14.宝剣鳳凰
──そう言えば、前に貰った「鳳凰の短剣」あれって……
もしかして……
凛花は青ざめた。
もしかしてこれも、一本しか存在しない??
う、嘘よねえ?
そう、凛花以外の誰もがその尊さを知っていた。
元々、皇族(皇位継承権ある親王のみ)元服時に意匠の宝剣の「大刀」「短刀」セットで今上より授けられる。
大刀は自分用に、短刀は皇后になる者へ本人からいずれ渡しなさい。と言う意味で。
婚約指輪に近い存在である。
それを、あろうことか凛花は執務室の金庫に保管していたのだ。
なんともな話である。
「鳳凰の短剣」を授ける=プロポーズの意味であったのだ。
「凛花?」
光の君が、凛花の様子がおかしいことに気づき、顔を見る。
「いえ、大丈夫です」
私は、精一杯の作り笑いで答えた。
「殿下、差し出がましいようでは御座いますが、大刀はともかくとして、宝剣は流石に新しく御作りになるほうが宜しいのではないでしょうか?」
先程、遅れてやってきた元太政大臣宰相の為時様が提言する。
うんうん。皆頷いていた。
「要るか? あれ? 剣としての価値は全くないぞ?」
「殿下……」
為時様は、殿下を悲しそうな目で見た。
うん。この人は殿下には必要な存在だ。
相談役に任命しましょう!
この時、凛花は勝手に決めていた。
「早急に新調します。意匠の絵図をお願いしても宜しいですか? 光潤様?」
為時は、敢えて御名を呼んだ。本来なら赦されない行為だが、お立場を考えて下さいとの彼なりの抗議である。
光様の良いところは、出自や親の地位などで優遇は絶対しない。
ある意味、徹底した能力主義者だ。
かと言って(元の)能力が無いからと言って、切り捨てることは絶対にしない。本人が努力しているなら、素質に合う職を与える。
だが、効率重視なので無駄な根回しや、長々と体裁ばかり気にした会議は嫌う。
ただ、その分「無駄」を徹底的に削ぎ落とす面があり、時には周りから反感を買うことがある。
間違えたことはしていないが、何事も一気に改変するのは中々難しい。
「無駄な金よの……」
殿下は、少しだけ悔しそうな顔をされたが、流石にそこは折れた。
支宣様は、下賜された宝剣鳳凰を静かに養父である為時様に差し出したが、為時様が首を振った。
一度臣下に下賜した物を、次期帝が再度手にすることはないからだ。
殿下が支宣様にそんな大事な宝剣を与えたのは、きっと今までの彼に対する最大限の感謝だろう。
「ってさあ、宝剣より俺今、一本も刀無いんだけど……そっち早く新調してくれないか?」
「はああ??」
「殿下!!」
皆が驚いた声を上げる。
為時様は呆れ顔だ。
「それってもしかして本刀ですか?」
一人の武官が声をあげた。
惟光様の脇に納められている「竜刀」に皆の注目が集まった。
本刀──実際に有事の際にいつでも使えるように普段から手入れしてあり、刃が鍛えられてある真剣のことであった。
皇太子、いや、皇族ともなれば数本の刀は当然所持している。その中でも鍛錬用や、贈答用他レプリカ等、種類は色々あるが「本刀」が一番格式が高く御印の竜胆の紋入り。
「惟光に、本刀以外をやる意味は何処にもなかろう?」
何を当たり前のことを、お前たちは言っているんだ? と言いたげな顔を殿下がされる。
『……』
理は叶っている。左大臣は、いつ何時でも主の盾となる存在。主が「本刀」を抜かなければならないような事態になるようなことは、あってはならない。
「自分が抜くような事態にするな」の意が込められているのは分かるが。
何ともまぁ……
清々しい? 潔い?
それだけ臣下を信頼していると言う意味だろう。
この時、為時様が頭を抱えたのは言う間でもなかった。
「しかし殿下、全く帯剣せずと言う訳にも?」
武官の人にが口にする。惟光様の腹心の方だ。
少しだけ悩んだ顔をした殿下はあっさり答えた。
「うーーん。鍛錬用のでよかろう? 出来るまでだし?」
「……至急新しい本刀の意匠をお描き下さいませ」
為時様が深々と頭を下げた。
物に威厳や見栄を張らない御人である。
自分自身が、最高級のブランド品だからかしら? と、少し羨ましくも思った。
──それから宮に戻った殿下は、サラサラと何やら絵図を描いていた。
本刀の鞘や、柄、鍔の部分はじめ、細かく描かれてあった。
「殿下? その鍔の模様?」
「中々の良い紋様であろう?」
殿下が得意そうににっこり微笑んだ。
久しぶりに見た後光が差す程の気高く、自信に満ちた綺麗な御顔だった。
竜胆の花に桜の花が寄り添うように遇われた意匠。菊ではなく桜にした殿下の意味。
私は、そっと彼の手の甲に自分の手を重ねた。
「鳳凰」の宝剣の方はあまり興味が無いらしく……以前の意匠の下絵を持ってこさせ、それに少し手を加えていた。
刃の身幅にあたる部分に桜の木を描きその周りを鳳凰の番いが優雅に舞う。鍔に竜胆を描きご自身の御名を刀身下方に入れた。
なんとそこに私の名前も入れたのだった。
「宜しいのですか?」
「何がじゃ?」
殿下は手を握ったまま、少し眠そうな目で答えた。
あれだけの事件の後だ。
後処理含め、一番心労したのは殿下に違いない。
「マッサージします?」
「……ならば宮に戻るか」
「……」
「一応……支宣に言っておくかのう」
「一応って……」
私は恥ずかしくなり俯いてしまう。
以前の殿下の身体を思い出してしまう。
「そうなっても良いように……」
「……」
「まだ、日が高こう御座います……」
「ならば、夜来るか?」
「……」
先程から心臓の音を聞かれてしまうのでは? と思うぐらい、激しく飛び跳ねていた。
殿下の即位まであと八ヶ月弱。その後、婚約の儀を行い、四月に結婚の儀の予定だ。
結婚の儀まではあと一年弱ある。
今からこんなにドキドキしていて身体がもつのか? が心配になる。
それぐらい、艶めかしい顔で見つめてくるのだ。
「やはり今日は、ね? やめときましょう ほら? ね?」
なんだかよく分からない言い訳をして、私はそそくさと立去った。
第五章(完)
第五章(完)になります。次回からはついに二人の関係に進展が?
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