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はじまりの刻 ~堅物姫と麗し皇子の秘め事の始まり〜甘美な世界でイケメン皇子に溺愛される〜美しの君は実はドS皇子でした〜  作者: 蒼良美月
第七章 はじまりの刻編

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4.幸せの時間

 少し懐かしい衣に私は袖を通した。

 そう私の初恋はここからはじまった。


 殿下が私に用意してくれた鳳凰の(めす)だけが舞う姿が、丁寧に刺繍施された薄紫色の衣。

 今はその意味がはっきり分かる。何故片方だけの凰が刺繍されているか。

 それは伴侶が片割れを刻まれているからだ。(おす)を背負う殿下が舞い降りた。


「さぁ、参ろうか」

 そう言って差し出した殿下の手に私は手を重ね、いつぞやと同じ輿へ向かう。



「今日は、光って呼んでくれるんだろうね?」

 そう言って殿下がニヤニヤしてきた。


「覚えていらしたのですか?」


「というかさぁ、そろそろ本当に名前で呼んでくれても良くないか? これ真面目な話しなんだけどな?」


「え? 光様って呼んでいるじゃないですか?」

「うーーーんなんかなぁ そもそも俺、光潤(こうじゅん)だから (ひかる)じゃないけどな?」

 殿下が苦笑いする。

 うん。ですよね。それは知ってました。でもやっぱり光源氏でしょうよ!! そこは!!


「やっぱり光様が良いですぅ……」

「まぁ良いわ。その代わり寝所で様つけんなよ? 何か遠く感じる」

「……名前呼ばないようにするもん!!」

「呼ばせてみせるから覚悟しとけよ?」


 あの頃と同じ場所へ行く牛車の中は、あの頃とは考えつかないような内容の話しをしていたことに、ちょっと恥ずかしくなった。


「竜胆の髪飾りって持ってたか?」

「ん? 竜胆のは無いですが?」

「今度それ作ろうっと!!」

 根っからのデザイナーですね……

 ただ、それは私の身に付ける物だけの専属デザイナーですけどね。


「なら、桜の簪私も描こうかな~~って今、桜の季節ではないですよねぇ」


「な? ほらな? 季節でもない花背負うのって野暮だと思わないか?」

「い、いや、それとこれとは違うような……御印ですし殿下の場合は。私の桜とはちょっと意味が違うかと?」


「うーーん。ならば凛花も竜胆の入れれば良かろう?」


「それはまた違うような気も……」

 私達はこんなくだらないことを話しながら、例の場所までの短い旅を楽しんでいた。


 時は既に桜の時期はとっくに過ぎ、新緑の匂がする初夏の装いとなっていた。

 来週は園遊会。長いようで直ぐに月日が経っていく。



 ──ガタン


 目的の場所についた私達一行は、同じように手を取ってもらい、陣幕の中に腰を下ろした。

 一つだけ違ったのは、少し酒を召された殿下がいつになく楽しそうにしている姿を見て私はとても、嬉しかった。


 殿下の中にあった毒を二人で飲み込むことを決意したあの夜を私は思い出しながら、彼の幸せを願った。


「卵焼きが良い!」

「もう、御自分で食べて下さいな?」

「やり直したいと申したのは、お前だぞ?」

 

 まさか、ここもやり直すんかい!! と思いつつも、こうして甘えてくる彼を見ながら幸せを感じていた。


 今日は人払いもせず皆が楽しそうにしている中、私達は隠れることもせず、夫婦の時間を楽しんでいた。


 ──このままの幸せがずっと続くようにと願っていた。





 ──「そろそろお前も自分の幸せを考えたらどうだ? 宣」

 兄は弟を近くに呼び寄せ小声で話しをする。

「何を今更? ですか? 兄上の方こそどうなのですか? 結殿とは?」

「え? 何故? それを?」

 惟光は焦って、酒の入った盃を落としてしまう。


「やはりそうであったのですね」

「お前!! 兄を揶揄うでないわ!!」

 弟の頭を叩こうとしたが、かわされてしまう。

 常に冷静な弟の勝ちであった。


「俺のことは良いのだ!! それよりお前だ!」

「もう良いのではないか? 夫婦にはなれなくとも、傍で護ることは出来るだろ? 実質既に別居されておるし、姉上を下賜願うことも不可能ではないはず」


()()の想い人は、ずっとあの頃と変わらず御一人だけですよ。兄上」

 そう言って彼は、向こうに見える揃いの鳳凰の衣を身につけて、楽しそうに笑う夫婦を遠い目で見ていた。

「が! しかし! それはもう!」


「分かっていますよ。あの日、捻れた運命はもう戻ることは決してありませんから」

「お前はそれで良いのか?」

「兄上は分かってないですねぇ? 私は彼女と同じぐらいあの方が大好きですし、傍に居る小さな花も私は慕っているのですよ?」


「もう、昔のことです」


 そう言って彼は空を見上げた。

 穏やかな風が流れて行き、紫陽花の花が満開になっていた。



 彼は、不思議と穏やかな気持ちだった。

 彼女を想い恨んだこともあったが、もう言っても仕方のない話しだと。

 彼が赦すなら、もう自分が恨むのは筋違いだろうと。





 ──そんな綺麗な青空の下で緩やかな時を楽しんでいた時、まさかの事態が起こるとは、この時の誰も予想していなかったのだった。


※次回は少し重い話になります。苦手な方は避けて下さい。

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