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はじまりの刻 ~堅物姫と麗し皇子の秘め事の始まり〜甘美な世界でイケメン皇子に溺愛される〜美しの君は実はドS皇子でした〜  作者: 蒼良美月
第七章 はじまりの刻編

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12.負の遺産

「此方が先月の収支表に御座います」


 支宣様が執務室に入って来た。


「どうだ? 少しは減っているか?」

 そう、殿下が一番気にしていること、それは事実上解体した「後宮」の維持費だった。


「減ってはきてはおりますが……なにしろ人数が」

 支宣様も少し困り顔だった。

 そもそも私と支宣様、殿下と惟光様の二手で意見が真っ二つに分かれている案件だからだ。


 今上のお渡りがなかった者は既に、それぞれの道へと旅立っているが、一度だけ! とかの者が結構まだ残っているのだ。彼女らに罪はない。だからと言って全く働かずして死ぬまで一生国が養う必要があるのか? が最大の論点だった。


 私と支宣様は、子が成人するまでは子に養育費として決まった金額を支払う。

 本人もその間は育成中と言うことで労働は免除する。

 これには賛成である。


 だが、子は居ない。五体満足で健康体。なのに働くこともせず、一生国が面倒を見る?

 ちょっとそれは……と、釈然としないのだ。


 ある一定の金額を賠償金として支払い、あとは自立してもらう。が私と支宣様の考えだ。

 それに対する殿下と惟光様は「彼女らは今上の犠牲者である為、その賠償責任は国にある」

 が、言い分だった。


 うーーん。間違ってないですけどね? そもそも賠償金も一生じゃなくても良いのでは? と思ってしまうのだが……

 それで真っ向から対立してしていて、現在の険悪なムードに。



「殿下の仰っていることは正論ですが、正論だけでは食っていけません!!」


「そこまで財政疲弊してないだろ!!」


「疲弊してからでは取り返しがつきません!! それに我々が必死で金を稼ぐ算段をしている時に、何故、彼女らは優雅に茶を啜り、菓子を食べ、唄に踊りにと毎日宴に興じているのですか? 何故そんな者の為に、我々は寝る時間を削り、働かなくてはいけないのでしょうか!!」


 あーあ、言っちゃった。

 うん。最もだよ、支宣くん。ただねぇ正論ぶつけるとねぇ……

 ほらね? 雲行き怪しくなってきたでしょう?



「もう一回言ってみろ! 支宣!」


「何度でも言います! 民の血税を何故そのような者に注ぎ込む必要があるのですか!!」

「じゃあ何か? お前は彼女らを切り捨てろ! と俺に言いたいのか? いや、俺に言わせたいと?」


「そう言う訳では御座いません!」

「同じよのう? 発布するのは誰の名じゃ? なら」


「……」

 流石にそれを言うのは反則でしょうよ?


「殿下、それだと話し合いの必要性自体が意味をなしません」


 私は、殿下の目から逃げることはせず、はっきりと言った。


「少し休憩にしよう」

 惟光様が割ってはいった。


 休憩とは言え同じ部屋だ。重苦しい空気は変わるわけもなかった。



「では、自立を促すのを国で支援するのは如何でしょう?」


「どういうことだ?」

 殿下が少し興味を持ってきた。


「例えばですが「後宮」自体を学校とし、幸い女官や、側室達には読み書き出来る者も多くいます。

 その者達に「教師」をさせ、侍女や希望する者を通わせる。他にも彼女らの得意なことを、琴や唄、化粧や絵画など様々な「学び」の場と改変するのです」


「ほう? で? 国はどのように支援を?」

 よし! 殿下が食いついてきた」


「そうなれば国としても識字率もあがる。また彼女らも「賠償金」だけではなく今後の生活費、自立出来る金を稼ぐことができます。ただ金を配るのではなく、実になる金の使い方を考えませんか?」


 ウィンウィンの関係だ。


「なるほどなぁ……」


「子が居る者も一緒に勉強できますし、子が成人した後も、稼げる場があるのですよ? 安心ではないですか? 職業訓練なども含め、それに係る経費を国が負担してやるのであれば、私は異論は御座いません」


「だそうだ、支宣? どうするよ?」

「御方様の意見に賛同します」


 無事何とか決着した。


「惚れ直したか?」

「ゴホッ、」

「で、殿下……」


 ん? 何の話?


