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はじまりの刻 ~堅物姫と麗し皇子の秘め事の始まり〜甘美な世界でイケメン皇子に溺愛される〜美しの君は実はドS皇子でした〜  作者: 蒼良美月
第五章 東宮編

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13.下賜

 ──「また、西国か……」


 殿下が、大きなため息をついた。

 西国……()()事件の国だ。


 あれから少年に尋問し、素直に何でも答えているらしく、何でも私に会ったのは、両親の営んでいた「一休」の前で腹を空かして座り込んでいた時に、私に声を掛けられ、食事を取らせて貰ったらしい。そのことは覚えている。ただし、黒髪の男の子だった。


 先日の彼女? いや、彼は明らかに髪は金髪? いや銀に近く、目は薄い青。

 どうみても西側のルーツの者だった。

 この国ではその様相が目立ち過ぎるため、髪を染め、顔に泥を塗っていたそうな。

 手足に打撲の痕が多くあり、いじめにもあっていたようだ。


「処刑されるのですか?」


 私は殿下に恐る恐る聞いた。

 聞くのは間違えているとは思う。ただ……何か気になったからだ。

 殿下は無言だった。

 それが答えだ。


 まだ疑問点が多く、何故西国から来たか? 例の事件との関係性も含め謎が多すぎる為、暫くは尋問が続くと惟光様より聞いた。




 ◇



 結が一週間の謹慎を終えて戻ってきた。

 殿下が彼女に伝えたかった意味。


 ああなった以上誰かが責任を取らなければ終わらない。

 殿下が悪役になれば全ての幕引きが終わる。

 その重さの意味を彼女は改めて認識したであろう。



「なぁ? 奴は何故文官の試験に応募した?」

 驚きの表情と、少し呆れた表情を殿下が浮かべる。


「……」

 皆が沈黙となる。


 実は今、私達は修練場にいる。

 武官達の新人訓練と、新たな才能の発掘の為だ。


 結の申し出により、女性の護衛官の登用を新設し、その実技試験も行っていた。

 その相手を武官達が行っているのだが、ある一角だけ激しく打ち合いが続いている。


 結と兄である裕進様だった。


「裕進様って武芸も達者だったのね」

「まぁあの結の兄ですしねぇ……」

「ですね……」

 皆が納得した。

 鋭く激しくぶつかり合い、一進一退の打ち合いが続いていたが、何故か皆、安心しきった様子で遠い目で二人を見つめていた。


「右大臣決定だな」

 殿下は満足そうな表情で言い、衣の袖を翻し、もう此処には用がないと言った雰囲気で颯爽と修練場を後にした。


『え?』

 皆が驚いた。その中でも一番声が大きかったのは、惟光様だった。


 だが、その声を聞いたか? 聞かぬか? 殿下は無視してどんどんと前を歩いている。

 皆が、急いで後を追いかける。


 殿下はいつもの政務官室ではなく、式典などにも使われる大広間に入り、皆に背をむけたまま窓の外を眺めていた。

 何となく話しかけにくい空気が漂っていた。

 それは殿下に、と言うよりは……


「首ですか?」

 トイプーがプルプル震えながら主に短くたずねる。



「為時が、辞任を申し出て来た」

 そう言って皆の方に殿下が向いた。


『父上がですか?』

 支宣様と、惟光様も知らなかったようで、驚いた顔だった。


「今上があの感じだからなあ」

 なるほど。太政大臣宰相と言えば、内閣総理大臣の立ち位置に近いが、一番の大事な任務は今上の護衛。その対象が事実上引退である。


「為時には外交の職を担って貰う。と、後輩の育成だな」

 なるほど。元々今上帝の代行として、他国からの使者などと交流していたのは全て為時様だったので適任だろう。


「では、わたくしは用済みですか?」

 再びトイプーがプルプルしながら主を見上げた。


 殿下は、一段高い段に上がりよく通る声で発した。


「太政大臣宰相を命ずる」


 そして自分の腰に帯刀してある、大刀に手を掛け鞘ごと抜いた。


