1.同棲
宮の増改築工事も順調に進んでいて、細かい庭作りや、花を植えたり、調度品を入れたりはまだではあるが、殿下が住むにあたり支障はないレベルまでにはなっていた。
一応私の私室も用意される予定だ。
そんな中、兄弟喧嘩? が只今勃発中だ。
ことの発端は……
左大臣に就任した兄惟光様が、実家である藤の家を出て、殿下の宮に入ると言い出したのだ。
役職的には殿下の側近の護衛となるわけで、寝食を共には間違えではない。
ただ「通い」で出勤することは可能であり、前太政大臣の為時様は「通い」であった。
当然それを聞いた、今までその任務をこなしていた支宣様が否を唱えたのだ。
うん、気持ちは分かるよ。支宣くん。
「だからーーお前が殿下の傍についたとして、何事かあっても護れんと言っておるではないか!!」
「そんなことになれば、兄上一人居たとて何ら意味ありません! お一人で護れる程度なら、殿下一人で対処出来るでしょうし、影もおります! ならば、殿下の好みを全て把握している私のほうが良い! と申しているだけです!!」
うんうん。そうだね? どちらも正しいよ?
結も進も、呆気に取られている。
そんな二人の真剣な言い合いを、まるで他人事のように無視して、茶を啜っておられる御方が、目の前にお一人……
結と進、そして兄である裕進様が、殿下の方を何度もチラチラと見ている。
「ったく。茶が不味くなるわ。朝からうるさいのぅ……」
殿下が耳に指を入れ苦笑いする。
そろそろ止めてくださいよ? と、皆が殿下を期待の目で見る。
「仕方ないのぅ……ならば二人とも越してくれば良かろう? なら問題ないのであろう?」
「殿下がそう申すのあれば……」
「でも、私が殿下のお世話はしますので、兄上は護衛のみに専念してくださって結構ですからね?」
これこれ、支宣くんよ……
それには、すかさず殿下が拳骨をいれた。
まぁ、最初に護れないと言った兄にも問題はあるけどね。
「あーーでも夜は邪魔するなよ? お前ら」
そう言って殿下が私を引き寄せた。
「承知しております!」
「勿論で御座います!」
「なぁ? 凛花も越して来るのは駄目?」
殿下がポツリと言う。
「え?」
「御方様のお部屋は一番最後に予定しております」
「暫く御堪え願います」
二人は殿下に深々と頭を下げる。
「お前ら減給な?」
「元より一月完成で御座います!」
支宣様の逆襲だった。
「まさかとは思うが、結らも凛花について越してくるつもりではなかろうな?」
殿下が、結とその後ろに控えていた侍女達に目を向けたずねた。
『当然で御座います!!』
「い、いや……通いと言う選択もあるので」
『御座いません!!』
殿下が皆まで申す前に一致団結した侍女衆が答えた。
「御前である!」
結がすかさず、長に蹴りを入れる。
おいおい、お前も御前だぞ? 結さんや。
「結……暴力はいけませんよ。暴力での支配は……」
「いえ、御方様、愛の教えで御座います! 有難う御座います! 結様!」
おいおい……なんかおかしな方向に進んでないか? この女脳筋隊?
私は、それでも結に注意した。結は姿勢をただしたままだ。
「どちらにしても暴力は駄目です!!」
「申し訳ございませんでした!!」
素直に頭を下げるが、少し心配だ……
私は殿下の顔を見るが、特に気にする様子はなく、笑顔で茶を啜っている。
この御方、部下に任せた仕事には基本的にその方針、育成方法とかを口出すことはない。
でも体罰は駄目でしょう? 光さんや??
「俺はさぁ、俺と凛花のことに一生懸命に皆がなってくれることは嬉しが、皆、自分の将来を一番に考えて欲しいのだ」
光様が、真剣な眼差しで惟光様以下全員を見渡す。
「皆、いずれは結婚し、子をもうけ、家庭を持ち、それで尚も俺たち夫婦を支えてくれると言うならばそれは喜ばしいことだが、最優先は自分の家族を優先して欲しい」
「私は、一生殿下の下に!」
裕進様は叫んだ!
「私も同じです!」
「わたくし達も同じです! 凛花様と共に生涯を!」
皆、真剣だ。
「まあ、落ちつけ」
殿下が皆を諫めた。
「国の泰平、民の幸せが余の幸せじゃ。それに協力、支えてくれるお主らも同じ宝じゃ。余にとっては皆、我が子。子の幸せを祈るのは親じゃ。だから添い遂げたい者が出来たり、自分の家族になんぞか出来たら、遠慮なく里帰りを申し出よ」