「大丈夫ですか? 支宣様?」

 私は支宣様の背を摩ろうと近づくが、彼が足早に去って行った。

 気になったので、茶の用意をする為一旦、奥に行く。



「何となく宣の気持ちが分かるような気がしてきました」

 二人きりになったことを確認した惟光は主にポツリと小声で言う。


「どういう意味だ? 俺にはさっぱりだぞ?」


「多分では御座いますが、宣にとって殿下は親なのですよ。憧れの人でもあり、慕う人でもあるけれど、目標でもあり、でも一番心が安堵出来る甘えれる親なのです。そしてその傍らにおいでの妃様も母なのです。きっとね」


「はぁ?? 親?」


「二人の幸せな姿を見るのが自分の幸せと奴は申したでしょう? それは奴の理想の家族像ではないかと。彼の母親の最期は?」

 一瞬殿下が険しい表情をされたが、軽く頷いた。


「現実の母の暮らしの事実を打ち消し、幸せな家族を望むことで自分の精神の安定を図ったのかと。それが殿下と妃の御姿ではないのかと」


「あんな、面倒なでかい息子なぞいらんわ」

 吐き捨てた言葉とは裏腹に、殿下は優しい顔で笑っていた。


「可愛いくせに?」

「お前もな」


「これを、宣に」

 そう言って、殿下が昨日出来上がったばかりの褒章を俺に渡す。


「此方は? 次の論功行賞時に授与するものでは?」

「今回の名簿に奴はない」

「なるほど……」

「でしたら、殿下から授けてやってくれませんか?」


「それは……流石に……」

 殿下が少し寂しそうな顔をされる。まあ名簿にない者へ公人が授けるのは規則違反だしなぁ……


「なら、()からにするかのう……」


「え? 宜しいのですか?」


「別に妃殿下からの論功行賞を作ってもよかろ? 女官達に凛花が授けることも今後もあっても?」


「なるほど!」

 流石は殿下だと惟光は思った。全てが上手く行き、全てに幸せになれるのであれば、新しいことにも躊躇せず直ぐに実行する。過去の慣例や伝統だけに拘らないその大きな背に、もう何年も自分自身も魅せられている。


「凛花、仕事の依頼がある」


 ちょうど茶の用意をして戻ってきた私に殿下がいきなり言った。

 同時とも言える時に席に戻った支宣様に目配せし、茶を促す。


「何ですの? 突然?」


「次の論功行賞に、急遽お前の名で一名選出することになった。その者の意匠をお前に頼みたい」


「え?」

「え??」

 私と、支宣様は同時に少し驚きの顔をした。


「皇太子妃殿下からの論功もあっても良かろ? 今回は既に発表済であるので、妃殿下の論功対象者は一名に選定する」


「はぃ? 承知しました?」

 少し驚いたので疑問系になってしまった。


「あ、あとその者に褒美として、受賞式に着る装束をお前に意匠をしてもらう。頼んだぞ?」

「は、はい? で、その者の名は??」

 私はデザインすることは構わないが、相手が分からないと? と思い殿下にたずねた。


「我が()の思春期坊主のそこにおる惟光の弟だ」


「ブホッ」

 支宣様が、茶を豪快に吹き出した。


「お前、御前であるぞ?」

 そう言って、殿下は笑いながら、彼の背中を御身自ら摩ってやっていた。


 良かったね支宣()()

 大好きな殿()()()計らいで。


「これで、我慢しろ。思春期坊主」


「ゲホッ。ゲホッ」

 尚も咽る支宣様に心配の顔を私はしたが、兄の惟光様も殿下も笑っていた。

 まぁ……あまり心配はいらないのかしら? と思って、私は兄()()へにも茶の用意をする為再び奥に行き、茶菓子を用意した。



「ねえ? 私まだ、妃殿下ではないのですが……」



『……』

 全員が沈黙した。


 空気読まない発言ですいません。









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