「正式な任命式は後日になるが、惟光に竜刀(りんどう)を預ける」


 そう言って殿下が惟光様の前に、自分が使用していた愛刀「竜胆(りんどう)の大刀」を差し出した。

 異例の申し出に皆が驚き、一瞬ざわついたが、殿下の真剣な眼差しを察し直ぐ静かになる。


 殿下の御印である竜胆の紋様入りの大刀。

 これを持つ者は殿下の名代として、殿下に何らかのことが起こった場合、国で唯一禁軍を率いることが出来る証となる。


 惟光様も片膝をつき、臣下の最敬礼を取る。

「有り難き幸せ」

 そう言って惟光様は大刀を受け取った。


 何故今なのか? は、昨日の件があったからだろう。

 禁軍の全権は今でも今上にある。そしてその名代刀は現在は殿下が持っている。


 現時点では御代替わりをしていない為、仕方がない措置だった。


「では、右大臣には裕進を?」

 惟光様がたずねる。


「今日はその候補を見る目的だったが、良い拾い物だったわ」


 裕進様と結の互角に繰り広げられる打ち合いを見ながら、殿下は、いつになく嬉しそうに笑っていたのを思い出した。

 しかしいつ見てもしかし綺麗な笑顔である。




 皆がほくほくしている中、一人プルプルしている柴犬がいた。


「問題はこやつよのぅ。いつまでも無冠って訳にもいかんしなぁ」


 そう言って殿下は子犬、いや私設側近の支宣様を少し可哀想な子を見る目で見た。


 太政大臣宰相、右大臣共にその性質上、文武両道は必須だ。どちらも陛下の側近、言わば護衛兼任だ。特に左大臣にあたる太政大臣宰相は、寝るとき以外殆どを陛下と共にする。


 本来なら今の殿下の側近と言えば支宣様がその位置ではあるが、如何せん彼に陛下の盾になれる武芸の腕は……


「では、新たにお作りになれば宜しいのでは?」

 私は提案してみた。


 別に脳筋だけが陛下の側近でなくても良いのでは?

 有事の際には仕方ないが、そんなに頻繁に有事なんか無い。寧ろ無いように働く者を新たに任命すれば?


「と、言うと?」

 殿下が私の顔を見た。

 内閣官房長官、女房役である。

 支宣様にはピッタリではないか。


 私は皆に説いた。

「なるほどな。で、名をどうするかよのう?」


 あっさり通った!!


 良いのかこんなので! この国!


 皆で、ああでもないこうでもないと考える。

「「左大臣」と「太政大臣」「右大臣」に分けたらどうでしょう?」


 私は、恐る恐る言ってみた。


『え?』

 皆が戸惑いの声をあげた。


 左大臣と言う地位は本来ない。

 武の頂点が「右大臣」、陛下の側近と内閣総理大臣が「太政大臣宰相」ならそれを「左大臣」と改名し、内閣を統括する官房長官がいても良いだろう。


「左大臣宰相」「太政大臣」「右大臣中尉」で良いのでは? と説明してみた。



 ──再び殿下が壇上に上り、ある男を見ながら少しだけ意地悪そうに言った。


「文官には大刀はいらまい?」


「……」


 支宣様は少し悲しそうな顔を一瞬したが、そこは仕方がないので無言だ。

 皆が、支宣様の肩をポンと叩き、太政大臣就任を祝った。



 すると、殿下が宝刀「鳳凰」の大刀を自分の腰から抜いた。

 と、短剣の「竜刀」も同時に。


「励めよ?」


 そう言って支宣様の前に差し出す。


 宝刀「鳳凰」この国で帯刀を赦されている者はたった一人。

 鳳凰の象徴である本人、光潤皇太子のみだ。


 今上より拝命した宝剣。

 その刀身には殿下の御名が刻まれた複製も赦されない、国内に一本しかない正に宝。

 御身の護り刀に等しい存在。

 それを支宣に下賜しようとしたのだ。


 皆が、一斉に静まり返る。


「で、殿下、流石に此方は……」

 あのポーカーフェイスの支宣様が、青ざめ硬直し、身体は小刻みに震えている。


「余が良いと申しておる。納めよ」


「あ、有り難き幸せで御座います」


 支宣は両膝をつき受け取るが、その両手は震えていた。





















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