12.奇跡の石
──「お待ちしておりました。どうぞ此方へ」
私は長谷部堂店主を、殿下の執務室にある、ソファーへ通す。
「!!」
長谷部堂店主が硬直した。
あ! 言うの忘れてたわ! 殿下の存在! 初対面だわ!!
基本皇族である殿下が自ら一介の商人に顔を合わせることはない。
一応は扇子で尊顔を隠してはおいでだが、その佇まいは誰が見ても普通の貴人には見えなかった。
「御前とは知らず、ご無礼を……わたくし未熟者では……~~~~」
長谷部堂店主が挨拶の口上を述べる途中で殿下が遮った。
基本口上を最後まで待っているような御方ではないのだ。ごめんよせっかちな夫で。
「長谷部と申したな。妃が世話になっていると聞く。して、それは?」
相変わらず前置きとかが嫌いな人だ。即本題に入る。
時は金なりを、一番実行している御方だろう。
私は長谷部堂店主に目配せし、殿下の「流儀」に従うよう促した。
商人としても一流の長谷部殿は、その意図を理解し早速持ってきた研磨済の四角い形をした「青石」と未研磨の原石。そしてなんと五十八面体に削り出すことに成功した「紅玉」を出した。
これには思わず声が出た。
「成功したのですか?」
「はい。まだ成功率は七割程度では御座いますが、なんとか商品化になるレベルまでには」
長谷部堂店主が私にブリリアントカットを施された「紅玉」ピジョンブラッドルビーを、丁寧に布に包み手渡した。
私は自分の手の上に落とさないように丁寧に受け取り、支宣様が差し出した布を巻き付けた鑷子で丁寧につまみ、陽に翳す。
「素晴らしい出来栄えですね!!」
うん。素晴らしい! 思った以上だわ。
これ1カラット弱あるはず。ほ、ほしぃ……
私はそーっと名残惜しそうに長谷部堂店主に返す。
店主は大事そうにしまった。
ああ、さようなら、最高級ルビーさん!!
「長谷部、幾らだ?」
「え?」
私は殿下の顔を見る。
「言い値で買い取る。申してみよ。妃が気に入ったようだ」
「え?? 殿下?」
「欲しいのだろ?」
そう言って殿下は少し呆れた顔をした。
「い、いや流石に高価な物ですし、そんな贅沢は……」
「例の米の金の褒美じゃ。お前の稼ぎに過ぎん 好きな値を申せ」
「恐れながら、では、此方は御二人の御婚約記念と言うことで、私共長谷部よりの献上品とさせて頂いても?」
長谷部堂店主がそう言って殿下の前に、先程丁寧にしまった箱を差し出す。
いやいや、それでは権力を傘に無理やり献上させたみたいではないか!
「いえ。それはいけません。支払いはきちんとさせて下さい。そして殿下? 私のお給料から毎月引いて下さいませ」
「ぇ?」
小さな声が長谷部堂店主より漏れた。
「凛花さんや? たまには夫の顔を立ててくれんかのう? 気の強い女は嫌いではないが、女に宝飾品を自分で買わす程、俺も落ちぶれてはおらんぞ?」
殿下はそう言って、扇子でご自身のお顔を仰いでいた。
最早、隠す気もなさそうである。
「すいません……」
「では、此方は献上品と言うことで、代わりと言っては無礼ですが、此方の「青石」をご購入お願いできたらと」
流石商人。プリンセスカットにした四角いサファイヤの商談を申し出て来た。
「相分かった。後程支宣に好きな値を提示しろ。それより本日の本題はそこではなかろう? 凛花?」
そうだった! 長谷部殿を呼んだのは、金鉱石の切り出しと研磨の依頼だった!!
「長谷部様、実は内密にお願いがありまして……」
私は小声で店主にことの次第を話す。
「金鉱石ですか……噂には聞いたことは御座いますが、流石に手にしたのは初めてで御座います」
長谷部様が、原石を四方、八方、色々な角度から見つめている。
「此方の加工を長谷部堂にお願いしたいのです! 五十八面体と四角体で、小さめのを五十八面体
に、難しいのは四角に」
「なるほど! ただ、このような高価な物を……必ず全て成功する訳では……」
うんうん。わかるよ? 長谷部さん。 ブリリアントカット成功率70%って言ったよね? ルビーより硬いダイヤモンド、多分成功率は下がるかもしれない。硬い分割れにくいかもだけれど、その分削り出しは難易度があがるだろう。
だが、心配はいりませんよ? だってダイヤモンドって小さくなっても価値はありますから。
私は先程殿下が買い取る話しでまとまった「青石」の小さな物を布の上に二個置く。
それとは別に「紅玉」の小さなブリリアントカット済のを置く。
「紅玉」を中央に配置し、両横に「青石」を配置した。
「切り出しに失敗した物は再度小さく切り出し、このように脇石に使い台に嵌め込んだら如何でしょう?」
「なるほど!! 流石は妃殿下!」
商談成立ですね。




