8.甘味は神
「ほら、早く! 次行きますよ? 凛花さん!」
「ま、待ってぇー。右大臣様ーーーーーーー!」
ゼェハァ、ゼェゼェ、ハァハァ…………
ヅカレタ シンドイ……
てか鬼か! あの惟光とか言う男!
出勤二日目の今日、私は自室の執務室に入ると同時に、直属の上司であるこのイケメン男、いや、脳筋男に手を引っ張られ、猛ダッシュで宮殿内にある各省を引き摺られながら周っていた。
この人私が女だってこと覚えてる? いや別に女性だからって特別扱いして欲しい! なんて言ってないですよ? 100メートル走全力走りを、休憩無しで何本やらせる気ですか?
殺す気でしょうか?
「あ、ちょっと疲れた? 少しだけ休憩する?」
「あーでも、昼までに挨拶周りは終わらせときたいんだよね。午後からは早速積み重なった仕事がたっぷりあることだしなぁ」
今なんつった? 少しだけ? 休憩? 積み重なった仕事? たっぷり?
もう全力ダッシュの刑が始まってそろそろ1時間ですが? 体罰か何かでしょうか?
そりゃあそうですよねぇ? 何処の馬の骨かも分からない小娘、しかもド平民の小娘が、いきなり国のツートップ様、しかも源を辿れば皇族のお血筋の御方の補佐官。そりゃ、いじめたくもなりますよねぇ……
嫌なら嫌ってはっきり言ってくださーーーーーーーーーーーーい!!
「おいおい、惟光君や。凛花は女児ですよ? いくら利発とは言え、君の体力と運動神経に付いていける訳なかろう?」
──神の降臨!
本物の神様が来られたのかと思うぐらい、この時は心から嬉しかった。
「あ、そうだった……すまぬ。俺としたことが……凛花さん」
昨日の「名前決め」会議からなんとなく三人の? 距離が近くなった? ようで、右大臣中将様は私のことを「凛花さん」と呼ぶようになった。そしてあの、やんごとなき御身分の御方も「凛花」と名前で呼ばれていることに先程気づいた。
「光様!」
そして私も「光の君」とお呼びしたり、「光様」となったりと、それは「惟光様」も同様だった。
私達三人だけの時は、互いにお互いの名で呼ぶまでの仲になっていたことに、今気づいたのだった。
あれ? でもさっき一文字変な文字混ざってませんでしたっけ? 光さんや?
「児」って言いませんでしたっけ? こう見えてわたくし18歳で御座いますのよ?
私は、無意識に目線を下に向け、自分の低い二つの丘を見た。
丘? いや草むら?
──いいもん。大器晩成型だもん! うん。きっとそう。
「ごめんって。凛花ちゃん。ほら、甘いものでも食べよっか? ほら、少し休憩しよう? 少しね? ほんの少し」
私がずっと俯いていたら、トイプーが機嫌を取って来た。
それにしては「少し」を強調しすぎじゃないかい? にいさんや。
私達三人は部屋に入り、おやつの時間にすることにした。
今日のおやつは光様が持って来てくださった、焼き菓子だった。
皇弟である殿下には、毎日10時に宮殿内の「皇族専用料理番」が手作りする「お菓子」が出されることになっていた。「お菓子」は10時と3時の1日2回必ず出されるしきたりだそうだ。
ただ、この「お菓子」……正直あまり美味しくないんだよなぁ…。
上品な味には仕上げてはいるんだけれど。華やかさに欠けると言うか味もイマイチで。
「饅頭」や「煎餅」、「焼き菓子」に「飴」等が「おやつ」の定番らしい。
「饅頭」はともかくとして、「焼き菓子」は正直ボソボソしていて、美味しいとは言えないような……
──ケーキ食べたいなぁ。プリンや、ゼリーや。
!
アフタヌーンティー!
なんと素晴らしい響き! 私って天才じゃない? 此処は何処? そう宮殿です!
宮殿のティタイムと言えば!
アフタヌーンティーでしょうよ!
何で今まで思いつかなかったんだろ?
そうと決まれば、ゆっくり座ってお茶を啜っている場合じゃないわ!




