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はじまりの刻 ~堅物姫と麗し皇子の秘め事の始まり〜甘美な世界でイケメン皇子に溺愛される〜美しの君は実はドS皇子でした〜  作者: 蒼良美月
第七章 はじまりの刻編

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11.追う者と追われる者

 ──「良い度胸しているな?」


「お疲様で御座います」

 私は殿下に手ぬぐいを渡す。


「あ、いえそういうのでは……」

 支宣様が、殿下の前で小さくなり何か弁解をしている。


「着替えられますか?」

「あ? いや? そこまで汗はなかろ?」


 驚いた。あれだけの立ち回り、熱心な指導を若者五十人余りに行っていて、汗一つ無かった。

 文官達が殿下の近くにより、扇子で四方から扇ぐ。


 束ねた髪の乱れも一切無い、綺麗なままの殿下の姿に、ここにいた全員が絶句した。


 五十人の若者は、地面に腰を付き、皆汗をかき、中には立てない者さえいた。


「化け物で御座いますね」

 支宣様が殿下の手ぬぐいを受け取り、代わりに檸檬水を渡した際にポツリと言う。


「真剣持ってくるか? 為時よ?」

「ご無礼を!! これ! 宣! 早う謝らんか! 阿呆!」


「最大の賛辞で御座いますのに……それとも神の化身ですね? の方が宜しかったですか?」

 支宣は主の顔を見て笑った。


「どっちもいらぬわ! ど阿呆!」

 そういって、軽く支宣の背中に蹴りをいれた殿下であった。


「それより、何じゃ? あやつらは? 惟光呼べや!」


「御意!!」


 先程までの和やかな空気が一瞬にして変わった。


 支宣様が今後の展開を予感し、殿下の近くから逃げようとするが、父上である為時様に捕まえられた。


 うん。ここは左大臣家全員の連帯責任ですね。


 その後、案の定、雷が落ちた。

 左大臣家全員が、一列に並ばされ平伏した。

 その姿を見た若い武官達が明日から今以上修練に励んだことは言う間でもない。


 殿下が何かの時に、若い下の者に直接激を飛ばすことは先ずない。

 若者や下の者の不始末、未達成は全て上官の責任であるとし、上官にはそれだけの責任を負わすのが殿下の方針だった。

 その育成に向いてない者は、どんなに家柄が良かろうが、経歴があろうが切り捨てる。


「裕進よ、何の為の右大臣か今一度良く考えるんだな」


 左大臣家全員が平伏している姿を見て、オロオロしている裕進様に、一言殿下が釘をさした。


 裕進様の良いところは、元文官と言うこともあり、とても温和で気配りができる。下の者には慕われているが、優しすぎる性格が災いしてあまり後進に強くは言ってない様子だった。

