いやぁ……どっちにしてもそれは今ではないほうが宜しいのでは?」
この国は意外と縁起とかを重要視している。そもそも皇后が崩御してまだ二月も経っていないのだ。
せめて帝位を即位してからだろう……
「まぁ、もう少しこのじゃじゃ馬との二人だけの生活を俺も楽しみたいからなぁ……暫くは待つかなぁ?」
じゃじゃ馬って貴方……
「で、何故この体制に?」
「ん? 可愛いな? と思ったから? それ以外に理由がいるか?」
「可愛いって……」
「それとも何か? やりたいから? って言うほうが良いのか?」
「殿下!!」
いやいや、光さんや? いまの話しを聞いていたかいな?
当代一の美丈夫。立てば竜胆、座った姿は大輪の菖蒲の花の如く、文武両道、清廉潔白の麗しの紫の君ですよ? 間違ってもそんな「出来ちゃった結婚」だ、なんて。
民が許さないでしょうよ?
そもそも厠にすら行かない人と市井では思われているんですよ?
そんな御方と結婚の儀も行ってないのにねぇ? 貴方?
そんなことしたら私がいい笑い者ではないですか。
絶対私から誘った、はしたない女って思われそうだもん……
「今日は駄目です!!」
「あん? 月の日にはまだ日があろう?」
なんで知ってるのよ! もう!!
「まさかとは思うが、他に想う男がおるとかではないだろうなあ?」
「何でそうなるのですか!!」
「いや、あまりにも嫌がるし……」
「いや、そうではなくてですねぇ。お立場と言うか。さぁ? ね? もしも? ってことだってある訳ですし?」
「それ今更言うか? 何回やったと? 思ってるんだ?」
「………」
最もな意見で御座いますね。はい。
でも、麗しの君が、やったとか言わないでください。貴方は天使様なのですからね? しかも恐ろしいぐらい綺麗な顔で、真顔で言わないでください。
顔とギャップがあり過ぎですから。
「そっちの心配はいらぬわ。そりゃあ絶対とは流石にかもだが、そこは自信があるから任せろ! それに、もしもの時は、別に年明けならまだ目立たないだろ」
真面目な顔で何を語っとるんじゃい!! この御人は!
自信って……しかも任せろって。
そして、この会議は夜中まで続いたのでした。
結局私の完敗に終わると言う……




