3.思い出の場所へ
「おはよ?」
「大好き!」
「おいおい? いきなり何だ?」
何となく言いたかった。
昨夜のことは全て寝物語。
それで良いよね? 旦那様?
私の無言の問いに彼も分かったようで、頷いた。
「ねぇ? たまにはお散歩に行きませんか?」
「は? いきなりか?」
殿下が久しぶりに驚いた顔をした。
「最初に殿下を意識しはじめたのって何時だかわかります?」
「ん? いつだろ? 俺は覚えているけどな?」
ほんの少し考えるような素振りを見せたが直ぐに諦めたようだ。
「え? いつですか? 何時??」
「教えない」
そう言って殿下がすっくと立って部屋を出ようとする。
「ええーーーーー教えて下さいな?」
「そもそも、聞くのがおかしいだろ? 俺は意思表示ちゃんとしたぞ? 気づいてないのはお前一人で、俺はあの時結構悲しかったんだぞ? 何の返事もないし」
殿下が少し俯き加減で悲しそうな顔をした。
「え? 意思表示なんてありました?? え?? いついつ??」
「簪」
殿下が短く吐き捨てるように言った。
あ!!
やっばい!!
あれか!
「い、今でも大事に……」
私は只管謝る。
「普通あれで気づくだろ? あの後大変だったんだぞ? 支宣にはゴチャゴチャ言われるし……」
殿下が恥ずかしそうに頭の後ろを掻いている。
「本当にごめんなさい! って。ね?? そもそもそんなしきたり無いところに……」
「そう言う問題か? ならお前は男からの贈り物をホイホイ受け取るのか? あ? どうなんだ?」
なんか怪しい雲行きになってきた……要らないことを聞いてしまったような……
「だってぇ……まさかそんなねえ? 高貴な御方がねぇ? ねぇ?」
私は斜め45度下から彼の顔をのぞき込む。
「ねぇ何だ? ん? それとも何か? 俺のことなぞ、眼中に全くなかったから、あの時その意味さえ考えようとはしなかったと言いたいのか??」
ちょ、光さんや? 何故そうなる? やばい相当怒ってるわこれ。
「大好き、光様!」
そう言って私は抱きついた。
「それで誤魔化されると思うなよ?」
「ごめんなさい。ってばぁあ」
「お前さぁ? まさかとは思うけど、最初、惟光に気があったとかは無いよなあ?」
ドキ! いや気があったとかはないですよ? 普通にイケメンだな? って客観視していただけですからね?
「ないないないないない! ないです!」
全否定してみた。ブンブンと首を振りながら。
「で、何時だ?」
「何がですか?」
「犯されたいか?」
「…………。」
「花見に行った時でしょうかねぇ? 辛く感じたのは。でもきっとそれより前に、気になってはいましたよ。プリン作ろうと思った時も親王殿下ではなくて、光様がきっと好きな味じゃないかな? って思ってた気がするし」
私は真面目に答えた。
「辛くなるとは?」
少し驚いた顔をされる。
「そりゃあそうでしょう。出自を気にするなって殿下は言いますが、普通は身分差は考えるでしょう?
しかも私の場合ね? で、想っても遠い存在なんだなって思うと……」
「辛い想いをさせてしまったな」
そう言って殿下は頭を撫でてくれた。
「何か懐かしいですね? まだほんの二ヶ月ちょっとしか経ってないとは思えないぐらいの」
「だな? 俺の申し出が分からなかったような女が、今は妻となっているんだものなぁ?」
「それ言わない約束です!!」
そう言って殿下の背を叩いた。
「で、原点? のあの場所へ行ってみたくなったのです」
「なるほどな? そういうことか?」
「もう一度最初から、殿下と恋がしたくなって」
「なら、俺はまた振られるところから始めるのか?」
殿下は恨めしそうな顔をして、そのあとケラケラと珍しく大きな声で笑っていた。
「では、あの日と同じ衣を着てみるかな? あ! 今日は倒れるのはやめろよ?」
「あ! あれあれ、あの時ですよ。あまりにも殿下がかっこよくて!! それで見惚れちゃいまして!! 気づいたら意識が!」
「お、お前良くそんな恥ずかしいこと平気で言えるなぁ?」
珍しく殿下が恥ずかしそうに照れていた。
「え? 言われ続けてるでしょう? みんなから?? 今更では??」
「い、いや、惚れた女に言われるのと、どうでも良い者達に言われるのとは訳が違うだろ」
どうでも良い者って貴方……
「だって、凄い素敵だったんだもん!!」
「過去形か?」
殿下が私の頬を引っ張った。
「今もずっと素敵で御座います」
「着替えるぞ!」
「はい! って、惟光様や支宣様に早く言わないと!! お弁当も持って行きたいし!」
「二人で良くないか?」
そう言って殿下が面倒くさそうな顔をする。
「駄目です! 最初からやり直すのですから」
「で、振られるのか?」
「ん、もう!!」
『その笑顔を護りたいと思った』
偶然にも二人は全く同時に同じことを思っていたのでした。
それは偶然ではなく必然だった。
離れ離れになって彷徨っていた魂の片割れが、やっと一つに繋がることが出来た時、魂が嬉しくなり、共鳴していたのだろう。
完全体へ向かって──




