13.誓いの鐘
あれから、例の山の発掘作業も順調に進み、長谷部堂の工房は連日大忙しと聞いた。
ダイヤモンド!! やっぱり憧れるわねぇ~~永遠の輝き!!
長谷部堂の特需が一段落したら、私のも作って貰おうかなあ~~
って、自分で買うとまたヘソを曲げそうなので、ちょっとだけおねだりしようかな~~なんて考えながら朝ご飯を作っていたら、声をかけられた。
しまった! 浮かれ過ぎていたようだ。
「何だ? 凛花? 何か良いことでもあったのか?」
「い。いえ。これと言って変わったことは。今日も殿下が麗しいな~~と思って」
「何だそれ?」
嘘ではない。本当に朝から、憎らしいぐらいの涼しげでお美しいのだ。
何を食べて育ったらこうなるのか? 論文を誰か書いて欲しい! と思えるぐらいの最高品質が目の前でニコニコ私の作る、ごくふつーーーの朝食をまだか? まだか? とキラキラした瞳で待っている。
この光景を毎日見れるだけで、私は幸せ者だわ。
宝石よりも輝くこの御方を。
「凛花~~ このハムおかわり下さいな」
「珍しいですねぇ? 朝から?」
「蜂蜜ですね? 今日のは」
なるほどな……この甘党め! 今日のハムステーキには蜂蜜ソース添えにしたからだった。
「あ、そういえば今日は仕事に行く前に行く所がある。凛花も同行しなさい」
「え? 何方に??」
昨夜は何も言ってなかったような?
「行けばわかるよ」
そう言って殿下が微笑んだ。
私はいつものように、朝食の後片付けをし、その後自分の着替えをしようとした時、結が入ってきた。
「御方様、本日は此方をと、殿下よりお預かりしております」
そう言って結が持ってきたドレスは。
綺麗な白銀のシルクサテンのドレスだった。白いシルクサテンに細やかな銀糸のみで濃淡を刺繍して立体的に柄が浮き出ている、繊細でとても上品な一品だった。
これも殿下が自らデザインした物だった。
凄く綺麗で上等なドレスだけれども、仕事に着るには……少々。
と、思っていたが、結は無言で既に着替えの準備に入っていた。
仕方なく私は彼女に任せる。
基本的に身の回りの世話をする、結をはじめとする侍女が用意する服には文句は言わないことにしていた。
彼女らはその為に日夜研究し、それが仕事だ。そのプロが提案することに口出しするのは、彼女らのプライドと責任感に対して失礼であると思っていたからだ。
着たいデザインがあれば、殿下に言えば殿下が絵に起こしてくれる。
なんともまあ、恵まれた環境だわ。
結が化粧を施した。
「お待たせしました。殿下」
結が声を掛けると、目の前には紳士が一人立っていた。
いつもの装束姿とは違い、少し西洋風の出で立ちだった。
殿下が私のドレスに合うようにと先日自分用に新しくデザインしたものだった。
しかし、何着ても似合う人だ……
まるで、絵本から抜け出したような王子様が目の前で綺麗な手を差し出す。
「御手を」
何処に行くのだろう? と思ったが、ここは断るべきではないと空気を読みその手に自分の手を重ねた。
そのまま、徒歩で宮の橋を渡り、大内裏を抜ける。
奥にある小さな神殿。
普段は殆ど使われていない神殿。宮内で叙爵の儀の際に使ったり、皇家の子が元服を行う際などに使う神聖な場所だった。
結婚の儀もここで行うと聞いている。
御所の移動もあり、新たに先日此方に神殿も移転していたのが、そういえば先日完成したとは聞いていたが。
「凛花、こちらへ」
私は殿下にエスコートされ、神殿の前に立つ。
神官様が待っていて、私達を中に入るように促した。
え??
婚約の儀って年明けでは? 結婚の儀って四月よね??
殿下が帝位を即位した後、結婚の儀を行う段取りとなっていたはず?
「正式発表を終えたし、ちゃんとしておきたかったのだ。婚約の儀は後日予定通りに行う。今日は俺達二人だけで、神に報告する」
そう言って神殿の前に殿下に手を引かれ入る。
初めて入るその部屋は厳かな雰囲気を感じる内装だった。
神官様が祝詞を奏上された。
荘厳な雰囲気の中、頬に伝う涙。
嬉しさ? いや違う。婚約の感動?
それとはまた違う。この小さいけれど、天に届きそうな高い天井から真っ直ぐに差す光の荘厳さに、勝手に涙が溢れてきたのだ。
私の存在を神が認めて下さったような気がしたのだ。
そっと無言で殿下が指で拭ってくれる。
奏上が終わり、殿下がすっと片膝をついた。
あまりにもの綺麗な所作に、私は見惚れてしまった。
「これを、受け取ってくれますか? 凛花」
そう言って私の手を取り、キラキラと眩しいくらい輝く透明の石が嵌め込まれた指輪を私の指にはめた。
「で、殿下?」
1カラットはゆうに超えている大きなブリリアントカットが施された金鉱石、ダイヤモンドリングだった。
すっくと立ち上がった殿下は、神官様より箱を受け取り、私の頭に同じ金鉱石でできた冠、いやティアラを載せた。
その後、揃いのデザインのダイヤでできたネックレスを殿下がつけてくれる。
「待たせたな」
そう言って殿下が私を抱き寄せ、そっと口づけをした。
その時ちょうど、時間を告げる鐘が鳴った。
が、今日はその鐘の音が何度も鳴り響いていた。
参列客は誰も居ない。
二人だけのそれは「結婚式」だった。
鐘が鳴り響く中で、そっと殿下が囁くように優しく言う。
「幸せにすると約束する」
「はい」
私は涙が溢れる中、二文字を応えるだけが精一杯だった。
──キャ
そのまま、私は抱き上げられ神殿の外に殿下がゆっくり歩いて行く。
「おめでとう御座います」
「おめでとう凛花!」
「綺麗~~」
「おめでとう御座います、殿下! 凛花様!」
神殿の外で待っていた沢山の仲間達から盛大な祝福を受けた。
「お、降ろして下さい。殿下……」
「断る!」
「で、殿下……皆が見ております……」
「何か問題が?」
「で、殿下……」
そのまま何も言わないまま、殿下は私を自分の宮まで連れ去ったのだった。
◇
「どうして二人だけで?」
「お前の涙を誰にも見せたくなかったから? かな?」
そう言って笑った殿下の顔が、指に輝くダイヤモンドよりキラキラしていることに、私は少し嫉妬しながらも、そんな優しい旦那様の腕に頭を乗せたまま、寝台で自分の手の甲を天井にかざしていた。
「女は宝石が好きよのう?」
「違います! 殿下がくれたからです!1」
そう。殿下がデザインした物、あの時すっと膝まづき指を取った時の顔!
王子様が膝を付きプロポーズをする瞬間!!
嫌いな女が何処にいましょうか?
分かるかなあ? この思いって? と思いながら私は隣で狸寝入りをしていた殿下の高い鼻を軽く噛んだ。
「イッ」
この後、朝まで殿下に仕返しされることになったのは言う間でもなかった。
第六章(完)
今回で第六章(完)となります。
ここまでお読みになった時点でも構いませんので、広告下にある✩✩✩✩✩から作品へ評価を頂けると、執筆へのモチベーション維持に繋がります。また、次回が気になると少しでも思われたらブックマークも是非お願いします。




