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はじまりの刻 ~堅物姫と麗し皇子の秘め事の始まり〜甘美な世界でイケメン皇子に溺愛される〜美しの君は実はドS皇子でした〜  作者: 蒼良美月
第五章 東宮編

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5.二人の思い

 ──夕刻の鐘の音が聞こえた。

 窓の外は日が段々と西の空へと移動していた。


 半裸姿で寝台から起きた男は、その自分の愚かさを悔やんだ。

「何故寝たかなぁあ……はぁ……」

 意識がないところでの自然現象の虚無感。何とも言えない複雑な気持ち。



 綺麗に畳まれた自分の衣の上下。

  恨めしそうに見つめた──


 そして我に返り、着替えを済ます。


「しかし、あれはいかんわ。あれは駄目だ……」


 男は、白く柔らかいものに触れた時の感触、そしてその娘が、自分の太股の付け根近くに触れた時の感触を思い浮かべる。


 ゾクッ。


 一瞬で反応してしまう自分に呆れて呟いた。


「天上人ぞ? 餓鬼か……」


 天を仰ぎ、気持ちを落ち着かせる。

 憂いを帯びた顔は既に消えていた。


 少しづつ橙色に染まって行く空を見ながらポツリと呟く。


「逃げるなよ」


 それは自分自身に言い聞かせた言葉だった。

 もう逃げることは決して許されない。


 元々は最悪刺し違えてでも彼から奪うつもりだった座。

 それが、あっけなく手に入ってしまった。


 ()()が本当に欲しかった訳ではない。

 皇族として、子として生まれた以上、根源の歪みを誰かが正す必要があると思ったからだ。


 例えそれが自分が望んだ道でなくてもだ。


 もう引き返すことは出来ない。

 そんな決意の言葉だった。



 ──ガチャリ


「腹が減った」


 少し俯き加減でぶっきら棒に言う顔を皆が、ニヤニヤと見ていた。


「何だ? お前ら?」


「殿下……打ち合わせが反対で御座います」

 堪らず支宣が立ち上がり側に近寄った。


 その言葉に顔を赤くした彼は、咳払いを一つ。


「何もしてないぞ? やましいことはして? いやしてない。うん、してない」


 途中までは()()()()覚えている。ただ不覚にも途中からの記憶がないのだ!!

 起きたら、布団を掛けているとは言え、下着一枚、全裸に近い状態だったのだ。

 これでは、知らぬうちに赤子ができました! と女に言われても言い逃れが出来ない。


 支宣に衣の着付けを直されながら、彼の目は泳いでいた。


「伽はお立場上、秘め事ではお控えくださいね。此方にも準備と言うものが御座いますゆえ。どうしても()()()()()場合は、ちゃんと後で申し出てくださいね?」


 支宣は表情ひとつ崩さず、真顔で主に言う。


「お、お前……。申し出ろって・・・」

「そうなっても構わんってことか? ならば?」


 彼は、珍しく支宣に真面目な顔で聞いた。


「御止めできるのであれば、お待ち頂きたいですが、無理なら仕方ないのでは? 秘め事を好む()()()()()()()とあれば、話は別で御座いますがね」


 支宣は全く感情を込めず、冷ややかに主に答えた。


「変わったご趣味って……おまえ……」



 主が言葉を詰まらせているのを知りつつ放置した。

 ()()()あまり心配ではなかったからだ。

 寧ろ意外と()()()()()()? 主に、最近では少々同情の気持ちさえ湧いてきていた。


 何言ってるんだ? こいつは? 我慢できずに手を出してしまったものはどうすることも出来ないに決まっているだろ? と内心思い、そうなった時の計画も既に頭の片隅には用意してある。


 が、敢えて口にするような男でもないのが支宣と言う男だ。


「凛花様がそれをお受けするのであれば、私共が否を申す立場はありませんので」


「ならば、今夜夜伽の準備をしろ」


 いつもなら主の命に「御意」以外を唱えることはない支宣が直ぐには答えなかった。


()()が主の本意で御座いますならば。後悔ないのであれば従うまで」


 一切の冗談めいた顔もなく、真面目な顔で主の目を見つめる。

 正直支線は驚いた。


 いつもは躊躇(ためら)いなど一切なく、どんな無残な決断でも冷静沈着に、いや、冷酷なまでに即決する主が見せた苦悩とは違い、躊躇いの顔。

 傍に仕えて初めて見た、主の迷う顔だった。

 こんなに純心な、まるで童子のような顔で、躊躇い苦悩する姿を見て支宣は堪らず声をかけた。


「殿下。ご無礼を御許しくださいませ。少し興が過ぎたようで御座います。直ぐに伽の用意をさせて参ります」

 そう言って支宣は主に軽く礼を取り、部屋を出ようとしたその時、主に腕を掴まれた。



「すまなかった。お前のおかげで自分を嫌いにならずに済んだ。今日は一人になりたい。宮へ戻る」


 俯き加減でそう言った主の手は震えていた。

 憂いを帯びた艶かしい横顔は、恐ろしいぐらいの色気だった。



 そろそろ限界かなぁ……

 支宣は何とか良い方法がないか? と心を痛めていた。






 ◇



 ここにも一人悩む女性がいた。


 自宅に早めに帰った凛花は、湯殿で一人悩んでいた。

 彼の背、彼の唇、彼の声、彼の吐息……

 あの時、私は自分の気持ちとは反対に、無理に止めた。

 でないと、平静で居られる自信がなかったからだ。


 今、彼とそうなってしまうと、もう止まらなくなってしまう自分が怖かったからだ。

 彼を求めてしまう自分が。


 法的にはすで夫婦である。紙の上でだけの関係。しかも皇族として神官の前で赦しをもらった正式な物でもない。

 現状、婚約自体まだ極秘な上、結婚の儀すら行ってない秘密の関係だ。

 もし、そんな状態で妊娠でもしたら?


 湯の中に埋もれる。

 そしてプルプルと頭を振り我に返る。


「駄目に決まっている」


 ()()だけは絶対に避けねばいけない! 

 と、強く決意した。








次回は再び、光の君と支宣くんの絡みの回になります。

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