 殿下はそれを見抜いていた。


「凛花、湯浴みの用意を」

「既に御用意しておりますよ?」

 侍女が立ち上がろうとしたのを殿下が制した。そして私の方を向いて言う。

「付いてこい」

「わかりました」

 私は殿下に手を取られそのまま修練場の出口に向かう。

 出口付近にいた武官の一人に殿下が懐から金子を袋ごと渡す。


「若い奴らにと、惟光に預けろ」

「ぎょ、御意ぃ!」

 声が裏返っていた。

 そりゃあ驚くのも無理もない。いきなり皇太子殿下に声を掛けられ、しかも大金を託されたのだ。このまま逃げたら大金持ちになる。


 そんな大事を殿下は気にしない。いや「逃げるような奴」は一生自分の臣下にはいらない。と、無言のメッセージだ。



「殿下は?」

 惟光は弟にたずねる。

「御方様と戻られた」

「ほれ、お前の分だ」

 そう言って兄は弟に水飴と、金子を渡す。

「こっちは頂きますが、別に金子は……今回は我々は特に何もしておりませんし」

 そう言って支宣は兄に金子を返そうとする。

「全員平等が殿下の意だ。受け取れ」

 金一万。

「何人に?」

「侍女衆いれて百ちょっとかな?」

 兄は普通に答えた。

 兄の答えに普段冷静な男は一瞬ギョっとした顔を見せた。


「それを一介の門番に?」

「そう言う御方だろ?」

「狂気の沙汰だな。やっぱりあの人には敵わんわ」

「ん? お前真面目に勝負しようと?」

 兄は少し驚いた顔をした。

「いや。それは無いな、あんな化け物相手に。私は死に急ぐ人間ではありませんので」

 支宣は少し寂しそうな目をした。

 それは姉のことを言ったのか、顔もみたことの無い母のことを言ったのか、それともまったく違う話なのか? 敢えて兄はそれ以上聞かなかった。


「それより兄上、先日の殿下との剣術は本当に兄上は本気で?」


「本気でなかったのは俺じゃなく殿下だよ……」


「え?」


「皆の前で、腐っても一応国内一と言われ国軍の最高司令官だぞ? 滅多打ちで恥をかかして軍部の今後に影響するような事をあの御方がするわけないだろ?」


「え?」

 支宣は今日一番の驚いた顔をした。

「殿下は流していただけで、一度も上段からは構えてなかったよ。一段と遠い存在になったなぁ……」

 兄が悔しそうな顔を浮かべた。


「化け物で御座いますゆえ……」

 支宣は肩を落とす兄に他に掛ける言葉が見つからず、自分自身に掛けた言葉を掛けた。






 ◇



「クシュン」

 あら? 感冒ですか?

 珍しく殿下がくしゃみをしたのでたずねる。


「いや、どうせ誰かがなんぞか言うておるのだろ?」

 そう言って殿下が私の手を引っ張った。


 ──キャッ

「殿下!! 濡れるではないですか!!」


「どっちが?」

 ニヤニヤとしながら、湯船に引き込まれた。


「ちょ、」

「たまには良かろう?」

 何となく意地悪そうな顔で見られた。

「まだ日が高こう御座います。この後仕事に戻るのでは?」


「今日はもう任せる」

「背を流してもらえるか?」

「は、はい」


 って。色気ありすぎでしょう!!

 無理です!

 何度も身体は重ねたが、こんな明るい中でしかも背を……

「興が過ぎるか? 侍女を呼んでも良いがな?」

「……いやで御座います」


 私は手ぬぐいを取り、殿下の背中を流した。

 しかし……これ以上は……


「先に寝所で待ってろ」


「……はい」





 ──しかし本当に化け物だわ。

 あれだけの人数の武官達の相手をして……

 こんなにも……


 すっきりした顔で、今度は影と七人掛けの鍛錬をしている。

 先程のでは物足りなかったのか? 今はその筋のプロ集団とも言える影相手に……。


 ──カランッ


「くっそう!!」


 え? 殿下が木刀を落とした?


「流石に本日はここまでにしておかれたら? 無理は怪我の元です」


 そう言って影が瞬時に消えた。


 初めてみた! 消えろところ!! 早い!!


「ん? なんだ? その顔?」

 殿下が私の表情を見て少し不思議な顔をされたので私は影のあまりにもの早さの驚きを素直に話した。

 殿下は笑っただけで特に何も言わなかった。うん、流石に存在はねえ言えないよね。


「ちょっと無理をしすぎたのでは御座いませんか?」

 そう言って私は酒の入った盃を彼に渡す。


「追われ続けるのも、中々大変よのう」

 そう言って彼は珍しく盃を一気に空けた。


「そんなに頑張らないで下さい」

 私は彼の肩に軽く手をのせた。

 彼はそのまま自分の手を重ねたまま呟いた。

「人は目標が明確に無いと頑張れんからなぁ。その目標で居続けるのが俺の仕事かのう」


 誰かに問うように言う彼に、私は思わず言っていた。

「たまにはちゃんと休んで下さいよ?」

「ああ、今はちゃんとこうして休めるところが出来たからな」


 追う者と、追われる者。

 では、追われる者は、何処まで走り続ければ良いのだろうか?

 いつか追いつかれる時を待つ?


 いや、彼がそれを許すはずがない。

 追いついた? と思えば、ずっと先にいる。


 それが、彼の矜持であるから。




「ちゃんと寝所で寝て下さいよ?」

 既に寝息を立てはじめた超が付くほど責任感とプライドが高い、そして実は甘えん坊の私の大事な旦那様に、薄い肌掛を掛けた。

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